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二十五話  オルディング商会での日々 4


「おう、アレだけ調子に乗って啖呵切ったんだ、それなりの落とし前付けてくれるんだろうな?」


半ば腕を切り落とされ、のた打ち回っていた男を蹴り飛ばした小次郎は仰向けになった男の鳩尾付近に左膝を乗せ加重を掛ける。

刀の峰に左手を添え、切っ先を喉元へ突きつけた。


《うげぇ、ぐぅっふう》


「おい、聞いてんのかよ」



《オオヒラ殿、もうその辺りで止めてくれると有難いのだがな》


「あぁ?」


掛けられた声に反応し、ぱっと男を飛び越え前転、立ち上がった時には既に斜の構えに取っていた。

声を掛けてきた方を確認すると、ジョルジュが若干呆れたような笑みを浮かべていた。


「お、これは失礼を」


斜に構えた刀を一閃して血振りを行いウェストポーチから取り出したペーパータオルで拭い鞘へと納めた。


《ずいぶんと派手にやってくれたな、先日といい見事な手並みだ》


「見てたのなら止めて下さいよ全く、私は見世物じゃないんですから」


《なに、今着いた所だ》


困ったような、それでいて嬉しそうな顔でジョルジュは小次郎に事の次第を尋ねてきた。


《で、なにが原因でこうなったんだ?まあ、大体は判るが役目柄聞かなきゃならんのでな》


ジョルジュの後ろから追い付いたアイリスが小次郎の腰に抱きついて来たのを「面倒な事ばかり起きて済まないな」と言いつつ頭を撫でている。


「こいつら、当り屋ですよ」


《当り屋?なんだそれは》


「知らないのですか、偶然を装って相手にぶつかって持ち物が壊れたとか怪我をしたとか言って金品を要求する奴等の事ですよ、私の国ではそう言う奴等の事を当り屋と呼んでいました。どうもこの辺りを縄張りにしてるような事言ってましたよ?調べればそう言った事案がそこそこ出てくるんじゃないですか」


小次郎は面倒臭そうに倒れた男達を見ながら説明をすると、ジョルジュは《おい》と言って後ろに控える男へ視線を送った。


《は、数年前から年に数回ほどそのような事案が報告されていたかと思います、被害者が住民ではなく他の街等から来た者ばかりであったと記憶しておりますが…》


後ろに控えていた男はスラスラとまるで報告書を読んでいるかの様に似た事案が有った事を報告する。


《つまりは余所者ならば長くこの街に滞在する事は無いから狙い目だった、と言う事か。詳しくは詰め所に戻ってから聞くとするか…聞ける状態かは別として》


小次郎に斬られた男達は警備隊によって止血がなされ、縛り上げられている。

ジョルジュは最悪な相手に手を出したものだと哀れみの念が多少混じった視線を向けるのだった。


《済まんがオオヒラ殿、君にも来て貰う事になる。少々付き合ってくれ》


「それは構いませんが…あー、済みませんがこいつらに刀の手入れ費用って請求出来るんでしょうか?」


《はぁ?》


「いやぁ、刀身に血が付いたから血曇りが出てる筈なんですよね、そうなると砥石を使って作業をしないと汚いままなんですよ」


《なんだそりゃ、そんな面倒なのかその剣は》


「ええ、他の物を斬った程度ではそうでもないのですが、血だけは駄目なんですよ。しかも、放置するとあっという間に錆が出ますしね…今は拭い落としましたし、拭った紙にも油を染込ませて置いたので帰ってから手入れすれば、まぁ問題ありませんが放置すると後で高く付きます」


《どれ位だ》


「今の状態なら…金が約4500円。。。。化粧直しが4万位だから…金貨2枚半って所ですかね」


《おいおい、幾らなんでもそれは高すぎるだろう。》


「そうですね、高いと思いますよ。でも、錆びさせたら…10枚…いや、12枚位ですかね、掛かります」


《一般的な平民の年収がだいたい金貨で10枚位なんだぞ?何でそんなに掛かるのだ》


「あー砥石がですね、最低でも7種類から8種類使います。物によってはもっと、さらに其の他にも道具等が要りますし、最低限の技術を身につけるのに3年は掛かりますからね…」


金剛、備水、改正、中名倉、細名倉、内曇、地艶、刃艶、拭い、磨き、刃取り、ナルメ…砥ぎの工程を思い浮かべながら小次郎はジョルジュへ説明をしていく、刀匠としては勿論、刀剣研磨師としても優秀だった師匠にダメ出しされ続けた日々を思い出し多少ヘコむ。


「私の故郷では刀剣は武器であると同時に神聖な物でもあったのです、ですから穢れたままにして置いてはいけないと言う考えが強いのですよ、刀を血で穢すと言う言葉が有る位ですから」


値段や作業の話をしていて小次郎は気付いてしまった、砥ぎを知り合いに頼めない事を。

小次郎の場合、化粧直しに丸一日、下手すると二日掛かる。

しかも、手持ちの砥石は出先用の小さい物しかないのだ。

怒りに任せ振るった代償は大きい。


「はぁ~まあ、切れ味に直接影響する訳ではないので気にしない人はそのままでも良いのかも知れませんがね、私としてはそれは出来ないのですよ」


警備隊詰所に向かいながらジョルジュへそう説明するのだった。

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