二十三話 オルディング商会での日々 2 小次郎、変なスイッチ入る
ニィーナとメイドに肉の事を任せた小次郎はする事が無いのでアイリスを伴い、初めてコレオスの街を回ってみる事にした。
コレオスはエルン王国、王領の衛星都市で主に工業が盛んな街だとか、その証拠とばかりに何かしらの材料と思われる木材や石材が店の前や空き地に積まれている。
道は門から続く主要な所は石畳が敷かれていたが、一つ通りを入ると締め固められた土の道が殆どだった。
道の端には雨水が流れる側溝があるのみで、流れを制御する集水枡などは無く強い雨が降ったら排水が追いつかずに下流が溢れる事になるだろうと思われた。
あまり裏や奥の方に行くと碌な事になりそうも無いので成るべく大通りに面した辺りを回る事にして、テンプレな騒動に巻き込まれないようにしようと小次郎は辺りを見回しながら大通りを進んで行くと大きな広場に行き当たった。
広場は多くの人が行き交い露店が立ち並んでいた。
ふらふらと気の趣くままに並べられた商品を見て回っていると横から嫌な雰囲気を放つ2人組の男が近づいてきて、小次郎に当たって来ようとした。
ひょいとそれをかわすと男はそのまま倒れこんで込み、わざとらしく手に持っていた荷物を放り出した。
投げ出された箱は地面に落ちると、中身が見事に砕ける音がして箱から飛び出した。
《ああっ》
小次郎は知らぬ振りを決め込み、そのまま立ち去ろうとしたがもう一人の男に呼び止められた。
《やい!てめえ、なんて事しやがる》
(やーなんか、典型的過ぎる当たり屋だな)
呆れつつも「私が何か?」と聞き返した。
《しらばっくれんじゃねぇ!手前ぇがぶつかったせいで商品が駄目になったじゃねえか!》
「私がその男にぶつかったと?」
《おうよ、逃げようったてそうはいかねえ、きっちり払うもん払ってもらわねえとな》
そう言うと小次郎に掴み掛って来たがヒョイっと交わし逆にその手を捕るなり投げ飛ばした。
《グヘェ》
《て、てめぇこんな事してただで済むと思ってんのか》
「私は貴方方が近寄ってきたときから観察してましたが、明らかに狙ってぶつかろうとしましたよね、それと、私は避けましたのであなた方にはぶつかっていません」
小次郎は冷たく言い放つと左手を鍔元に回し、いつでも鯉口を切れるようにして威圧した。
《こ、この野郎》
投げ飛ばされた男は起き上がり様、腰から短剣を抜き小次郎に向けようとしたがそれは叶わなかった。
腰の短剣を引き抜くのが見えた瞬間、小次郎は引き寄せていた柄に右手を寄せ、するりを鞘を引きそのまま半身を切り様に相手に手元へ向けて右手を突き込むように向けた。
鞘から放たれた刀は、小次郎に向けられようとしていた短剣へ一筋の光となって走る。
「パンッ」と小気味良い音と共に男の短剣は根元辺りから切断されて無くなっていた。
《ヒッ》
「剣を抜いたからにはそれなりの覚悟ってもんが有るんだよな?」
喉元に切っ先が触れるギリギリの所で問い詰めると箱を持っていた方の男が小次郎へ向けて啖呵を切った。
《この街で俺達に楯突いてただで済むと思ってんのか、俺達をいったい誰だか解ってるんだろうな》
「あ?なんだ、お前ぇら筋者んか」
《なにいっ!》
小次郎の中で何かのスイッチが入ってしまった。
小次郎の実家は元土建屋である、戦前からの。
古い土建屋と言えば屋号に「組」や「興業」が付くものが多い、ご他聞に漏れず小次郎の実家も「組」が付く。
組が付く職業で有名なのは勿論アレな商売だが、古い土建屋とは切っても切れない関係がある。
その地域でのならず者達を管理し、職業を斡旋するのもそう言った人達の仕事だし、その手の人達が気軽に働ける職業といったら土建業なのだ。
幼い頃から現場へ出入りし、そう言った男達に可愛がられて育った小次郎である。
地元を取り纏める組長や若頭にも相当世話になっている。
しっかりとした筋者は堅気には通常手を出したりしない、いや……小次郎の回りに居た男達は少なくともそうだった。
地回り等が頻繁に担当地域を回って来ていたのだ。
何か問題があれば警察よりも親身になって対応してくれ、その代わり「みかじめ料」等を年に数回其々が納める訳だが。
特に小次郎の祖父が社長の時代、組長が若い頃に刑務所へ収監され、その子分達が食うに困っていた時に全員を雇い入れて出所まで面倒を見たという経緯が有り、みかじめ料等は一切要求せず困った事があればいつでもと気に掛けてくれていた存在なのだ。
なので、威を張るだけで何もせず他人に迷惑だけしか掛けないような奴等は小次郎にとっては筋者等ではなく単なるゴミなのだ。
「筋者んにしちゃぁ、ずいぶんとお粗末なまねするじゃねぇか、堅気に手を出すとはふざけた真似しやがって、手前ぇらの頭は相当に腐った野郎なんだな」
いきなり口調と共に雰囲気ががらっと変わった小次郎にアイリスは驚きつつも邪魔にならないようにそっと傍から離れる。
騒ぎが始まる前に小次郎がそっとアイリスの背を押し、自身と離れた位置に取って構えたので係わり合いが有る者なのか他人からは判別が付かなかったのが幸いした。
アイリスは街の治安維持を担当する警備隊の姿を求めて走り出した。




