閑話 2
工業都市コレオス警備隊々長
私はコレオスの街で警備隊の隊長として奉職している。
コレオスはエルン王国の王領、首都北方にある工業都市だ。
私はこの都市警備隊における10有る部隊の半数を統括管理する立場でも有る。
王宮を追われこの閑職に就いてしばらく経つが、やる事と言えば近隣の主要街道の見回りと魔物の討伐、盗賊の探索及び討伐くらいのものだ。
都市内の警備はもう半数の兵力を受け持つ隊長が請け負っている。
よって、主な職務といえば見回りしかない。
とは言え一度にすべての部隊が出る訳ではない。
1部隊は休暇、2部隊は有事に備え常に待機している状態だ。
見回りに出るのは2部隊を当てている。
今日も退屈な一日が始まると思っていた・・・・。
だが、朝から魔物の襲撃が近隣で起こった旨の報告書が届けられた。
街から北西にあるポルテ村にワイルドバーが率いるレザーバックの群れが襲い掛かったと言う物だった。
報告書によると数年前に同じくポルテ村を襲った魔物だった、と言う事だ。
だった、という事は既に事案としては終わっている。
詳しく読んで行くとたまたま村に滞在していた行商人によって群れは壊滅、群れを率いていたワイルドバーは一刀の元に斬り倒されたと言うものだった。
始め、行商人が乗る馬で牽かずに走る馬車で群れを蹂躙し、ワイルドバーも跳ね飛ばしたと言うのだ。
動けなくなったレザーバックとワイルドバーは成す術も無く仕留められたと有る。
俄かに信じがたい話ではあるが、報告書を上げて来る者も馬鹿では無い、それなりに信憑性のある証拠があったのだろう。
その行商人が乗る馬車は白くて大きな物だったとも。
馬で牽かずに走る馬車など聞いた事も無い。
何やらおかしな事が起こり始めているのではと思いつつ見回りに出る部隊に注意を喚起する事にした。
事が起こったのは夕方になった頃だった、門を警備する部隊から白い大きな何かが門に近づいたがその後、離れて行ったという物であった。
夜間では見失う恐れが大きい為、翌朝から調査部隊を送る事にしてその日の業務は終了した。
だが、翌日の夜明け頃の事だった。
王国指折りの商人であるクラウス・オルディングが盗賊に襲われ負傷したと出勤前の私の邸宅に部下が駆け込んで来た。
取り急ぎ動ける部下を集め、現場に向かう事にした私が目にしたのは報告書にあった白く大きな塊だった。
車輪のようなものが付いている事からこれが報告書にあった馬で牽く事無く走る馬車であろう事は想像するに難しくない。
その馬車の横にはテントが張られ、馬車の持ち主と思しき男とクラウス殿とが暢気に会話を交わしていた。
とりあえずガタイは良さそうだ、盗賊等から感じるような嫌らしい雰囲気も感じられない。
この男が報告に有った者と同じならば、かなりの使い手である筈、多少は無聊の慰めになるのではと私は男達の元へ向かう事にした。
この歳になってくると上の者は皆衰えて引退、若しくはこの世を去ってしまっている。
若い者達はまだまだ相手になる程育ってきていない。
私は「絶好の獲物を見付けた!」そう思ったのだ。
挨拶もそこそこに、多少無礼とは思ったがこのオオヒラと言う男に手合わせを申し込んでみたのだが、大当たりのようだ。
真剣を使わないのならばと持ち出した軽く太い葦のような物に革袋を被せた物を持ち出して、それで手合わせをしようと言うのだ。
確かにこれならば多少強く当たったとしても大怪我にはならないだろう。
そう思い、会話の途中にも拘らず打ち掛かって見た。
その結果から、オオヒラはとんでもない者だった。
打ち掛かった筈がスルリとかわされたのみならず、オオヒラは私の脇に剣を軽く押し当てながら通り抜けた。
会話中、彼は左手でこの「フクロシナイ」と言ったか、を逆手に下げていた筈だ。
一瞬だが鞘から抜くような動作が見えた気がしたがその後、どうやって私の右脇に剣を持って行ったのか理解できなかった。
この瞬間、私と彼の技術差はかなりの物だと実感した。
もうそれからは私の息の続く限り挑み続けた。
打ち掛かり肉薄した所から頭突きをお見舞しようとしたら、その勢いのまま宙を舞っていた。
突きを入れた腕に手を載せられたと思った瞬間、何故か抵抗できずに背中から地面に叩き付けられた。
最も驚いたのは剣を打ち合わせた瞬間、力を入れている筈なのに勝手に腕が下がってしまい剣を抱くような格好にされ、そのまま斬り下された時だ。
剣を私に押し付けたまま、彼が切り下ろすと私の体は腰が砕けたように成す術も無く崩れ落ちたのだ。
私はもう何もかも忘れ、夢中で彼に挑み続けたが流石に息が続かなくなった所でまた投げ飛ばされてしまった。
顔がにやける、ここまで一方的にやられたのは久しぶりだ。
《満足頂けましたか?》オオヒラ・・・いや、オオヒラ殿が私に声を掛けてきた。
目を向けると彼は汗一つ掻いていない、全く呆れた強さだ。
私はこれから面白くなりそうだと乱れる息と弾んだ胸の鼓動を心地よく感じていた。




