閑話 1
ハーフエルフの少女
私の名はアイリス
エルン王国にあるポルテ村で暮らして居ました。
お父さんは村の周りで狩をしたり共有の畑を耕し、村のみんなが作った物を街に売りに行くお仕事をしていました。
お母さんはとてむすごい錬金術師で、よくお薬を作っていました。
お父さんとお母さんはとても仲良しで、今考えても当時の私はそんな両親に可愛がられていたと思います。
数年前、村の子供たちと森でお薬の素になる薬草を集めている時に魔物に襲われて、子供たちを守るために逃げ遅れて殺されてしまいました。
村に帰ってきたお母さんは布にくるまれてとても小さくなって帰ってきました。
お父さんは私に見せられる姿じゃない、お母さんが悲しむから見ないであげてくれと言ってお墓を作って埋めました。
それから数年、お母さんが居ないのは悲しかったけどお父さんと二人でがんばって来ました。
お父さんはエルフ族の血をほんの少し引いていて、お母さんはとても濃い血を引いていたそうです。
その為か私の見た目もエルフ族の血が色濃く出ていて、耳は長く髪は金髪、目は緑色です。
小さい頃は誰も気にしませんでしたが10歳頃からでしょうか、周りの態度が変わってきました。
それでも村長さんや何人かの人は変わらずに可愛がってくれました。
ある日いつものように私はお父さんと村で作った物を街へ売りに行く為に村に一つしかない馬車で出掛けました。
その時、偶に聞こえる精霊様の声が聞こえてきました。
《来るわ、もうすぐ来るわ》
村を出て森を一度抜け、小山を超えて次の森の入り口に差し掛かった時、突然森からゴブリンの群れが現れて私たちに襲い掛かりました。
お父さんは私を馬車の中に逃げるように行って馬車の速度を上げようとしましたが、驚いた馬が暴れてうまくいかない間にゴブリンに馬が殺されてしまいました。
お父さんは必死に追い払おうとしていました。
《ほら、すぐそこに、もう来るわ、あなたの運命》
その時、小山のほうから何か轟音が迫って来ました。
白くて大きなそれは耳を突き抜ける様な大きな音を出すとゴブリン達を弾き飛ばしました。
でも、その時に一瞬間に合わずお父さんはゴブリンによって大怪我を負わされてしまいました。
白い塊は逃げ出すゴブリンも追いかけて行きすべて弾き飛ばすと止まりました。
ゴブリンが居なくなったので私は急いでお父さんの所に駆けつけました。
お父さんは血だらけでもう助からない事は私の目からも明らかでした。
必死にお父さんおとうさんと泣きじゃくりながら呼びかけました、でも弱々しい声で何とか返事が出来る位で殆ど口が聞ける状態ではありませんでした。
これが私の運命だと言うのならなんて酷い運命なのでしょう。
私はひとりぼっちになってしまいます。
大好きなお母さんと死に別れ次はお父さんとも死に別れるのが運命だと言うのでしょうか。
《泣かないで、私の可愛いアイリス、今の悲しみよりもっと大きな幸せがきっと来るわ、だから悲しまないで》
精霊様の声が私を慰めてくれます、きっと私には理解できない何かが解っているのでしょう。
ゴブリン達を跳ね飛ばした白い物は乗り物でした。
その乗り物から黒尽くめの人が降りてきて倒れているゴブリン達に止めを刺して行きました。
そして、私達の元へ駆け寄るなり兜の前を開けて声を掛けてきましたが私には何を言っているのか全く解りません。
一度乗り物に戻ったその人は兜を脱いで何かを持ってきました。
横たわるお父さんに色の付いた水を掛けます、薬か何かなのでしょうか。
水で傷口が洗い流されましたが傷から次々と血が流れ出していきます。
男の人は何かを言っていますがよその国の言葉なのでしょう、すまなそうに頭を横に振りました。
お父さんは私の事を頼む頼むと言いました。
男の人は私を見た後お父さんの手を取って頷きました。
少しして、お父さんは息を引き取りました。
とうとう私はひとりぼっちになってしまいました。
私は泣きじゃくってお父さんにしがみ付きました。
《泣かないで、悲しまないで、この人が貴方をきっと幸せに導いてくれるわ、私もずっと傍に居て見守るわ、だから泣かないで》
こうして私は大平様と出会ったのです。
お父さんが残した借金を無かった事にしてくれて、奴隷として売られる筈の私を引き取ってくれただけでなく色々な事を教えてもくれます。
そして、とても優しくしてくれます。
私はきっと幸せなのでしょう、でも出来る事ならばお父さんもお母さんも生きていてくれればと、そう思わずにはいられません。
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とある剣士の言
俺はエルン王国の工業都市、コレオスを根城に活動するとあるパーティーに所属している。
コレオスは王国首都の北に有って近くに迷宮を抱える要衝だ。
俺達のパーティーは中級に成り立てで、ようやく冒険者として食って行けるようになったばかりだ。
中級になる少し前、運よくギルドで紹介を受けた商会の夜警と言う仕事も1年近く請け負い信頼を得て、月契約から年契約になった。
危険な迷宮にしょっちゅう通わずともある程度の安定した収入を得られる様になった矢先、それは起こった。
商会長が出先で偽の情報を掴まされ、急ぎ戻る途中に襲撃されると言う事件だ。
俺たちとは違う護衛が付いていたが、そいつらは全滅したらしい。
運良く近くに居た行商人の助けを受け、腕を折る大怪我だが命に別状はなく済んだ。
俺たちは日中にもかかわらず、急遽商会の警備を増やすとの事で呼び出された。
ここ数日は迷宮に向かう準備の為、近郊への魔物狩りに出ていなかったから治療所へ出稼ぎに行っている奴を除いてすぐに商会へ集合した。
商会には商会長を助けた行商人がコレオスの警備隊々長と共に警護しながら戻ってきた。
その行商人は変わった馬車に乗っていてた。
およそ商人らしからぬ風体で、冒険者と言った方がよほどらしいと思った程だ。
黒尽くめの革の上下、頭は丸坊主で変わった形の剣を腰に巻いた帯に差し込むようにして提げていた。
夜が更けて暫く、もう少しで夜明けと言う頃になって行商の男は泊まっている筈の商会長の館から出てきた。
俺達はそんな時間に館から出て来た事を訝しく思い男を見張る事にした。
男は自分の馬車から木剣を取り出し、何を思ったのか中庭で木剣を振り出した。
最初は呆れる程ゆっくり、それこそ止まって見える程だった。
20刻もそうしていただろうか、すると一度軽く休みを入れ型のような物を始めた。
見たことの無い型だった。
一瞬にして左右が入れ替わり振るった事は見えるのだが、どのように振ったのか瞬く間に木剣は振り下ろされていた。
左頭上に構えていた筈の剣が一瞬にして右下からの切り上げに変化したり下にだらりと下げていた剣が次の瞬間には左に切り下しになっているのだ。
見えている確かに見えているんだ。
なのに、どう体が動いたのか皆目見当が付かない。
そうこうしてる間に木剣の型を終え腰に剣を差し込んで真剣で型をやりだした。
真剣での型は鞘に剣を納めた状態からの抜き付け、切り下ろしが主体になっているらしく毎回切り下ろした後は鞘に仕舞う。
最初は木剣と同じでゆっくりだった。
それこそ見ているこっちがじれったくなる程ゆっくりだった。
だが、少しして変化が出てきた。
一通り型を終えた後、また同じ型をやっているようなんだが、少し違うように見える。
だがそれだけではない、見えないのだ。
確かに剣を鞘から抜いて切り下ろす、それは変わらない。
同じ動作のように見えるのだが端々が見えないのだ。
そのうちに一通り型を終え、またはじめに戻ると思った瞬間・・・剣が煌いた。
何が起きたのか全く解らなかった。
だが耳は確かに短く2度の音を聞き取っていた。
違いなく抜き打った後もう一度、切ったのだ。
既に剣は鞘に収まっている。
先程の動きとは全く違い何時抜いて仕舞ったのかが全く解らなかった。
いつの間にかじっとりと汗をかいていた、横に居るオイゲンもかなり緊張しているように見える。
男は一通り型を終えると剣を腰から外し、剣の確認を始めた。
男が手にする剣は俺たちが使うも者とはかなり形が違った。
刃は片側にしかなく、反っていた。
材質も青銅ではなく鉄のようだ。
良く手入れがなされているのか、その剣は夜明け前の空からの光を受け美しく輝いていた。
身震いするような美しさだ、名工の手による作なのかもしれない。
一通り手入れを終えるとまた木剣を手に男はまた素振りを始めた。
俺達は夢中になってその稽古を覗き見ていた。
少しした頃、男はいきなり俺達の方を向くと同時に何かを投げ付けて来た。
俺達が影にしていた空き樽にいきなり「ドゴッ」っと重い音が響いた。
一番前で樽の真横に居たレイルはあまりの衝撃に体制を崩して転げ出てしまった。
俺はそっと樽を確認すると棒のようなものが樽を貫通して内壁に刺さっているのが見えた。
とんでもない威力だと男を見ると《覗きとはあまり良い趣味では有りませんよ?》と、俺たちに声を掛けてきた。
俺達はあの日の衝撃を忘れることは出来ないだろう、それ程衝撃的な出会いだった。
もらった煙草も旨かったしな。
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とある商会に勤めるメイドの言
どうしたら、どうしたら良いのでしょう。
由々しき事態です。
今、目の前に居る私の主人・・・オルディング商会会頭、クラウス・オルディングの前で私はうなだれていた。
「つまり、オオヒラ様が私に分けて下さる予定だったこの菓子にまで手を付けた・・・と」
「・・・・・・はい」
「で、この量になったと」
「う゛・・・・・・はい」
目の前にはオオヒラ様よりクラウス様へと渡されたお菓子が載っている・・・5つだけ。
最初は10枚乗っていたのだ。
しかしっ、あまりの美味しさに負けてつい手を出してしまったのだ。
もうダメだ、せっかく良い職場に就けたと言うのにお菓子の魅力に負けて主人への贈り物に手を付けてしまうなんて。
下手な言い訳等をしようものなら即クビだ。
菓子を勧めた小次郎を恨まずには居られない。
主人・・・クラウス様は怒っている様には見えない、むしろ呆れている様に見える。
それだけに私は恥ずかしい気持ちで一杯になった。
それは、今よりほんの少し前の事でした。
私が勤めるオルディング商会、それはこのエルン王国で知らぬ者は居ないと言う程有名な商会です。
私はコレオスの街でパン屋を営む両親の長女として生まれました。
そんな私がオルディング商会へ入ったのは本当に幸運としか言い様がありません。
たまたま母と商会長の奥様が幼馴染だったというただそれだけ。
たったそれだけなのに数ある応募者の中から私を選んでくれた。
私より優秀な人は沢山いたのに。
その恩に応える為に努力して下働きのメイドから数年掛けようやく商会長のご家族のお世話を担当するハウスメイドに昇格したって言うのに・・・。
そう、あの悪魔はお菓子で私の心を奪い、私を嵌めたのです。
あのお菓子は簡単に作れると言っていました。
ですが、私はあのようなお菓子は見た事も聞いた事も有りませんでした。
私はあの味を忘れることが出来ないでしょう。
そう、あの味を再現できるその日まで。




