二十一話 教育とお菓子
オルディング商会に世話になる事になった小次郎、商品の鑑定が全て終るまでははっきり言って暇である。
暇に飽かしてアイリスへの教育に力が入る。
「そう、下の桁から計算をして繰り上がる数字を小さく書いておくんだ。そうしたら上の桁の計算をして同じ様に繰り上がる数字は小さく書いておく、残った数字を足して書き込んで行くんだ」
今アイリスに教えているのは2桁以上の足し引き算。
「残った数字と繰り上がった数字、それを足してまた繰り上がる数字が有る場合はまた小さく書いておいて・・・そうすると大きい数字同士の計算も速く正確に出来るようになる」
アラビア表記の数字を既に覚えたアイリスは1桁の足し引き算は問題なく出来たので桁を増やしてみたのだが、数字が多くなるとやはり躓いてしまった。
《ん・・・うぅぅ、繰り上げた数字を忘れて飛ばしてしまったり単純な失敗ばかりです》
「焦らなくて良い、まずは正確に計算をこなせる事ができるようになる事」
ここエルン王国で使われている文字は数字も1文字で表せる数字を使っていない為2桁3桁の数字までならまだしも、桁が増えれば増える程難解になっていく。
まるでローマ数字・・・いや、もっと面倒だった。
ノール文字と言うらしいが、小次郎ははっきり言って覚える自信は無かった。
そこで小次郎はアラビア数字で計算をさせて答えをノール文字にした方が速いと思い立った。
算数の勉強は数をこなして慣れていくしかないと思っているので小次郎はく○ん式ばりに問題集を作り丁寧に教えていく・・・・・・。
コンコン
「どうぞ」
部屋のドアがノックされ返事をすると昨日案内してくれたメイドが入って来た。
《オオヒラ様、アイリス様失礼致します、お茶のお時間ですが如何なさいますか?》
そう言われ時計を確認すると10時を少し回っていた。
朝食を食べてからすぐに、8時頃から始めていたので2時間と少し経っていた。
休憩を取らず人間が物事に集中できるのは3時間辺りが限界と言う説がある。
根を詰め過ぎても身に良くないだろうと小次郎は休憩を取る事にする。
「では、少し休憩にしよう、ええと・・・名前を聞いていなかった、失礼だが教えて頂けますか?」
《申し遅れました、私エレンと申します。旦那様よりオオヒラ様のお世話をするように仰せ付かっております》
エレンはそう言い頭を下げた。
「ではエレンさん、何かお願いします」
《かしこまりました、お茶菓子は何かご要望はございますでしょうか?》
「うーん、何か甘いものが良いが・・・あ、持ってるからいいや、こっちで用意するよ」
《オオヒラ様がご用意なさるのですか?》
「ああ、車の中にまだあるはずだ、ちょっと取って来る」
そう言うと小次郎は車へ向かった。
「ええと・・・お、シチューの素発見、じゃないお菓子お菓子」
ゴソゴソとルーフBOXに入れたキャンピング用の調味料等が入った発泡スチロールの箱を探るとナ○スコのバタークッキーと○日本食品のチョコ○エールが出てきた。
「おっしおっし、どうせ悪くなるんだからこういうのはさっさと食っちまわないとね」
そう言いつつ部屋へと戻って行く。
部屋へ戻ると既にお茶の用意がなされ、小次郎が戻るのを待っていた。
「お待たせ」
そう言いながら席に着いた小次郎にエレンはカップへお茶を注ぎ差し出した。
「お菓子を載せる皿とか無いかな?」
《どうぞ、こちらへ》
バタークッキーの箱を開け、差し出された皿へ中身を出す。
《大平様、このお菓子?はどういうものでしょうか》
既に小次郎が出してくる食べ物が美味しいと知っているアイリスは興味津々で尋ねてくる。
「アイリス、これはバタークッキーと言う物だよ、バター・砂糖・小麦粉・卵で簡単に作れるお菓子だ、今度時間が有ったら教えてあげよう」
《本当ですか、約束ですよ》
「ああ、オーブンという釜が必要になるからそれが用意できたら教えてあげよう。今日の所は食べるだけで我慢してくれ」
アイリスは我慢できなくなったのか早速口に頬張る。
《んん~、甘くてすごく美味しいです、はあぁぁ~》
先程まで頭を使いっぱなしだったからだろうか、緊張が解けてダメな子になっている。
《大きい数の計算なんて、一度にこんな沢山やったのは初めてですょ~》
「これを繰り返しやって、出来る様にならないと後々困るぞ?今は足し引きだけだが、掛け算と割り算に進むとこの計算がさらっとできないと酷く苦労することになる私の故郷ではこの辺りの計算は6歳から10歳までには習い終えるんだ、すぐにできるようになるさ」
《ぅぅ、がんばります》
《アイリス様はオオヒラ様から算術のご指導を受けていらっしゃるのですね》
お茶のお替りを入れつつエレンはアイリスが広げたノートに目を向けた。
《見た事の無い文字ですが、大平様のお国の文字でしょうか?》
「ああ、こちらのノール文字は数を1文字で表していないので数が増えると難解な物になってしまうから計算には不向きだと思ってね、私の使ってる数字を教えてそれで計算してからノール文字に直したほうが早いと思ったんだ」
小次郎が答えるとノートを覗き込んだエレンは《この一文字々が数を表しているのですか?》と聞いてきた。
「そうですよ、これが1、2,3,4・・・と表記します、10になると0を付けて「10」と書きます、100、1000、10000といった具合に表します。これだと見間違いも少ないですし、慣れれば人によっては見た瞬間に計算を終える事だって出来る様になります」
《なるほど、合理的だと思います。私には知らない文字ですからわけが解りませんが言っている意味は理解できます》
「ちょっとやっとみましょうか、好きな数字を幾つか言ってみて下さい、アイリスちょっとエレンさんが言った数を書いて行って」
《はい、どうぞ》
《では、失礼して・・・30、27、100、200、6》
そういわれたエレンは思いついた数を適当に口にした。
「57、157、357・・・363、合計は363だね」
《ええぇっ》
「いや、今教えてるのをちゃんと出来るようになればこれ位は誰でも出来るようになりますよ、私は計算がそんなに得意な方じゃないですから」
《57に100で157・・・200だから、357・・・6で・・・あ、違う間違えた・・・363、本当です!363になりました》
「エレンさんも確認してみて下さい、そのノートを使って良いですから」
小次郎に言われたエレンは早速、鉛筆をアイリスから借りて計算を始める。
アラビア文字での数式なら16文字で表記できるがノール文字で書かれた数式は数行に及んでしまっていた。
そこからエレンは数分掛けて計算を終えた。
《正解です、三度確認しましたから間違いない筈です》
「ね、速さがぜんぜん違うでしょ、数日しか教えていないアイリスでもあの速度で計算できるようになるんです、結構使えそうでしょ?」
《そっそうですね、算術を習い始めて数日で・・・才能が有ったとしてもこの速度はすばらしいと思います》
「アイリス、よく出来ました。ご褒美に今出してあるこのクッキーは全部食べて良いよ」
《本当ですか、やったーうれしいです》
幸せそうにクッキーを口にするアイリスを横目に先程からソワソワとその様子を伺っているメイド・・・エレンに声を掛けた。
「エレンさん、あなたも一つ如何ですか?」
《いっ いえ、その様な訳には参りません》
「だが、目はそう言っていない様だが?」
小次郎に向きながらも気になって仕方が無い様でチラチラと小次郎と皿に盛られたクッキーとノートを行き来していた。
なんともテンプレな反応に小次郎は可笑しく思いながらもこれを食わせたらお菓子に嵌って抜け出せなくなる彼女の未来が見えた気がした。
「遠慮する必要は無いよ、あなたが食べなければクラウスさんに分ける分を除いてこの子が全部食べてしまうだろうし、バタークッキーの手持ちはこれしか無いから食べたらもうこれで終わり、次は釜を用意できるまでは手に入らないよ?それともアイリスと算術の勉強を一緒にするかい?」
小次郎は自身でも少々意地が悪いと思いつつも食べる事を勧めるのだった。




