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十九話 その日のオルディング商会

小次郎と別れたクラウスは商会の事務室において書類整理を行っていた。



小次郎に貰った薬により痛みは殆ど感じずに済んでいる。

翌日には腕の良い治療師が来る事になっているので不自由なのも今日一日の我慢だ。


数日店を離れていた為に決済をしなければならない物が溜まっている。

さらに、小次郎が持ち込んだ品物が有り得ない程の質と量だったので少々頭が痛い。

宝石類の鑑定は明日から行う予定ではいるが、どう見ても超高品質のものばかりなのだ。


「ルビー大10・・・中13、小30・・・細かいのが176、不透明な原石のこれが1000グランド・・・・」


大きな執務机に机に並べられた宝石に思わず溜息が出る。


「透明度が無いとは言え、こんなでかいの王宮の宝物にだって無いだろう」


思わず手にしたこぶし大のルビーを見つめながら再度溜息を吐く。

手にしている物は1つで2000グランドはあるであろう、それが2つも有るのだ。

ちらりと目を逸らすとそこにはルビー以外の宝石が積まれている。

とてもではないが、クラウスの商会だけでは鑑定の手が回らないと考え、信用の置ける宝石の専門商会へと応援を頼む手紙を出したところではあるが、果たしてそれでも手が足りるか・・・。


だがそれだけではない、今この折れた腕の痛みを止めてくれている薬だ通常、痛み止めは骨折の痛みを抑えられるような物は出回っていない。

意識を失うほどの強い物や中毒性の強い物ならばいくらでも存在する。

だが、与えられた薬は意識をはっきりと保ちながら痛みが全くと言って良い程感じないのだ。

少なくともクラウスは商人としての人生においてそのような薬が出回った事を聞いた事が無かった。

王国で有数の商会の主が知らないのである、その目耳は王国のみならず他国にまで及ぶ。

それなのにそのような薬の存在を知らなかったのだ。


捨て値で良いと検品に廻された衣類もそうだ。

しなやかでさわり心地もよく染色も斑など一切無かった。

恐ろしい程の技術力だ。

しかも彼は行商が本業ではなく鍛冶屋が本業だと言ったのだ。

本業の鍛冶屋では食って行けないので副業として行商を行っていたと。


腰に付けていた剣は反りのある変わった形だった。

華美な装飾は殆ど無く柄以外は黒で統一され、ある種清々しい美しさがあった。

未だ青銅の剣が多い中、鉄製の剣であり彼は「鍔」と呼んでいたが護拳も鉄製の透かし装飾が施された美しいものであった。

剣身に至っては見たことも無い様式の造り込みでこれまた見た事の無い美しい文様が浮き出ていた。

王国内において、これと同等の鉄剣を作れる者は居ないだろう。

いや、国内どころか国外の職人とて同様だろう。


実際に目にした訳ではないが、アイリス嬢が言うには殆どの盗賊は一撃で切伏せられたと言う。

捕縛された賊の傷口は確かに見事な斬り口だった、付ければそのままくっ付いてしまうのではないかと言うほどに。

手合わせを申し込んだ元親衛騎士のジョルジュ殿など、子供のように弄ばれていた。

最後はまさしく子供のように喜んで弄ばれていたが・・・。


だと言うのに彼の国では制約の為に好きに剣を造れず、武芸も評価されず生活に困窮し

副業で行商を行い生活の糧を得ていたというのだ。

これ程の技術者がそのように扱われる国とは・・・。

そして、あの馬を必要としない馬車・・・か。

宝石の山を金庫に仕舞いながらクラウスは今後の事を考えずにはいられなかった。


「これを知ったら、貴族達が黙っては居ないだろうな」


これは間違いなく幸運なのだろうが、大きすぎる幸運はその反動も大きい。

得られる利益よりもこれからの有るだろう同業者や貴族達の反応を考えるとまた溜息がこぼれた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



クラウス邸にて宛がわれた部屋で仮眠を取っていた小次郎はノックの音で目を覚ました。


ベッドから起き上がり「はい、どうぞ」と、声をかけてドアに向かう。

部屋にやって来たのは先程この部屋へ案内してくれたメイドだった。


《オオヒラ様、御食事の用意が整いましたので食堂までお越し下さい》


アイリスを起こした小次郎は翻訳のランプを手にメイドの案内に従い食堂へ向かった。

食堂に入るとクラウス夫妻は既に席についていた。


メイドが椅子を引いてくれたので席に収まると料理が運び込まれて来た。

手を付けて良いのか迷っていると夫妻は手を組み《天と地と精霊に感謝を》と祈り始めた。

アイリスを見ると同じ様に祈っている。

アイリスの家では食事の時に祈ったりなどしなかったがな、と思いつつ小次郎もとりあえず真似をした。


《それでは頂きましょう》


クラウスの言葉によって食事は開始された。


大皿に盛り付けられた料理をメイドたちが其々へと配膳する。

食事を進めながらクラウスの世間話に耳を傾けた。

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