九話 旅立ち
甘い匂いと柔らかな感触中、小次郎はまどろんでいた。
布団の中でもぞもぞと動く感触と声がして意識を覚醒させた小次郎は何かにに巻き付かれているような格好であることに気付いた。
何かとは、言うまでもないのだが「困った」小次郎は呻く。
身動きが取れないのだ。
胸に顔を押し付け、左足にアイリスが両足を絡ませて抱きついた状態で眠っている。
絡められた腿に刺激され息子が臨界に達しようとしている。
(いかん、このままでは超臨界に突入してしまう)
アイリスはそんな小次郎の気も知らず胸に頬を擦り付けて気持ち良さそうに寝ている。
時折動く唇が何とも言えぬ艶があり思わず触れたくなる。
押し付けられた胸は未だ発展途上ながらも確かな柔らかさを伝えてくる。
仕方なく動かせる右手で美しい髪を梳きながら頭を撫でていると、アイリスは目を覚ましたようだった。
未だ眠たげな目で小次郎を見るとそのまま、にじり寄ってキスをした。
唇を啄むかの様にやさしいキスを続けている。
小次郎は何が起きたのか解らず硬直し、されるがままになっていた。
すると、ぼんやりとしていたアイリスの目がしっかりとした意思のあるものに変わり、小次郎と目が合うとアイリスは一瞬にして茹で上がり硬直した。
唇を合わせたまま何とも言えない時間が流れたが、プルプルと震えだしたアイリスはがばっと起き上がり、後ろに下がろうとした。
「うごっ」
「□、□□□」
急に下がったアイリスの股間が絶賛臨界運転中の小次郎ジュニアに激突した。
「あ゛あ゛あ゛」
「□゛□□」
お互いに股間を押さえ悶絶する・・・・・・・・・・・・・。
アイリスが持ち出す荷物は少なかった。
小さ目のダンボール一つに収まってしまったので助かった。
昼前には出発しようと車の点検をしていたのだが、血だらけでなんとも酷い。
仕方なく井戸の脇に移動させて洗車をする。
車高が高く洗いにくいがお陰でライト周りは損傷が無いようだ。
カンガルーバーとアンダーガードは結構凹んだり大きな傷が付いていた。
ワイルドバーを撥ねた時に付いたと思われる傷は結構大きく、バンパー下のバーとガードは大きく抉れていた。
魔物の血を洗い流し、綺麗にし終わった頃には昼を回ってしまった。
出発に先立ち、アイリスの両親が眠る墓に行き花を手向ける事にした。
墓参りが済んですぐに出立する事にした小次郎達だが、村長が森の入り口まで見送ってくれる事になった。
ゆっくりと馬車の速度に合わせて進む車内で小次郎はアイリスに日本語を教えていた。
「こんにちは」
「こ□いちは」
《発音が難しいです》
「仕方が無いよ、日本語は一つの発音に幾つもの意味が有ったりするから、世界で一番難しいと言われているしね」
《そうなのですか、道は険しそうです》
「ふ~」と溜め息をつくアイリスを横目に見ながら見えて来た森の入り口の少し手前で村長が馬車を止めたので、小次郎も停車した。
「村長殿、お見送り頂きありがとうございます。大変お世話になりました」
《こちらの方こそ、おかげで村は無事、予定外の大収穫もあり大いに助かりました》
「所で、この奴隷引渡し証明書ですが」
羊革になんだか良く解らないぐにょぐにょした文字がかれてている巻革を出していった。
《ああ、それはこの道を馬車で半日進んだところに有る街で登録されると良いでしょう。大きな街には必ず奴隷商が居ります、所有者の登記が行えます》
「この登記を行わず、紛失した場合は?」
《居住地区の長が発行する証書を紛失しますと、奴隷として登記はできませんので通常は再発行の申請を行います》
「では、そのまま放っておけばその者は奴隷ではなく普通の人として暮らせると」
《はい、その通りです》村長はにっこりと笑い答えた。
「よし、ではこうしよう」そう言うと小次郎は証書にライターで火を付け燃え広がった所で放り投げた。
満足そうな笑みを浮かべた村長は《また、近くを訪れる事が有りましたら、是非お立ち寄り下さい。その子の事をよろしくお願いします》と言うと深く頭を下げた。
「大切にします、必ず」
そう言うと小次郎とアイリスは車に乗り込み村長と別れ森に向かった。




