表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タロット占い師は神様に殺され異世界転生  作者: マロンさん
第2章
88/162

第80話 初めてのお客さん

今回は少し長めです。

フォースとロマノフ二人の足の痺れが治ってから『タロット』を開店して数分後のこと。

店の中は四隅に蝋燭立てを設置し良い感じに雰囲気を醸し出し、中央に白のテーブルクロスで覆った脚の長い丸テーブルを置き、椅子をお客さん用と俺用に二つ置いてある。

そうして椅子に座って暫く待っていると記念すべき一人目のお客さんがやって来た。

お客さんは十代後半の女性であり、身長は150センチ後半で背中まで伸びた紫の長髪に青紫色の瞳、服装は白のローブで身を包み皮靴を履き、背中には木の杖を背負っており、一目で彼女が魔導士であることがわかった。


「昨日のショーを観て来たんだけど、店はここであってるわよね?」


「はい大丈夫ですよ。そちらにお座りください」


そう言って椅子に座らせる。


「昨日のショーを観ていたのならご存知だとは思いますが、まずは自己紹介させて頂きます。自分はEランク冒険者であり、この店『タロット』の経営者である礼治と申します」


椅子に座ったことを確認してから自己紹介を始める。


「私はケトラ、Eランク冒険者であると同時に、Eランクパーティー『翡翠の輝き』のメンバーの一人よ」


ケトラさんと名乗った彼女も自己紹介をしてくれた。


「えっと、占ってもらう前に幾つか質問しても良いかしら?」


「はい、どうぞ」


ケトラさんの申し出に俺は即答する。


「ありがとう。じゃあまずは一つ目、今日は無料で占ってくれるのよね?後で金を出せって要求しないわよね?」


「はいご心配無く。詳しく言えば今日と来週の二日間は誰でも無料で占います」


まずは金銭についてであったが、これは昨日の宣伝で言っていた通り、無料であると答える。


「じゃあ次の質問。今からあなたに占ってもらう内容はできる限り、誰にもバラされたくないんだけど、そこは大丈夫でしょうね?」


先程の彼女とは少し違い、なんだか圧を掛けられている感覚に陥った。

どうやらケトラさんにとっては金銭よりも、こっちらのほうが重要なことらしい。


「それにつきましても大丈夫ですよ。先程、店に入られる前に周りに何人かいませんでしたか?」


「ええ、そう言えば昨日のショーに出ていたフールさんだったっけ?その人の他にも何人かいたわね」


「はいそうです。実はお客さんを占っている途中で誰かが盗み聞きしないように見張りをしてもらっています」


実はフール達に今回手伝ってもらっているのは、見張りである。

個人情報が漏れたりしたら店の経営に影響が出る為、フール達には交代で見張りをしてもらっている。

因みに他にもフール達には仕事を任せてはいるが今は置いておく。


「それとこの店を覆っている布には防音対策に魔法を使っています。なので、自分以外にケトラさんの情報が漏れることはありません。勿論、自分が情報を漏らすことはありませんので、どうぞご安心を」


情報漏れの心配がないことをちゃんと伝える。

因みに布に防音対策はフールの扱う『生活魔法(極)』の一つ『サイレント』である。


「それなら信じるわ。じゃあ早速だけどあなたにはあることを占って欲しいの」


ケトラさんは納得すると早速本題に入り始めた。


「さっきも言ったけど、私はEランクパーティー『翡翠の輝き』のパーティーメンバーの一人であって、私を含め弟のリュンクと幼馴染でありパーティーリーダーのジャンと三人で活動しているわ」


三人は昔から仲良しであり、一年ぐらい前に弟さんが成人になったので前からの夢であった冒険者になってパーティーを組んだらしい。


「それでね。実は私、ジャンのことがね…その、幼馴染ではなく異性として前から好きで何回も告白しようとしてるんだけど」


ケトラさんは恥ずかしさのあまり俯いてしまった。


「どうしても直前になって、恥ずかしいからとか、フラれたら次からどんな顔して接すれば良いのかが分からないとか、そんな考えが頭を(よぎ)って中々告白に踏み出せないでいるのよ…はぁー」


ケトラさんは自身の不甲斐なさに溜息をついた。

どうやら占って欲しいことはこのことで確定ぽいけど、念のために確認しておく。


「つまりケトラさんが今回、『タロット』をご利用になられたのは恋愛についての占いをして欲しいという解釈でよろしいですか?」


「ええ、それで間違えないわ。お願いできるかしら?」


「大丈夫ですよ。では早速始めたいと思います」


『アイテムボックス(極)』から母親から貰ったタロットカードを取り出しテーブルの上に置き、あらかじめ準備をしていた桶に入った水で手を洗いタオルで手を拭いた。


「それでは自分がこのカードの束をかき混ぜますので、ケトラさんはジャンさんのことを思いながら、好きなタイミングで『ストップ』と言ってください」


そう言ってから俺はカードをかき混ぜ始めた。

その間、ケトラさんの顔が少し赤くなってきており、どれだけジャンさんのことが好きなのかが伺える。


「ストップ」


暫く混ぜているとストップの声がかかったので、混ぜるのを止め、カードを一つの束に戻す。


「では次にカードの束をシャッフルしていくので、またジャンさんのことを思いながら好きなタイミングで『ストップ』と言ってください」


カードの束を手に取り、シャッフルしていく。


「ストップ」


カードをシャッフルし始めてから数十秒後にストップがはいった。

そこで俺はシャッフルするのを止めて、テーブルの上に左手で三つの束をつくり、反対側から三つの束を左手で一つにまとめる。

そして上から3枚カードをめくり、左から順番にテーブルの上に置いていた板の上に並べていく。

そうして並べられた3枚のカードを見て俺はケトラさんの方を向いた。


「占いの結果が出ましたがその前にケトラさんに一つの質問があります。あなたはジャンさんと男女の関係になりたいと考えていますか?」


「な、何よイキナリ!その質問が占いとどう関係するのよ!////」


俺の質問にケトラさんは顔を真っ赤にし、問い返してきた。


「自分は真面目に質問しています。ケトラさんの答え次第で占いの結果が大きく変わります。なので、正直にお答えください」


ケトラさんの意見を無視し、再度質問する。


「ああもう‼︎ 好きなんだからそうなりたいわよ!当たり前でしょう‼︎///////」


顔をさらに真っ赤に染め、ケトラさんはそう答えた。


「わかりました。では占いの結果をお伝えします。今の状況が続けばケトラさんとジャンさんが結ばれるチャンスは無くなります」


「な!なんでそうなるのよ‼︎<バン>」


俺の言葉を聞いた瞬間、ケトラさんは両手でテーブルを叩き、その勢いで立ち上がった。


「落ち着いてください、理由はちゃんと説明しますので、一旦お座りください」


興奮しているケトラさんをなだめ、なんとか椅子に座らせる。


「それで、なんで私とジャンが結ばれるチャンスが無くなるって言ったわけ?」


「それでは説明しますが、その前に此方のカードをご覧ください」


そう言いながら、俺はカードの乗ったままの状態で、板を回転させてケトラさんの方に向ける。

因みにカードの種類と位置関係はケトラさんが左から順番に見て次のようになる。


左:NO.2『ハイ・プリーステス』逆位置

真ん中:ペンタクルスの6、逆位置

右:NO.13『デス』、正位置


「このカード達は、順番とカードの種類と上下の向きで占いの結果が大きく変わります」


そう説明してから俺は左から順番に説明を始めた。


「まず最初に、左側のカードはあなたの『過去』言い換えれば、どうして告白が出来ないかの『原因』を示しており、このカードの逆位置の意味の一つには『自信の欠如』があります」


「…自信の欠如…?」


自身でも思い当たっていたのか?ケトラさんはそこの部分だけを呟いた。

俺はそのまま説明を続ける。


「次に真ん中のカードは『現在』を表しており、それと同時に今のあなたの状況を表していまして、ペンタクルスの6の逆位置は『タイミングを逃す』と言う意味が込められています」


カードの意味を話すに連れて、彼女の表情が暗くなっていくのを見て取れた。


「そして最後、右側のカードは『未来』を表しており、あなたの近い未来の結果であり、NO.13『デス』の正位置の意味は『離別』を意味します」


ここで一旦間を置いてから結論をケトラさんに伝える。


「つまり、今の結論をまとめると、ケトラさんが自信の無いままではジャンさんに告白するタイミングを逃し。最悪の場合、ジャンさんを他の女性にとられるといった諦めざるをえない状況になると出ました」


<ガクン>


言い終えた瞬間、力が抜けた様にケトラさんの身体は前に倒れ、テーブルに寄りかかる形になった。


〔……嫌だ………〕


ケトラさんは小さな声で何かを呟き始め、俺はその声に耳を澄ませる。


「私はずっと前からジャンのことが好きなのに…その気持ちをジャンに伝えられないまま…知らない女に取られるなんて…嫌だ、そんなの絶対に嫌だ…」


彼女の呟く一言一言がどれだけ彼のことを好きなのかが伺える。

そんなネガティヴ思考の彼女にある一言を掛ける。


「ケトラさん。今の状況ではあなたがジャンさんと結ばれるチャンスが無くなります。しかし、チャンスはまだあなたには残っています」


「‼︎⁉︎」


次の瞬間彼女を身体を勢い良く起こし、此方に詰め寄ってきた。


「どうすればジャンと別れずに済むの!どうすればジャンに告白できるの‼︎」


「ちゃんと説明しますから落ち着いてください。話はそれからです」


「へ?……‼︎ごご、ごめんなさい‼︎」


自身がどういった行動を取っていたかに気づいた瞬間、今度は慌てながら離れていき、椅子に腰を下ろした。


「では一旦深呼吸して、落ち着いてください」


ケトラさんに深呼吸するように促し、ケトラさんが大きく息を吸って吐いてを繰り返し、落ち着いたところを確認してから話を再開する。


「今の状況ではあなたがジャンさんと結ばれるチャンスが無くなってしまうと占いに出ましたがそこはちゃんと理解できていますか?」


「ええ。凄く痛快したわ。確かに今思えば、私は自分に自信が無くて、結果を知るのが怖くて、ずっと逃げていたわね」


「それではあなたが今からチャンスを掴めるように助言させて頂きます」


そう言ってから俺は『ハイ・プリーステス』のカードを手に取る。


「まずはあなたの原因である『自身の欠如』を取り除かなければなりませんが、先程の自分の『男女の関係を持ちたいか』と言う質問に対してあなたは肯定しました。それならその感情に素直になってください」


説明しながら持っていた、逆位置の『ハイ・プリーステス』のカードを逆さまにして正位置に変えた。


「実はタロット占いにおきまして、悪い結果は『警告』に過ぎません。あなたの思い次第でこのカードは逆位置から正位置に変ります」


そう、タロット占いにおいて、悪い結果が出てしまった場合でも、本人が行動を起こそうという強い意志があるのならカードを逆さまに変えることができるのだ。


「『ハイ・プリーステス』の正位置には『感性に従う』と言う意味が込められており、今のあなたの気持ちを自信を持って伝えなければいけません」


『ハイ・プリーステス』のカードを正位置で左側に戻し、次に真ん中のカード、ペンタクルスの6を手に取る。


「『過去』が変わることで必然的に『現在』も変わります」


ペンタクルスの6を逆位置から正位置に変える。


「ペンタクルスの6の正位置には『良いチャンス』と言う意味が込められており、あなたの行動が報われるチャンスが訪れます」


カードを真ん中に置いてから最後のカードを手に取る。


「『現在』で行動を変えたことで『未来』が変わります」


『デス』のカードを正位置から逆位置に向きを変える。


「『デス』の逆位置には『新展開』といった意味が込められており、今までとは違った結果が待っています」


カードを右側の位置に戻しケトラさんに目を向ける。


「つまり、あなたの正直な気持ちを行動で表すことにより、それが良いチャンスに繋がりその結果、何処まで発展するかはわかりませんが、良い結果に繋がります」


ケトラさんの目に光が宿ってきた。


「自分にできるのはここまでです。あとはあなた自身が悔いの残らない行動をしてください」


言い終えた瞬間、ケトラさんは勢いよく立ち上がる。


「ありがとう。あんたのお陰で決心がついたわ。私は今からジャンに告白してくる!」


「え⁈今からですか⁉︎」


ケトラさんの言葉に目を丸くして驚いてしまった。


「そうよ。私はジャンとずっと一緒にいたいの!他の女に取られてたまるもんですかってね!」


ケトラさんは言い終えると手を掴み勢いよく握手をしてきた。


「本当にあんたのお陰で告白が出来そう。本当にありがとう」


すっごい笑顔で礼を言われた。


「助けになれたのなら、自分も嬉しいです。ケトラさんも告白頑張ってください」


「ええ!私、頑張るわ!本当にありがとう!またね!」


ケトラさんはそのまま勢いよく店を出て行った。

彼女の表情は店に入ってきた時とは違い、清々しい表情になっていた。


(俺の占いで、前に一歩踏み出そうとする人を見るとやっぱり嬉しいな)


その時の俺も清々しい気持ちになった。


「よし!この調子で頑張っていくかな」


次に訪れるお客さんを待ちながら、俺はこの店を開いて本当に良かったと思えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ