第76話 宣伝 (2)
「レディースアンドジェントルマン!お集まりの皆様、トランのラッパの演奏はいかがだったでしょうか?」
僕達の目の前に突然現れたのは黒目黒髪の男の人だった。
「自分はこの街『アルバス』で冒険者をしています。Eランク冒険者の礼治と申します。以後お見知り置きを」
レイジさんと名乗った男の人は深々と頭を下げた。
僕はその名前を前に聞いたことがあった。
「ねえカナお姉ちゃん。あの男の人ってもしかして」
「多分あの人だと思う」
カナお姉ちゃんも僕と同じでその男の人の名前を聞いたことがあった。
「本日皆様にはステキな時間を過ごして頂きましょう!」
レイジさんはそう言うなり右の手のひらを前に向け
「『タロットマジック』大アルカナ、NO.1『マジシャン』」
<ピカーン>
何かの呪文を唱えた。その瞬間に眩しい光が放たれ、あまりの眩しさに目を閉じてしまった。
光は直ぐに収まり、目を開いたその時だった。
「初めましてミーはトリックと言いマース。どうぞよろしくデース」
僕は驚いた。だって、光が収まってから直ぐに目を開いた時にいつの間にか広場の中央には、レイジさんの他に、今度は白い服を着たトリックと名乗った男の人がいたんだから。
これには僕やカナお姉ちゃんも周りの人たちも驚いていた。
「これから皆様にはミーとマスターレイジとでお贈りしマース、マジックショーをお楽しみ下サーイ!」
トリックさんは僕達が今の状況を理解出来ていないことを他所に被っていた帽子を取り、逆さにしいつの間にか右手に握られていたステッキの先の方をつばに当てた。
「ワーン、ツー、スリー!」
<ボーン>
その瞬間、帽子の中から勢いよく何かが飛び出し空まで上がり、僕達の手元にゆっくりと落ちてきた。
僕の手元に落ちてきたのは、青色の綺麗な花だった。
「この花々は今日来てくれた皆様へのプレゼントデース!」
トリックさんは両手を高く挙げてから笑顔でそう言った。
「すごーい!ねえ、お姉ちゃんあの帽子の中から花が出てきたよ!しかもあんなに沢山‼︎」
僕は花を持ったまま、周りを見渡しながら興奮していた。
「ええ、すごいわね。私もビックリしちゃった」
カナお姉ちゃんは赤い花を持ったまま驚いた表情を浮かべていた。
周りの人たちも色とりどりの花を持ったまま驚いた表情を浮かべていた。
「それでは次のショーはマスターレイジがご覧にいれマース」
トリックさんは中央の位置から少し離れた。
今度はレイジさんがマジックをするらしく、レイジさんが大人一人が入れそうな木箱を何処からか取り出し地面の上に置いた。
「これより皆様にお見せしますマジックにはこの箱を使いますが、この箱にはタネも仕掛けもないことを証明する為に皆様の中から誰かこの箱を確認してくれる人がいたら、挙手してください」
「ハイ!」
僕は誰よりも早く手を上げて、大きい声で返事をした。
「はい、それでは元気な返事をしてくれた君に確認をしてもらいましょう。では、此方にどうぞ」
「やったー!カナお姉ちゃんも一緒にしよう‼︎」
「えっ⁉︎ちょっとマスト⁈」
僕はカナお姉ちゃんの返事を聞かずに手をとり、レイジさんの所に向かった。
「おやおやー?元気な男の子の他に、可愛らしい女の子も来てくれましたね?お名前を教えてもらってもいいですか?」
「僕の名前はマスト、コッチにいるのが僕のお姉ちゃんのカナお姉ちゃん」
「ええっと、カナと言います。よろしくお願いします」
僕は元気よく自己紹介をして、カナお姉ちゃんはオドオドしながらもちゃんと自己紹介をしていた。
「それでは仲良しな姉弟のマスト君とカナちゃんに早速木箱を確認をしてもらいましょう」
レイジさんは笑顔で頷いた後、僕とカナお姉ちゃんを木箱のある所まで誘導してくれた。
僕とカナお姉ちゃんは二人でその木箱を軽く叩いてみたり、レイジさんに抱えてもらってから中に入って確認したり、最後に木箱の蓋もしっかりと確認したけど、どこも変わった所も無く、普通の木箱だった。
「二人とも、木箱には何か変わった所はありましたか?」
「何にも変わった所は無かったよ」
「はい、私も確認しましたけど、特に変わった所はありませんでした」
カナお姉ちゃんも僕と同じ意見だった。
「それでは確認してもらえたところで、此方のお二人には今から自分がしますマジックを間近で見ていてもらいましょう」
レイジさんはそう言うなり、木箱の蓋を持ち上げてから周りの人たちに見せつける様に蓋を閉めた。
「それではマスト君。木箱の蓋の上に座ってくれるかな?」
僕は指示に従って木箱によじ登り、腰を下ろした。
「はい、今この木箱にはマスト君が座っていますので、蓋をあける為にはマスト君に一度降りてもらわないと蓋をあけることが出来ません」
レイジさんは木箱を指差しながら今の状況を説明している。
因みにカナお姉ちゃんはその間は僕の座っている木箱の隣で立っていた。
「もちろん、自分が蓋を閉める間に何かを箱に入れてたとしたら、マスト君とカナちゃんにバレていますが、それに関してはお二人はどうでしたか?自分が箱に何かを入れてましたか?」
「何も入れて無かったよ」
「私も見てましたが、何も入れられていませんでした」
レイジさんの確認に僕とカナお姉ちゃんは首を横に振りながら答える。
「二人が言っています様に自分は箱の中には何も入れていません。もちろん、マスト君とカナちゃんもです」
周りの人たちもレイジさんの言葉を聞いて頷く。
「でわ、本当に箱の中には何も入って無いんでしょうか?」
レイジさんの言った一言にトリックさんを除く、その場にいた僕とカナお姉ちゃんを含めた全員が理解できていなかった。
だって、箱の中には何も入っていないことは確認済みなのに、レイジさんは遠回しな言い方で木箱の中に何かが入っている的なことをほのめかしていた。
「それではカナちゃん。箱を軽く叩いてくれるかな?」
「わかりました」
<コツコツコツ>
カナお姉ちゃんはレイジさんの指示に従って、木箱を軽く三回叩いた。
普通ならこれで終わる筈だった。
<コツコツコツ>
「「‼︎⁉︎」」
僕とカナお姉ちゃんは驚いた。
だって、カナお姉ちゃんが箱を軽く叩いたら中から何かが箱を叩き返してきたんだから。
これを見ていた人たちも僕達同様に驚いていた。
<コツコツコツ、コツコツ>
木箱に座っている僕も上の方から軽く叩く。
<コツコツコツ、コツコツ>
同じリズムで中から何かが叩き返してきた。
「おかしいですね〜?木箱の中には何も入っていない筈なんだけど叩くと返事が返ってきましたよ?皆様も聴こえましたよね?」
レイジさんは僕達に確認してから、僕を木箱の上から抱えて降ろしてくれた。
「それでは木箱の中に何が入っているのか、確認してみましょう!」
レイジさんはそう言って木箱の蓋に手をかけ、そして蓋を開けた。
『‼︎‼︎‼︎』
僕達は驚きを隠せなかった。
だって、さっきまでは中は空だった箱から金色の長い髪の綺麗な女の人が現れたんだから。
突如として現れた女の人はレイジさんが差し伸べた手を握りながら箱の中から出てきた。
「皆様初めまして。私はレイジ様と同じくこの街で冒険者をしています。Eランク冒険者のフールと申します」
フールさんは自己紹介をしてから頭を下げお辞儀した。
≪パチパチパチパチ…≫
フールさんの自己紹介が終わるなり、周りの人たちは拍手を送っていた。
僕とカナお姉ちゃんも少し遅れてから拍手を送る。
「ありがとうございます。それではこれからはフールを含め三人でマジックをしていきますが、今のマジックを手伝ってくれたマスト君とカナちゃんにもう一度大きな拍手を!」
僕とカナお姉ちゃんは少し恥ずかしさがあったけど、沢山の人から送られる拍手の中、元いた場所に戻った。
〜〜〜
カナお姉ちゃんと元の場所に戻ってからもマジックは続いた。
マジックはどれも驚かされるものばかりで、観ていて全く飽きることは無く、カナお姉ちゃんと一緒に観ていた。
「え〜皆様に一つ報告があります」
幾つかのマジックが終わった時にレイジさんがそう言った。
「実は次に披露しますマジックで本日のショーは終了になります」
その一言を聞き辺りからは『え〜もう終わり?』や『もっと観たーい!』と言った終わりを惜しむ言葉が飛び交った。
「皆様にそう言ってもらえて自分達はとても嬉しい限りです。なので次に披露しますマジックで皆様に最高に楽しんでもらいましょう!」
そう言ってからまた何処から取り出したのかいつの間にか黒い長方形の箱が出現し、レイジさんの手にはロープが握られていた。
「本日最後になりますマジックは『瞬間移動』です」




