第65話 準備の準備 (3)
〜視点:礼治〜
フールが異空間に戻ってから一時間ぐらいが経過した頃、俺は店の設計図を書き終えてからベットで仰向けで横になり少し休憩していた。
その設計図の方は俺が中学生の時に学校の技術の授業で本棚を作るにあたって設計図の描き方を教わっていたためにその習ったことを思い出しながらその要領で描いた割には良い出来だった。
中学生の頃はこんな授業は受けてもあまり意味が無いだろうと思っていたが今では習っていて良かったと思う俺であり、本当に一度きりの人生で何が後に必要になるかなど、わからないものだと実感した。
(まあ、俺の場合は二度目だけどな)
そう思うと少し可笑しくなってしまい、ついつい笑ってしまう。
「お疲れ様ですレイジ様。何か可笑しなことでもありましたか?」
ベットに横になっていたら装備の手入れを済ませたシルフィアが声をかけてきたので上体を起こしシルフィアの声のした方を向くと自分が今まで横になっていたベットの左側にシルフィアが立っていた。
因みに今俺が横になっているベットはシングルサイズの方である。
「ただの思い出し笑いだから気にしなくて良いよ。それよりも装備の手入れお疲れ様、シルフィアはよく頑張ってくれるから助かるよ」
「私にとってレイジ様のお役に立てることはとても嬉しいことです。なのでこれからも私に沢山頼ってくださいませ。<ニコ>」
俺はそう言うとシルフィアは本当に嬉しそうな笑顔で応えてくれたのでシルフィアの頭に手を伸ばしてから
「本当にありがとうシルフィア。<ニコ>」
笑顔で頭を撫でながら礼を言った。
「ハフーーーーーーーー///////」
シルフィアは頭を撫でられるのが好きらしいのでよく撫でているがそのたびに顔を赤く染め、獣耳をピクピク動かし、尻尾をぶんぶん振っているために、尻尾がいつか本当に引きちぎれるんじゃ無いかと心配してしまう俺がいた。
「俺はゆっくりしとくからシルフィアもフールを呼び出す時間になるまでゆっくりしてていいよ」
「いえ、私はまだ大丈夫ですので他に何かやることがあれば私に任せてください!」
休憩をすることを提案してみたがシルフィアは大丈夫と言い張り他の仕事を要求してきた。
「シルフィアの気持ちは嬉しいけど今は他にすることは無いから大丈夫だよ」
「そうですか…<ショボン>」
仕事が無いことを伝えると獣耳は垂れ下がり尻尾は通常の位置よりもさらに垂れ下がり、顔を覗くと眉が下がっていて、身体全体を使い『残念です』とアピールをしていた。
わざとではなく、素のシルフィア自身の気持ちがあまりにも露骨に表れていたので俺はちょっと笑いそうになりながらも、なんとか堪えた。
「そう落ち込んでないで隣に来て座りなよシルフィア」
「ししし失礼します////」
ベットを<ポンポン>と叩いて座るように指示を出すと今度は表情が明るくなってから頬を赤く染めてから俺の隣にシルフィアは腰を下ろした。
「今日は『スライム』討伐から装備の手入れまで一日お疲れ様。今日は本当にありがとうねシルフィア」
「いえ、今日のことは全てレイジ様のお陰でです!」
隣に座ったシルフィアにもう一度お礼を言うと、それに対してシルフィアはこちらを向いて言い張った。
「レイジ様と出会えなければ私は自身の可能性に気付けずにいたんです!それに今日、私が活躍出来たのもレイジ様の御厚意があったからこそ取得できた称号のお陰です」
「確かにそうだけどさシルフィア…」
今回の活躍は全てシルフィア自身のものでは無いと主張したシルフィアに身体を向けてから
「確かに今のシルフィアが強くなれたのは称号のお陰だけどさあ」
そう話しているとシルフィアは真剣な表情でこちらに顔を向けて話を聞いてくれていた。
「その称号を所有しているのはシルフィア自身であって俺じゃ無い。それに『スライム』を倒したこと、『スライム』の居場所を探し出したこと、装備の手入れをしてくれたこと、全てシルフィアがしてくれたことで俺はシルフィアにとても感謝してるんだよ」
それから俺はまたシルフィアの頭を撫でる。
「シルフィアは褒められたら『誰かのお陰で』とか『自身の力じゃ無い』とか考えず素直に受け止めていいんだよ。シルフィアが頑張ってくれたからこそ俺は褒めてるんだからさ」
「私はレイジ様の役に立っているんですか?」
俺が喋り終わるとシルフィアはそう尋ねてきた。
「シルフィアのお陰でとても助かってるよ」
シルフィアが尋ねたことに素直に応えると
「レイジ様〜〜♡」
するとシルフィアは突然抱きついてきた。
「私、レイジ様の役に立ててたならとても嬉しいです!これからも私はレイジ様から頂いた力でレイジ様のお役に立っていきます‼︎」
シルフィアは満面の笑みでそう言ってから胸板に顔を擦り付けてきた。
「ありがとうシルフィア。これからも頼らせてもらうからな」
「はい‼︎」
シルフィアは元気よく返事をしてくれた。
それから暫くの間はずっとシルフィアが抱きついたまま離れようとせず、シルフィアが満足するまで俺は頭を撫で続けていると、フールを呼び出す数分前になってやっとシルフィアは満足して離れてくれたので、すぐに呪文を唱えてフールを呼び出した。
「ただいま戻りました礼治様」
「お帰りフール。伝言はちゃんと伝えてくれた?」
「はい、ちゃんと伝えてきました。また、大アルカナ達は皆、礼治様に明日会えるのを楽しみにしていましたよ」
「俺も明日、家族全員に会えるのは楽しみだな」
フールの報告に明日が楽しみになってきた。
<コンコン>
まるで話が終わるのを待っていたかのようないいタイミングで部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「シルフィアでてくれるか」
「了解ですレイジ様」
シルフィアに頼んでドアを開けてもらいとそこにはぬるま湯の入った桶とタオルを三枚持ったラルファさんが立っていた。
「ありがとうございますラルファさん」
シルフィアはラルファさんから渡された桶を受け取り、ラルファさんは「いつも通りに使い終わったら廊下に出していて下さいね」と言いながら桶で手が塞がったシルフィアの代わりにドアを閉めてくれた。
その際にラルファさんはどうやって桶を持ったままの状態でノックをしたのか疑問に残っていたが今はそれは置いておき、俺達は自身の身体をぬるま湯で濡らして絞ったタオルで身体を拭いてから寝巻きに着替えた。まあ、この時に背後から二人の視線をすごく感じたのは言うまでも無い。
それから俺達はベットに入り眠りについた。
今夜は夜の営みが無いことにフールもシルフィアもすごく残念そうな顔をしていたがシングルサイズのベットとダブルサイズのベットを隙間なく並べて左からフール、俺、シルフィアの順番に川の字に並んでから寝ることで俺はフールとシルフィアの抱き枕状態になることで二人には我慢してもらった。
(さてと、明日から頑張りますか)
そう思いながら俺は眠りに落ちたのだった。