第53話 部屋移動
俺は『狼の牙』を含む計十八人の男達を一人で倒した後フール達と別れた服屋に戻っていた。
時間は俺が服屋を出てから三時間経っており、今は夜の7時である。
服屋の前に着いた時にフールとシルフィア、そしてマリーさんの三人が店からちょうど出てきたところだった。
「っあ、礼治様ー」
俺から先に三人に声を掛けようとしたがフールも此方に気づき右手を高く上げ手を振り先に越されて声をかけてきた。
他の二人も俺に気がつくとマリーさんも手を振り、シルフィアはなぜか素早く二人の背後に移動して隠れてしまった。
「買い物お疲れ様。しかも俺だけ途中で抜け出してごめんね」
俺は三人のもとに駆け寄り途中で抜け出したことを謝罪する。
「いえいえ、レイジ様が謝られることはありませんよ」
俺の謝罪に対してマリーさんがそう応えてくれた。
「レイジ様は他にも用事があったんですよね?フール様からお聞きしました。それに私達はシルフィアちゃんの服選びに夢中になっていましたのでお互いに有意義な時間を送れましたので先程申し上げた通り、レイジ様が謝られる必要はありません」
マリーさんは続けて俺に対して両者ともに有意義な時間を過ごすことができたと言い聞かせてくれた。
「ハハハ、ありがとうございますマリーさん。それにしてもシルフィアと随分と仲良くなったんですね。俺も二人が仲良くなってくれて嬉しいです」
俺はマリーさんに礼を言いマリーさんとシルフィアが仲良くなっていることに自然と笑顔になった。
「わわわ私もシルフィアちゃんと仲良くなれてとても嬉しかったですニャ///」
マリーさんは何故か顔を真っ赤にして恥ずかしさのあまり俯いてしまった。
俺はそんなマリーさんの行動を疑問に思ったがそれよりも気になることがあった。
「なあシルフィア。いつまで二人の背後に隠れているんだ?」
先程からフールとマリーさんの背後に隠れているシルフィアに声を掛けた。
<ビクン>
俺に突然声を掛けられたシルフィアは驚き、更に二人の背後に隠れようとしていた。しかし、シルフィアの行動を見ていたフールとマリーさんは互いに顔を見合わせた後、ニヤリと笑いシルフィアの手を掴み二人の間に引き寄せてから手を放し二人同時にシルフィアの背中を押した。
「あわわわわ‼︎⁉︎」
突然のことに驚き転びそうになるもなんとか体勢を立て直して転ばずに済んだシルフィアであったが、その代わりに今のシルフィア自身の格好を俺に晒すことになったシルフィアでもあった。
「‼︎⁉︎」
今のシルフィアの格好は黒のタンクトップに白のカーディガンを羽織り、ベージュのショートパンツに穴が開いておりそこのところから尻尾を通して履き、皮の動きやすさを重視したサンダルを履いていた。
自分はシルフィアが数時間前とは比べ劇的な変化に驚いてしまった。
「あ、あの!レレ、レイジ様?わた、わ、私の格好はへへへ、変じゃないですか?///」
そんな俺にシルフィアは顔を赤くして恥ずかしそうにしながらも尋ねてきた。
「全然変じゃないよシルフィア。とても似合ってるし数時間前より可愛くなってるよ」
俺は素直に思ったことをシルフィアに伝えて褒めた。
<ボフン>
「ににに似合ってる‼︎かかか可愛い‼︎ハフーー///////」
俺の褒め言葉にシルフィアはまるで茹でタコのように真っ赤に顔を染めて頭から湯気を噴き出した。
そんなこんなで俺達四人は中央広場に向かう。
「今日は本当に楽しかったです。明日はギルドでお待ちしてますので失礼します」
そこでマリーさんは笑顔で手を振りながら東門へ向かう大通りに向かい帰っていくのだった。
因みにフール曰く、マリーさんはギルドの裏にある職員専用の女子寮で寝泊まりしているとのこと。
マリーさんと別れた後、三人で楽しく喋りながら、今自分達が宿泊している『夕暮れの日差し亭』に戻っていった。
俺達は『夕暮れの日差し亭』着いき、中へと入る。
「お帰りなさいレイジさん、フールさん。…あのその子はレイジさんの奴隷ですか?」
中に入ると『夕暮れの日差し亭』のラルファさんがカウンター越しに笑顔で出迎えてくれた後、俺とフールの背後に隠れていた奴隷の首輪をはめているシルフィアに気づき俺に尋ねてきた。
「はい。この娘は世間一般的に見たら奴隷ですが、俺達にとっては大切な家族です。さてシルフィア、今日からシルフィアもここでお世話になるんだからちゃんと挨拶しとこうか」
背後に隠れているシルフィアに自己紹介をさせるために強引にではあるが背中を押してラルファさんの正面を向くように移動させた。
「は、はは、初めまして。私はフェンリルの獣人族でレイジ様の奴隷で家族のシルフィアといいます。今日からよろしくお願いします」
シルフィアは一気に自己紹介した後すぐにまた俺の背後に隠れてしまった。
俺達と最初に会った時は自身の心を押し殺していたようで、見た目はおっとり系なのだがどうやらシルフィアは恥ずかしがり屋で泣き虫な性格らしい。
「初めましてシルフィアさん。私はこの宿屋で主に受付と雑用をしていますラルファです。どうぞよろしくお願いします」
そんなシルフィアに対しラルファさんは笑顔で自己紹介をしてくれた。
俺はその後はシルフィアの食事代を今日の分合わせて四日分の大銅貨2枚を払い、今の部屋から三人部屋に移してもらってから食堂に向かい、ミネットさんにも自己紹介してから三人でご飯を食べ始めた。
因みに今回の献立のメインは『魔牛』のステーキだった。
その時シルフィアは。
「私、久しぶりにこんなにも暖かく美味しいご飯を食べました。…ヒック……。もうこんな食事はできないと思っていたのに…ヒック…私はレイジ様達の家族に本当になれて幸せ者です」
泣きながらミネットさんの作った料理を食べており、それを見ていたミネットさん本人がサービスだと言ってステーキを一枚追加してくれた。
ミネットさんに慌ててお礼を言ってからシルフィアは一人では食べずに自分とフールにも分けてくれたので俺とフールの二人はシルフィアの頭を撫でてから三人で仲良く追加のステーキを食べた。
食後はミネットさんがお茶を出してくれたのでそれを飲みながら食堂でゆっくりしていると俺達の側で食事をしていた同じこの宿の宿泊客の男性二人が酒に酔っていたのか少し大きな声であることを話していた。
「なあなあお前は聴いたかよ?」
「お前さっきから同じことしか言ってねえだろが、数時間前に起こったっていう大量殺人のことだろう」
俺はその話を聞いた瞬間、心の中では焦りながらも顔にはださずに会話に耳を傾けた。
「ああそうだ。なんでも殺されたのはこの街に所属していた冒険者十八人が路地裏で殺されていたらしい」
「それもさっき聞いた。そこで結構デカイ爆発音がしたから警備兵達がそこに駆けた時には辺りは真っ赤な血の海で頭と胴体が切り離された死体がほとんどだったらしいしな。もう街中はその話で持ちきりだろうが」
どうやらこの話はこの街中に広がっているらしい。男性二人の話はまだ続いた。
「それでここからはまだ話してないことだがな、なんでもその殺された冒険者は全員が恐喝や誘拐、挙げ句の果てには殺人とか何かしらの犯罪を犯してる奴らだったらしく、その中には来月にギルドである中級冒険者になるための昇級試験に出場予定だった『狼の牙』っていう冒険者パーティーがいたそうだ」
「おいおい、それは本当か⁈」
話を聞いていた男性が驚いた顔で話している男性に聞き返した。
「俺の知り合いに警備兵がいてな、そいつから聞いたから間違えはねえ」
「じゃあそいつらを殺した奴は結構な実力の持ち主で何か恨みを持っていたということか?」
「しかもだ俺の知り合いの警備兵が言うにその犯人はまだ捕まっていないらしい。と言うか犯人につながる痕跡もまだ見つかってねえってことらしい」
男性二人はその後は犯人が化け物じゃないかとか、人に化けた魔獣がやったんじゃないかと憶測を並べていた。
そんな男性達の会話を聞いた後、俺は目の前で楽しそうに話しているフールとシルフィアの二人に声をかけてから食堂を後にし、ラルファさんから『306号』と書かれた板のついた鍵とぬるま湯とタオル三枚入った桶を渡してくれた。
俺が桶を受け取ろうとした時にシルフィアがラルファさんから桶を受け取ってくれたのでシルフィアに礼を言ってから部屋へと向かった。
新しい部屋に入ると、隣で昨日まで泊まっていた部屋より少し広くなっており、またこの宿にはダブルサイズのベットが一番大きいらしいのでベットはシングルが一つとダブルが一つ置かれていた。
今から俺達は身体を拭く為に男の俺は一旦部屋から出てシルフィア達が着替え終わるまで待とうとしたがフールに止められ更にシルフィアには「レイジ様なら大丈夫です‼︎」っと俺にとっては何を言っているのか判らなかったが結局俺は二人と一緒に着替えることになった。
俺はもちろんシルフィア達の方を見らずに身体をタオルで拭いていたが背後から今までの二倍の視線を感じながら身体をきれいにして寝巻きに着替えた。
因みにシルフィアの寝巻きは自分の目の色と同じ青色のネグリジェでありシルフィア本人はその格好がすごく恥ずかしいようで顔をずっと赤くしていた。
俺はなんでそれに決めたのかを聞いたら更に顔を赤くして何も喋ろうとしなかった。
「フール、今日はシルフィアと一緒にそっちのベットで寝ててな」
その後顔を真っ赤にして動かなくなったシルフィアをダブルサイズのベットに運びフールに今日はシルフィアと一緒に寝るように指示した後そのままシングルのベットに入ろうとしたが。
「礼治様、少しよろしいですか」
フールに呼び止められ振り向くとそこには怒った顔でフールが仁王立ちをしておりそして。
「礼治様。私達と服屋で別れた後、雑貨屋以外にどこに行かれてましたか?」
フールはそう俺に問い詰めてきたのであった。