第45話 奴隷を買おう
「なあフール。本当に奴隷を買ってもいいのか?この前は嫌がってたみたいだけど」
今、俺は東門に向かう大通りを歩いている途中でフールにそう尋ねた。
なぜフールにそう尋ねたのかというと時間を数十分前まで遡る。
〜数十分前〜
「レイジ。あんたは奴隷を買うつもりはないか?」
ギルドマスターは突然、俺に奴隷を買うかどうかを尋ねてきた。
「奴隷ですか?」
それに対して俺はギルドマスターの突然の提案に少し驚き鸚鵡返ししてしまった。
「そう奴隷だ。私の憶測が正しければフールも他の家族(使い魔)達と同じで頻度は違えど自分の帰る場所、つまりはこの世界とは別の場所に戻らないといけない時が必ずあるだろう?違うか?」
ギルドマスターは昨日と同様に『タロットマジック』の大アルカナ達の決まりごとを強いて言えばフールの『情報伝達係』のことを言い当ててきた。
「その顔は当たっていると解釈していいんだね」
俺はまた顔に出ていたらしく返答を待たずにギルドマスターからは肯定と判断された。
「つまり、その時レイジは一人になる。まあ、その時は別の家族を呼べばいいんだろうが、なんらかの事情で呼べなかったことを想定してこれから奴隷を買うにあたって三つの利点を話をするぞ。まずは一つ目だ」
ギルドマスターはそう言ってから右手を上げて人差し指を立てた。
「奴隷を買うことによって戦力の増加、つまりフールがいない間はレイジのもしもの時のために護衛役となる」
ギルドマスターは一つ目の戦力の増加の利点について言い終わると次に中指を立てた。
「次に二つ目は奴隷は主人の所有物、つまりは依頼を達成した時の報酬の分配時は数に入れずに済み通常の配分よりも揉め事を起こさずに済む」
続いて報酬の取り分の利点について言い終わると最後に薬指を立てた。
「最後の三つ目は命令を使うことで情報の漏れる心配がない。これらが奴隷を買うにあたっての利点だな。どうだ?買うか?」
ギルドマスターは三つ目を言い終わると再び奴隷を買うかどうかを尋ねてきた。
「えっとですねギルドマスター。その〜……」
俺はあることを気にしており返答に困っていた。
「なんだ、ハッキリしないか。もしかして奴隷を買うのに抵抗があるとか言うつもりじゃないだろうな。そう言う考えはこの世界では生きていけんぞ」
ギルドマスターはハッキリしない返事に奴隷を買うにあたっての罪悪感を持っているのだと思われ、そう言い放たれた。
「いや、奴隷を買うのは前から考えてはいたんですがその別の件でちょっと<チラ>……」
俺はギルドマスターにそう返答した後で隣にいるフールに視線を向けた。
(前にボグレスさんと奴隷について話していた時にフールが機嫌を悪くしたからどうすればいいかな)
そう。フールの嫉妬深さがあるがゆえに俺は奴隷を買ってもいいのかを悩んでいた。
「あの、礼治様」
俺が悩んでいると突然フールが声をかけてきた。
「やっぱりフールは奴隷を買うのは嫌か?」
「いえ、奴隷を買われた方が礼治様の護衛役のためですので是非買った方が宜しいかと思いますよ」
「……ヘェ…⁇」
フールが前回とは真逆のことを言ったことに俺は驚きを隠せずに変な声を出してしまった。
その後は奴隷を買うことに決まりギルドマスターの部屋から出た後、一階に降りてから受付カウンターに書類を持って行き。
ちょうどミレアさんのところが空いたのでそこに行きミレアさんに書類を渡した。
最初は報酬額の高さに驚かれたがすぐに。
「レイジ様ですからこの額で当たり前でしたね」
と言われ後は業務作業の流れでギルドカードを渡してFランクからEランクに昇格させてもらった。また、ゴブリン軍団討伐での報酬をフールと合わせて金貨1枚と大銀貨4枚(大銀貨3枚+銀貨10枚)受け取り、俺のフリースペースについては後日ギルド職員さんが幾つかの場所を提案するのでその時にその中から場所を選ぶことになった。
今の所持金
168,320ナグル
(金貨1枚,大銀貨6枚,銀貨5枚,大銅貨33枚,銅貨2枚)
そんなこんなでギルドを出たところで冒頭に戻る。
「ハイ。礼治様はとてもお優しく私達大アルカナを家族として見て下さいますので礼治様が買われる戦闘奴隷がもし女性であり、その女性を抱かれることになったとしてもその時は私も同じく礼治様は抱いてくれるという確信がありますので心配はありません」
(なんか、俺が買う戦闘奴隷がすでに女性と決定されているがまあ、フールと一緒に住むから男性より女性の方がいいんだろうな)
因みに俺達のが言っている『戦闘奴隷』とは主に冒険者や戦争で負けた国の兵士などから墜ちた者達を『戦闘奴隷』という項目で分けられており、他にも一般の家庭から借金の肩代わりとして売られた者が墜ちる『一般奴隷』、『一般奴隷』の中から更に若い女性からなる『性処理奴隷』、犯罪などの重罪を犯した者達が堕ちる『犯罪奴隷』の大きく分けて四つある。
「ありがとうなフール。もしもそんなことがあったとしてもフールは俺の大切なフールに変わりないからよろしく」
ここでフールの中ではハーレム決定になってしまっていることに俺がそんな軽く思われているのかとも少し落ち込みつつも、フールが前向きに考えてくれていることに感謝してこれからも大事にすると宣言した。
「そんな礼治様が私はだーい好きです♡」
フールは満面の笑みを浮かべ左腕に抱きついてきた。
そんなフールに対して俺は笑顔を浮かべながらフールの頭を撫で奴隷商に向かった。
俺とフールがイチャイチャしながら歩いているといつの間にか奴隷商の前に着いていた。
建物は大きいがギルドよりはやや小さめで地球で言えばラブホテルと思わせる造りであった。
俺は少し戸惑っていたが意を決して中へと入った。
建物の中は壁は黒をベースにされており、白で統一された椅子やテーブルなどの家具類が配置されており、見た感じはそこまで悪くなかった。
俺とフールはそのまま奥の受付に向かった。
「いらっしゃいませお客様。本日は当店奴隷商『ボグレス』本店にどういった人財をお求めでしょうか」
受付カウンターには黒いスーツに身を包んだ二十代の男性が爽やかな営業スマイルで対応してきた。
「初めまして俺はEランク冒険者のレイジです。実h「えっ‼︎レイジ様でございますか⁉︎少々お待ちくださいませ!直ぐにオーナーを呼んできますんで‼︎」……」
自己紹介した後で今回の目的を伝えようとしたが受付の男性は俺の名前を聞いた瞬間、オーナーを呼んでくると言ってその場をすごい勢いで離れ、カウンターのすぐ側にある階段を駆け上っていった。
俺とフールは唖然としながらもそこで待っていると数分も経たないうちに先程の受付の男性と見た目が優しそうな六十代の男性でこの奴隷商のオーナーでのあるボグレスさんが階段を降りてやって来た。
「これはこれはレイジ様にフール様。お久し振りにございます。本日は当店にお越しいただき誠にありがとうございます。本日は本店取締役である私めがレイジ様の御要望にピッタリな人財を御紹介させていただきます」
ボグレスさんは俺達の近くに来るや否や頭を深く下げて挨拶をしてきた。
「お久し振りですボグレスさん。今日はボグレスさんのオススメする人財に期待させていただきますのでよろしくお願いします」
俺は先程からボグレスさん達が奴隷のことを『人財』と呼んでいるのでその呼び方を真似して挨拶を返した。
「ホッホッホッホッホー。レイジ様はお若いのに本当に素晴らしいお方ですな、私ボグレスは早速レイジ様の御要望にお答えして素晴らしい人財を選抜させていただきますのでレイジ様の御要望をお教えくださいませ」
ボグレスさんは俺の挨拶の仕方が相当嬉しかったらしく大笑いした後、真面目な顔になり早速要望を尋ねてきた。
「そうですね。……戦闘経験があり近接攻撃を得意とした女性で年齢は十五歳前後。後はボグレスさんの判断にお任せします」
少し考えた後で俺の要望をボグレスさんに伝えた。
「前衛として戦闘で直ぐに活躍ができ女性で十五歳前後。後は私の判断にお任せする。これは私の此の道四十年の経験と知恵が試されるお題ですな。奴隷商人として恥をかかぬよう必ずやレイジ様の御要望にお答えする人財を選抜してきますので少々お待ちくださいませ」
ボグレスさんは商人魂に火がついたのか話し終わると直ぐに六十代とは思えない速さで階段を駆け上っていってしまった。
俺とフールはボグレスさんの動きに驚き、しばらくその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
その後は受付の男性に椅子の所に案内され椅子に座ると直ぐにお茶が出されたのでお気遣いなくと男性に言ったところ。
「オーナーからお二人には最善のおもてなしをするよう承っておりますのでどうぞごゆっくりお待ちくださいませ」
と返されてしまい俺達は受付の男性にお礼を言ってからお茶を飲んだ。
因みにお茶はとても美味しく、後で聞いたことだが、どうやら最高級の茶葉を使用していたらしく、終始俺達は驚いてばかりだった。
そんな感じで約三十分後、ボグレスさんが階段を降りてきた。
その時のボグレスさんの顔を見た時は凄い達成感溢れる表情をしていた。
「大変お待たせしましたレイジ様、フール様。それではレイジ様の御要望にお答し、尚且つ私の此の道四十年の知恵と勘を活かして選抜した人財を御紹介しますのでどうぞこちらへ」
ボグレスさんはそう言って俺達を三階のある部屋まで案内してくれ、俺達がその部屋に入ると中には十人以上の首には黒い首輪が付けられている女性が横一列に綺麗に整列していた。
「今回は十四人の人財を選抜しましたので後はレイジ様がお選びくださいませ。もし気に入られた人財がおられましたら個人でお話ができるようにお部屋を用意させていただきます」
ボグレスさんは一通りの説明を終わらせた後、一歩後ろに下がり待機した。
俺は十四人の並んでいる女性達に目を向けた。
見た目も、体型も、種族も違う十人十色の女性達の前を俺はスキルの『ステータスチェック(自・相)』を使い右から順番に彼女達のステータスを確認し始めた。
彼女達のそれぞれのステータスは平均が80〜100を超えていた。
そんな中で自分は右から十一番目の女性のステータスを確認した時にその女性に目を付けた。
俺が目を付けた女性はステータスもスキルも他の女性と変わりはあまり無かった。
俺が彼女に目を付けたのはステータスでは無く彼女自身の目であった。
彼女の目は光りを失っており、あの目にそっくりだった。
父親から逃げ出し誰も信じることの出来なかった時に鏡で見た昔の俺自身の目に。