第30話 VSゴブリン軍団”意思”
俺とフールはギルドマスターの部屋を出た後一階に降りた。
ギルドの一階ではギルド職員さん達が慌ただしく戦いに必要な回復薬や魔力薬、それから医療道具の包帯やガーゼなどを準備をしていた。
因みにこの世界での回復薬は容器が理科室に置いてある丸底フラスコで、中身は緑色で向こう側が透けて見えるサラッとした液体が入っており、魔力薬は回復薬の赤バージョンである。
俺達がギルド職員さん達の準備の邪魔にならないようにギルドの外へ出ようとした時。
「レイジ様、フール様‼︎」
突然俺達を呼ぶ声がしたので後ろに振り返るとそこにはマリーさんが何かの荷物を持って立っていた。
マリーさんは荷物を一箇所に集められている場所に置き俺達の側に走ってやって来た。
「レイジ様にフール様。確か最近この街に来たばかりで避難場所を知りませんよね。私がお教えしますので直ぐにそちらへ向かってください」
マリーさんはそう言って制服のポケットからこの街の地図を取り出して俺達に緊急避難場所へのルートを教えようとしてくれた。
「あのーマリーさん?俺達も戦いに参加するのでルートを教え無くても大丈夫ですよ?」
「へぇ……?」
マリーさんは俺の言葉に取り出した地図を床に落として変な声を上げた。
「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」
そしてギルド全体に響き渡るほどの驚き声を上げた。
「一体何を言っているんですかレイジ様!レイジ様はフール様と共にFランクであって戦闘要請条件から外れておられるんですよ‼︎⁉︎」
「ええそうですよね。だからギルドマスターにお願いして戦場に出る許可を得ましたよ?なので俺も参加します」
「なんで許可が出たんですか⁉︎レイジ様とフール様は冒険者になられたのは昨日なんですよ‼︎それなのになぜ自分から危険な道をご自分で選んでらっしゃるんですかニャ‼︎」
マリーさんは語尾に『ニャ』と付けながら俺に詰め寄ってきた。
「マリーさん。俺は死なないで戻ってきますんで落ち着いてください」
俺は興奮しているマリーさんを落ち着かせるように優しく声をかけた。
「なんでそんなことが言えるんですかニャ⁉︎戦いは何があるかわからないんですニャ!私はこのギルドの受付嬢として一年が経ちますニャ。その間、ギルドの冒険者の方々が依頼の途中でお亡くなりになったという報告を数えられないほど受けましたニャ‼︎」
落ち着かせるつもりが返って火に油を注いでしまい先程よりも興奮させてしまった。
「中にはよく話したことのある方や、お亡くなりになる前に今度一緒に買い物に行こうと約束した冒険者の方など沢山いてその報告を受ける毎に私はなんでこの仕事をしているのだろうと思ってしまい、何度も仕事を辞めて実家に帰ろうと思いましたニャ」
冒険者は危険が隣り合わせの仕事であり、死人が出るのは当たり前であるこの世界では待つ側である人にはとても辛いことなんだろう。
母親を病気で亡くした俺にもこの気持ちが痛いほどにわかる。
「だけど私が仕事を辞めないのは冒険者の皆さんが依頼を無事に達成して帰ってこられた時に笑顔で迎えてあげたいからですニャ‼︎だから私は悲しい時も頑張って笑顔をつくって皆さんに元気になってもらうために頑張っているんですニャ」
マリーさんは途中から涙を流し始めた。
「それなのにどうしてレイジ様はわざわざ危険な道を選ぶんですかニャ‼︎⁉︎<ガクン>ニャァァ〜〜〜〜〜〜ン」
マリーさんは俺に同じ質問をした後、ついに今の自分の気持ちに耐えきれずその場に崩れ落ち泣き始めた。
周りを見渡すと他のギルド職員さん達もマリーさんと同じ気持ちであるらしく、涙を流す者が多くいた。
俺は泣き続けるマリーさんと同じ目線になる様に腰を下ろした後、マリーさんの頭に手を乗せた。
「レレレレイジ様/////⁈」
マリーさんはいきなりの俺の行動に驚き、顔を真っ赤に染めた後、恥ずかしさの余り俯いてしまった。
「マリーさん。俺がこの戦いに参加した理由はこの街に住むマリーさんを含める沢山の人達を守りたいからです」
「私達を守るためですかニャ……?」
マリーさんは今の言葉で顔を上げ俺と目線があってからそう言葉を発した。
「はい。俺はこの街に来てまだ三日も経っていません。ですが俺にはマリーさんやギルド職員の皆さんに今、俺達がお世話になっている『夕暮れの日差し亭』と言う宿屋を経営しているラルファさん達家族や奴隷を道具として扱わずにこの街一番の奴隷商に上り詰めたボグレスさん、それから大きな夢を叶えるために頑張っている武器商人のニグリスさんや従業員さん達、またクロという黒猫を本当の息子のように育てているタルシャさんとクロの猫一家達といった色々な人々や猫一家とこの街で会いました」
俺は短い期間の間で出会った人々や猫一家の事を話した後立ち上がる。
「他には会ったことはありませんがこの街には優しい人々やその家族や友人や恋人など大切な存在である人々を俺は俺の力で守っていきたいんです。だから皆さんは俺達の帰りを信じて待っていてください!必ず帰ってきますから!」
俺はそう言い放ち背後にいたフールを連れてギルドの出入口へと向かった。
マリーさん達ギルド職員さん達はただ俺達を見送ってくれた。
俺達がギルドを出てから暫くすると一人のギルド職員さんが。
「そうだよ。冒険者達は俺達のために戦ってくれるんだ」
と呟き始めたすると。
「俺らには大事な家族がいる、友人がいる、仲間がいる」
「でも私には力がない。だから冒険者達に頼るしかない」
「だからこそギルド職員である自分達がサポートをして少しでも冒険者が無事に帰ってきてくれるように頑張る」
「そして無事に帰ってきてくれた冒険者を私達は笑顔で迎える」
「そうやって俺らは支え合って生きている」
ギルド職員さん一人一人が自身の役割を再確認していた。
「俺らがくよくよしてたら冒険者達が困ってしまうよな。ヨッシャー‼︎みんな、俺たちが頑張って冒険者全員が帰ってこれるように完璧な準備をした後、冒険者が無事に帰ってきたら笑顔で迎えて、腹一杯メシを食ってもらえるよう頑張っぞ‼︎‼︎」
「「「「おおーーーー‼︎‼︎‼︎」」」」
ギルド職員さん達は掛け声を上げた後、今までストップしていた自分達の作業に取り組み始めた。
膝をついて泣いていたマリーさんも立ち上がり涙を拭き気合いを入れるため自分の頰を思いっきり叩いた後、腫れた顔で自分の仕事を取り組んだ。
冒険者達が一人でも多く帰って来てくれるように強く願いを込めながら。