第19話 初めてのお仕事(1)
今日2回目の投稿です。今までで一番長いと思いますが最後まで読んで頂けると幸いです。では本編をどうぞ。
俺達がまず最初に訪れたのは北門の近くにある武器屋『ニグリス』のところだ。
最初にここの依頼を受けることを決めた理由は簡単、その依頼書に書かれている内容の中に『荷物を積み始めるのは午前10時から』とあり、俺達は朝9時の鐘の音を聞いて暫く経っていたためであり急いで指定場所に向かった。
因みに鐘の音は朝の6時から夜の10時まで鳴らされ、時間に応じて鐘を鳴らす回数を変えてある。つまり朝の6時なら6回、昼の12時なら12回、昼の1時なら1回と鐘を鳴らす仕組みである。
そして今いるこの街『アルバス』は上から見下ろすと丸い円の形をしており、街の中央の広場から北門、南門、西門、東門、に向かって広い道が続いており、自分達が最初にこの街を訪れた際に潜った門が南門、『夕暮れの日差し亭』の方向にあるのが西門、ギルドの方向にあるのが東門、そして今まさに向かっている武器屋がある方向に北門がある。
そうこうしているうちに目的地の武器屋に辿り着いた。
「遅くなってスミマセン。冒険者ギルドから来ましたGランクの冒険者の礼治です。荷物を積むのを手伝いに来ました」
「同じくGランクの冒険者フールです。本日はよろしくお願いします」
「おう、あんたらが手伝いに来てくれた冒険者か?俺がこの武器屋の商人ニグリスだ。早速だが今から荷物を馬車に積むのを手伝ってもらうがそこのフールっていう嬢ちゃんは大丈夫か?今回積んでもらう荷物は結構重いのばっかだぞ?」
ニグリスと名乗った30代ぐらいの筋肉質の男性は見た目からしてあまり力の無さそうなフールが本当に手伝えるのかを心配していた。
「大丈夫です。私は確かにあまり力が無さそうに見えますがそこらへんの冒険者と同じくらいの力はありますんで大丈夫です」
本当はそこらへんの冒険者とは比べ物にならない程の力を持っているフールだが、それを言ったとしても信じてもらえないのがオチなのであえて『同じ』で答えたフールである。
「そうかそれは疑って悪かったな嬢ちゃん。じゃあ早速手伝ってくれ」
ニグリスさんは疑ったことを謝罪してきた。
その後は切り替えて荷物を積み始めたので俺達も手伝う。
馬車に積む荷物はどれも剣やナイフが10本入った木箱や大きい布に包まれた大型のハンマーや斧それに大盾など一人では大抵は運べない物がほとんどでニグリスさんや他の従業員さん達は二人一組で荷物を馬車に積んでいった。しかし、俺とフールだけは違った。
二人とも重い荷物を一人で軽々と持ち上げ次々と馬車に積んでいった。
それを見ていたニグリスさん達は唖然として眺めていたが直ぐに我に帰り荷物を積んでいった。
「よしこれでお終いだ。ありがとよお二人さん。二人のお陰で思っていたより早く積み終わることができたぜ」
ニグリスさんは自分達に感謝をしてくれた。しかし、一つだけ気になることがあった。
「あのニグリスさんスミマセンが、まだ馬車がもう一台有るんですがもうお終いでいいんですか?」
そう、馬車は二台用意されていたが俺達が運んだ荷物は一台で収まってしまっており、そこを疑問に思っていた。
その質問にニグリスさんは。
「それがなあ。実はこっちの馬車にも積む荷物があるんだが、その荷物が相当重くてな。午後から護衛をして貰う冒険者達と一緒に積むことにしてるんだよ」
どうやらニグリスさんは荷物積みの依頼の他にもう一つ隣街までの護衛もギルドに依頼していたらしい。
そこでニグリスさんにあるお願いをした。
「ニグリスさん。その荷物を見せて貰っていいですか?」
「別に構わねえが幾らお前等二人が揃っても運ぶのは難しいぞ?」
ニグリスさんはそう言いながらその荷物の場所まで案内してくれた。
その荷物は倉庫の中の自分達が運んだ荷物より奥の方に保管されていた。
見ると木箱の中に何かの金属の延棒がぎっしりと詰まっておりその金属の延棒を鑑定してみると。
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ミスリルの延棒[純度:60パーセント]
ミスリルから作られた延棒。純度が一般の延棒と比べ高くよい値で売れる。
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(まさかのファンタジー金属キターーーー‼︎)
初めて見たミスリルに目を輝かせ眺めていると。
「坊主どうやらこれがどんな代物か分かってるみたいだな?」
ニグリスさんが何処と無く嬉しそうな雰囲気を醸しつつ自分に聞いてきた。
俺はニグリスさんの言葉で我に返る。
「凄いですねこれは、俺も本で読んでいただけで本物は初めて見ました。でもこんな貴重な物をこんなに沢山どうなさったんですか?」
俺が言っている本とは勿論元の世界での小説などである。
俺はニグリスさんに質問してみるとニグリスさんは先程まで明るく笑っていた顔から真剣な表情に変わり質問に答えてくれた。
「実はな。この店は俺の父親の代からの店でな、親父はこの店をデッカくしてこの街一番の武器を扱う店にするのが夢でな。それでその夢を叶える為には沢山の金がいる。だから冒険者がボロく使い古された武器を買い取ってその武器から採れる僅かなミスリルを採取してこの延棒を作っていき、いつかこの箱にぎっしり詰まったら隣街の金属を高く買い取ってくれる店で売ってその金で店を大きくするのが親父の夢だったんだ。」
ニグリスさんの話に俺達は耳を傾ける。
「だが、一年位前に親父は寿命で死んでこの世を去ったんだ。その時に親父が俺にその夢を託してくれたんだ。だから俺はその親父の夢を叶える為に今まで頑張ってきた。そしてついにこの木箱一杯にミスリルの延棒がぎっしりと詰まったんだ」
そう言ってニグリスさんは努力の結晶である木箱を指差した。
「確かに一度に運ばずに一つ一つ延棒を運べば直ぐに馬車に積むことができる。だがそれは俺のプライドが許せねえ‼︎今まで汗水垂らして努力してきた親父が詰めた木箱から延棒を取り出すのは今じゃねえ!隣街まで運び金属を高く買い取ってくれる店に着いてそこで初めてこの木箱から取り出せる‼︎だから俺はこのまま隣街まで運びだす‼︎絶対にだ‼︎‼︎」
熱い思いに感動していつの間にか俺はニグリスさんの手を掴んでいた。
「ニグリスさん!自分とても感動しました‼︎是非自分に任せてください俺の力を使ってニグリスさん一人でこの木箱を馬車まで運んで貰います‼︎‼︎」
「何言ってんだ坊主?お前の気持ちは嬉しいがとてもじゃないが俺一人の力じゃあ運ぶなんて不可能だぞ?」
ニグリスさんは少し涙を流していたがそんなことは不可能だと主張してきた。
「大丈夫ですニグリスさん。俺に任せてください」
そう言って右の手のひらを前に構える。
「『タロットマジック』大アルカナNO.11『ジャスティス』」
呪文を唱えると光りが放たれ右手には剣を持ち左手には天秤を持った女性のカードが出現した。
そのカードが消えると同時に光の中から左手に天秤を持っていて腰には剣を刺し、肩まで伸びた茶髪で黒目の20代前半の赤い色のローブを着た女性が現れた。
「お初にお目にかかります。我等が主レイジ様。私は大アルカナNO.11『ジャスティス』のテミスと申します。何なりとお申し付けください」
テミスは会って早々にしっかり自己紹介をしてくれた。
「初めましてテミス。俺の名前は礼治、よろしくな。早速で悪いんだけどこの木箱を軽くすることはできるかな?」
俺も自己紹介をしてから木箱を指差してテミスに尋ねた。
「はい可能でございます。では早速やらせて頂いきます」
テミスはそう言って木箱の前に立ち左手に持つ天秤を木箱に向けた。
「『重力変換”軽”』」
すると突然、延棒が木箱ごと光だし一瞬にして光は消えてしまった。
「レイジ様。無事に完了致しました」
テミスは振り返り笑顔で報告してくれた。
「ありがとうテミス。じゃあニグリスさん早速持ち上げてください」
俺は声をかけたがニグリスさんは呆然としていた。
光の中から突然知らない女が出てきたり、延棒と木箱が突然光ったりと今の状況を飲み込めずにいたからだ。
「ニグリスさん大丈夫ですか?」
もう一度声をかけるとニグリスさんはやっと反応してくれた。
「おい坊主。いったい何がどうなってんだ?」
「まあまあ落ち着いてくださいニグリスさん。騙されたと思って持ち上げて下さい」
ニグリスさんを急かして木箱を持たせた。
ニグリスさんは急かされるまま木箱を持ち上げてみた。
するとどうだろうか。
なんとあの重そうな延棒がぎっしり詰まった木箱がニグリスさん一人の力で持ち上がったのである。
ニグリスさんは余りの軽さに一瞬、手を離しそうになるも、慌てて俺の方に振り向いた。
「おい坊主。お前は一体何者なんだ?」
呆然としているニグリスさん。
「ただの冒険者兼タロット占い師ですよ。さあ早く馬車に積みましょうニグリスさん」
俺はそう答えた。
その後は急かされるままニグリスさんは木箱を運び始める。
ニグリスさんが外に出ると従業員さん一同が唖然とした表情でニグリスさんを見ていた。まあ従業員さん達が働いてる店のオーナーが一人では運べない荷物を軽々と運んでいるので無理はない。
そしてニグリスさんが荷物を馬車に積み終わる後ろから付いて来ていた自分に駆け寄り手を掴んだ。
「坊主ありがとう。本当にありがとう。あんたのおかげで俺一人で運ぶことができた本当にありがとう」
そう言ってニグリスさんは泣き出した。
それを見ていた従業員さんの人達もオーナーがあの木箱にどれだけ大事な想いを詰めているかを知っていたので従業員さんの人達も泣き出し、ニグリスさんの話を聞いていた俺とフールも泣き出し、挙げ句の果てにはテミスが貰い泣きをしており暫くの間、涙が治ることが無かった。
〜〜〜
俺とフールとテミスは直ぐに涙は止まったがニグリスさん達は十数分ぐらい経ってからやっと落ち着いてくれた。
「いやあ、みっともねえところを見せてすまねえな坊主。坊主には本当にいくら感謝してもしきれねえなぁ本当にありがとうな」
ニグリスさんは俺に頭を下げて御礼を言ってきた。
「いやいやいや。そんな頭を下げないでくださいよニグリスさん。俺はただ依頼をこなしただけですから」
頭を下げているニグリスさんを慌てて頭を上げさせようとする。
「それは違うぞ坊主。いや確かレイジだったよな。あんたもフールも期待以上の仕事をしてくれた。だから俺はあんたらに感謝の気持ちとして報酬を倍にして払わして貰う」
と言ってニグリスさんは依頼書のサイン欄にサインをしてくれ、また『報酬を倍にする』と書いてくれた。
「本当に良かったんですかこんなに沢山貰って?」
俺はなんだか申し訳なくそう聞き返した。
「いいも何も逆に俺の方が払い足りない位だ。だが、俺がギルドに預けている金額じゃあ今はそれ位しか払えねえ。だからあんた達には今度店に武器を買いに来てくれた時は安くしてやるから必ず来てくれよな」
「でしたらお言葉に甘えさせて頂きます。武器が必要になった時は必ず来ますんで。じゃあ俺達はこれで失礼させて頂きます。フール行こうか」
「はい。礼治様」
俺はそう言ってからフールに声を掛けてその場を後にした。
ニグリスさん達は二人が見えなくなるまで見送ってくれた。
こうして俺とフールの最初の依頼は無事に達成したのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。