第144話 出発前(前編)
二ヶ月ぶりの投稿になります。
結構中途半端なところで終わっていますがご了承下さい。続きは近いうちにまた投稿します。
前回までの話し
礼治達はママンテ男爵の件で、アルバスの街を治めるアルバス伯爵様の護衛と証人として王都まで同行することとなった。
〜視点:礼治〜
翌朝の6時過ぎ。早くから起きていた俺逹三人は宿屋で朝食を済ませてから冒険者ギルドに向かい、アルバス伯爵様からの指名依頼の正式な受理をマリーさんにしてもらっていた。
「はい。アルバス伯爵様からCランクパーティー『銀の絆』への指名依頼の受理はこれで終わりになります」
「ありがとうございます。マリーさん」
ギルドが正式に依頼を受理したことをします印鑑を押された依頼書をマリーさんから受け取りながら礼を言う。
「いえ、これも仕事ですので。…レイジ様、フール様、シルフィアさん」
笑顔で受け答えをしたマリーさんの表情が真剣な表情へと変わる。
「受付嬢である私がこんな事を言うのも何ですが、王国まで向かう道中で何があったとしても油断せず、無事に帰ってきてくださいね」
(今回の王国まで向かう道中、何処かで必ずママンテ男爵と裏で繋がっている奴が動くだろうしな)
ママンテ男爵の手の者の他にも、魔獣や盗賊などにも注意する必要がある。
「はい。何があっても必ず無事に帰って来ます」
俺はそれを踏まえた上でマリーさんに約束をする。
そうして俺逹はマリーさんに見送られながらギルドを後にし、アルバス伯爵様の屋敷へと向かった。
〜〜〜
「おい、お前ら。こっちだ」
ギルドを出てから十数分でアルバス伯爵様の屋敷前に着いた俺逹に気づき、大きな声を出す人物がいた。
俺逹はその声の主が誰かと確認するとすぐにその人物の側に駆け寄る。
「おはようございます、ルーベルさん」
ルーベルさん。前に『タロット』の宣伝のために開いたマジックショーでロープを俺に容赦なく巻きつけるのを手伝ってくれた人物であり、これは後になって知った事だが、ルーベルさんは警備兵でも副団長、ジグトさんの次に警備兵の中で偉い人物だったのだ。
「久しぶりだな坊主。お前が王都まで俺逹と同行する理由を伯爵様から聞いてはいるが災難だったな」
「ええ、本当に災難でした」
ルーベルさんの言葉に心の底から肯定する。
「無事に来れたようだな」
ルーベルさんと会話していると屋敷の門からアルバス伯爵様が声をかけて来た。
「おはようございますアルバス伯爵様」
「「おはようございます」」
俺逹は門から出て来たアルバス伯爵様に挨拶をし、そこからルーベルさんを交えて今日の方針について話す。
アルバスから王都までは南に向かって馬車で十日ほど離れた距離であり、街を出て最初に通る『初心の森』を今日中に抜け、森から少し離れた所にある村に向かうらしく、今から出れば夕暮れ前には到着するとのこと。
「そして次の日からは野宿を。また、途中で立ち寄る村や町の宿屋を利用しながら王都へ向かいます」
「いつも通りのルートで行くわけだな」
「いえ。今回はママンテ男爵の手の者が何処かで待ち伏せをしている可能性がありますので戦闘時にこちら側が不利になる地点はなるべく避け、少し遠回りにはなりますが安全な道を選び進むつもりです」
「となると、王都へ着くのは予定より遅くなるのか?」
「そうなります。もし急がれるのでしたら遠回りはせずに通常のルートを使用しますが?」
「いや、その方針で行こう。レイジ君もそれで良いか?」
「はい。問題はありません」
王都へ初めて行く俺はアルバス伯爵様とルーベルさんの方針に従う。
「では、準備も後少しで終わりますので伯爵様はそろそろ馬車にお乗りください」
そうルーベルさんがアルバス伯爵様を馬車へと誘導する。
「いや、少しレイジ君に話したいことがある。それが終わり次第に馬車へ乗ろう」
「? わかりました。それでは私も最後の点検をしてまいりますので、終わり次第声をお掛けください」
そこでルーベルさんはアルバス伯爵様に一礼してから最後の点検に向かい、ルーベルさんがその場から離れてすぐにアルバス伯爵様は俺の方に身体を向ける。
「レイジ君。話をする前に今日、君と一緒に護衛をしてくれる君の家族を呼びだしてくれんか?」
「わかりました。今から呼び出しますので少々お待ちください」
アルバス伯爵様が俺や家族達に何か伝えておきたいことがあるらしく、俺は使い魔達を呼びすために右手を誰もいない方に向ける。
「『タロットマジック』大アルカナ、
NO.7『チャリオット』、NO.11『ジャスティス』、NO.13『デス』、NO.15『デビル』」
詠唱とともに目の前で光が放たれ、光の中からテミス達が現れる。
「おはようございます、レイジ様。本日は私達が護衛を務めさせて頂きます」
「「おはよう、レイジ兄さん。今日からよろしくな(ね)」」
「ふあぁああ〜…。おっす、レイジの兄貴。今日は俺らに任せとけ」
「おはよう、レイジ殿。今日は我らが力を貸そう」
「おはようみんな。今日はよろしく頼むよ」
礼儀正しく挨拶をするテミス、元気よく同時に挨拶をするホースとポニー、寝起きなのか欠伸をしながらもちゃんと挨拶をするサタン、無表情ではあるものの意気込みのある挨拶をするルビー。
俺は呼び出した家族達と挨拶を交わす。
「ふむ。今日はこの者たちが護衛をしてくれるのだな」
挨拶を終えたところでアルバス伯爵様が声をかけて来る。
「はい。みんな、此方が今日から俺達が護衛するアルバス伯爵様。テミスは前に会ってるから分かるよね?」
「はい。存じ上げております」
俺の質問に答えたテミスはアルバス伯爵様の方を向き、頭を深く下げる。
「先日の件は誠にありがとうございました。アルバス伯爵様にはレイジ様に仕える身として感謝を申し上げます」
「「本当にありがとうございます。伯爵様」」
「誠に感謝する」
テミスに続き、ホースとポニー、ルビーもアルバス伯爵様に頭を下げて御礼を言う。
「はっはっはっ。儂はこの街を治める者として当たり前のことをしたに過ぎない。だから頭を上げよ」
アルバス伯爵様の言葉にテミス達が頭を上げ、そのタイミングで俺はアルバス伯爵様に俺逹に話したい事について尋ねようとした。その時だった。
「ちょっといいか?」
俺よりも先にサタンがアルバス伯爵様に声を掛けた。
「あんたには少しばかり言いたいことがある」
サタンは鋭い眼差しをアルバス伯爵様に向けていた。
「ちょっとサタン!伯爵様にそのような態度は失礼ですよ!」
サタンのアルバス伯爵様に対する言動にすぐに注意をしようとするテミス。
「別に構わん。そのまま続けてくれんかね」
しかし、アルバス伯爵様はテミスを止める。
「だとよテミスの姐御。後で説教ぐらい受けてやっから、黙っててくれ」
「……分かりました。しかし、くれぐれも失礼のないように」
アルバス伯爵様が許可を出した事によりテミスは一言注意をしてから一歩後ろへと下がる。
「さてと、じゃあ早速言わせてもらうぜ」
サタンは再びアルバス伯爵様の方を向き、喋り始めた。
「まず初めに言っておくが、あんたがレイジの兄貴を助けてくれた事に関しては俺も感謝しているし、今回の護衛の件もちゃんと引き受けてやる。だがな、護衛の途中で敵に囲まれ、あんたらがレイジの兄貴を囮にして逃げようとした時は覚悟しとけよ」
サタンは昨日から護衛依頼の件について不満に思っていたことの全てを吐き出すかのように言葉を続ける。
「そん時はあんたを俺の鎖で縛り上げ、逆にあんたを囮にしてやるからな。よーく覚えとけよ」
サタンが話し終えた時、俺逹やアルバス伯爵様、準備をしていたルーベルさんを含む警備兵達。全員が黙り込み、静寂な世界を作っていた。
「確かに、儂は君にそう思われてもしかたがないことをしているな」
そんな静寂の中、アルバス伯爵様はそう言うと、突然頭を下げて来たのだ。
『!?』
アルバス伯爵様の突然の行動に俺達は唖然としてしまった。