第130話 合否
長くお待たせしてしまい申し訳ございません。
早速本編をどうぞ。
「行ってらっしゃい」
「いい結果だったらお祝いするから早く帰ってくるんだよ」
「「「行ってきます」」」
昇級試験から無事にアルバスへと帰ってきた俺達三人は夕暮れの日差し亭で部屋を取り、数日ぶりのミネットさんの料理に舌鼓し、ふかふかなベットでしっかりと疲れをとった翌朝。
俺達は朝食を済ませてから、部屋へは戻らずにそのままミネットさんとラルファさんに見送ってもらいながら宿屋を後にした。
朝のフールの御勤めである大アルカナ達への近況報告は数日分とかなり溜まっていたので昨日のうちに済ませており。一旦部屋に戻る必要はなかった。
「それにしても今日は一段といい天気だな」
ギルドに向かう俺は快晴の青空を見上げながら呟いた。
「吹く風も気持ちがいいですし、本当に良い天気ですね」
「私もそう思います‼︎」
俺の呟きに対してフールもシルフィアも笑顔を見せながら自身の感想を述べる。
二人は相変わらず俺の腕に自身の胸を押し付けるように抱き付くので少しだけ歩き辛いのだが、二人の幸せそうな笑顔を見せられるとこれぐらいは良いかと思ってしまう自分いた。
相変わらず周りからの独身男性達からの嫉妬のこもった視線を向けられながら歩くこと十数分後、俺達はギルドの前に着いた。
結果発表は9時に行われるのだが、今は8時を過ぎたあたりで時間には少し余裕があった。
俺はギルドの扉を開けて中へと入り、それに続いて二人もギルドの中へと入っていく。
ギルドの中は冒険者達が沢山おり、その冒険者達の視線はギルドに入ってきた俺達に集中していた。
〔見ろよ。例の銀の絆だぜ〕
〔すげー。あの男が黒銀の予言者だろ?見た目はヒョロそうなのに実力はあのロイドさんが認めるほどなんだろう?〕
(ん?黒銀の予言者?)
二階に登る階段に向かう途中で中二病じみた二つ名が耳に入ってきた。
「黒い装備に銀のネックレスと腕輪。そして礼治様の絶対に当たる占いからきた二つ名だと思います」
「レイジ様にピッタリな二つ名だと思います!」
二人も俺が『黒銀の予言者』と呼ばれていることに気づき、納得したような表情を見せる。
俺はいつの間にか二つ名で呼ばれていることに少し驚きつつも階段を上がって二階に行き、数日前に昇級試験のメンバー達と顔合わせをした会議室へと入った。
会議室には誰もおらず、どうやら俺達が一番乗りらしい。
俺達は近くの椅子に座って他のメンバーが来るまで雑談を始め。それから数分経たないうちに会議室の扉が開き、ジャンとケトラとリュンクの三人が入ってきた。
「よっ、黒銀の予言者。有名になったご感想は?」
「こら!リュンク‼︎ 普通に挨拶しなさいよ!」
「まあまあ、落ち着きなよケトラ」
翡翠の輝きのメンバー三人は相変わらずであり、ついつい笑ってしまった。
「俺も二つ名については今さっき知ったばかりだから、少し驚いてるかな」
俺はリュンクの質問に少し笑いながら答える。
「俺達も下の方でそれを聞いてさ。すぐにレイジのことだって分かったぜ」
「確かに黒銀の予言者ってレイジにピッタリよね」
「良い二つ名だと思うよ」
三人に二つ名を褒められ、二つ名もそこまで悪くないかなと思い始めた。
「あとはナーグとティナさんとメルさんの三人だけですね」
「ああ、その三人ならさっき下にいたわよ」
「そう言えば三人で受付の方に行ってたね」
どうやらナーグ達もギルドには着ているらしい。
そう、ナーグ達の話をしていると扉が開き、ナーグ達三人が入ってきた。
「噂をすれば御本人達の登場だな」
「?一体何の話しだ?」
リュンクの言葉に扉から入ってきたナーグが疑問符を浮かべる。
「いやさあ。あんた達三人が会議室に真っ直ぐには向かわずに受付の方に行ってたのをたまたま見かけててね。なんかあったの?」
それに対してケトラが簡単にナーグ達に説明する。
「ああ、そのことか。ティナ、メル。話して良いよな?」
「うちはかまへんで////」
「はい。みなさんには伝えてた方が良いと思います」
ナーグは納得すると後ろにいる二人の方を向いて何かを尋ね。ティナは顔を赤くして恥ずかしそうに頷き、メルはいつも通りの優しい笑顔で返事をする。
「わかった」
二人の返事を確認したナーグは俺たちの方に顔を向ける。
「え〜っとだな。俺達三人はついさっきパーティー申請をして正式にパーティーを組むことになった」
「…え?チームを組んだのか?」
俺はナーグの報告に驚く。
ナーグは今までは自分一人の実力がどこまで通用するかを確かめるために単独で行動していた。
「まあ、なんだ。今回の昇級試験を通してさ、一人で行動するよりも、レイジ達やジャン達みたいに信頼できる仲間と一緒に行動した方が強くなれる気がしてな」
「なるほどな」
ナーグの言葉に納得する。
俺も今回の昇級試験を通して考えさせられることが色々とあった。
「おい、扉の前で立ち話するんじゃねえ」
俺達が扉の前で会話をしていると声が掛かり、全員がそっちの方を向く。
「おら、サッサッと中に入れ」
そこにいたのはロイドさんであり、俺達はロイドさんの指示に従って会議室の奥へと入っていく。
「よし。全員いるな」
俺達は横に一列に並び、ロイドさんは全員が揃っていることを確認した。
「それじゃあ早速だが昇級試験の合否を発表させて貰う」
その瞬間、俺達の間に緊張が走る。
今回の昇級試験では全員が自分の力を出し切っていたが、それと合否は関係なく、自分の力や行動力が中級冒険者として通じているかを判断するのは試験監督であったロイドさんであり、全てはロイドさんの判断で決まる。
「今回の中級冒険者昇級試験に合格した者は…」
会議室の中は不安と緊張が渦巻き会う。
「此処にいる全員だ!よく頑張ったお前ら!」
「「「「よっしゃぁぁぁぁぁ‼︎」」」」
「「やったーー‼︎」」
「ふぅ…」
ロイドさんの朗報に先程までの空気が一気に変わり、俺を含む男性陣は全員が歓喜の声をあげ、ケトラとティナは抱き合って喜びあい、メルはホッと安堵の息を漏らす。
「やりましたね礼治様!全員合格です!」
「おめでとうございますレイジ様!私も無事に昇級できました‼︎」
「ありがとう二人共。それとおめでとう」
フールもシルフィアも合格できて興奮しながらお互いに祝しあった。
「嬉しいのは分かるが一旦落ち着け」
しばらく喜び合った俺達はロイドさんの声が掛かり、それと同時にギルドの職員さんが会議室の中に入ってくると俺達の側へと近寄ってくる。
「全員、ギルドカードのランクを更新するからこいつに渡せ」
指示に従い俺達、全員はギルドカードを渡し、それを確認しながらギルドの職員さんは全員からギルドカードを集めていく。
「それではロイド様。私は早速作業に入らせてもらいます」
「ああ、俺は少しこいつらに話すことがあるから、その間は適当に時間を潰しておいてくれ」
「了解しました」
それを言ってから軽く頭を下げて会議室から出て行く職員さんを見送ったロイドさんは俺達を改めて見回す。
「お前達はこれで晴れてDランク冒険者の仲間入りになるが、今回の試験でお前達の中では何かしらを学び、考えることがあったはずだ」
俺達の先輩であるロイドさんの言葉に全員が真剣な表情で一言も漏らさずに聞く。
「その中には今の自分にないもの、少しの努力では成し得ないもの、それを掴むには幾多の大きな壁があるものなど、一筋縄じゃいかないものが多いはずだ」
内容はそれぞれ違えど、思い当たる節があるようで、頷いたり、拳を固く握り締めたりといった動作を取っていた。
「だが、お前達はまだ若い。今は何度でも壁にぶつかっていけば、いずれはそれを掴むことが出来るはずだ。だからこそ、お前達は今の自分に慢心せず、これからも努力していけ。いいな」
『はい‼︎』
俺達はロイドさんの言葉を心に刻み、中冒険者として、これからをより一層頑張ることを誓う。
<コン、コン>
「入っていいぞ」
「失礼します」
ロイドさんの言葉が終わると、タイミング良くノックが鳴り、扉から先程の職員さんとその後にはマリーさんとミレアさんの三人が入ってきた。
その三人の手には俺達の新しく更新されたギルドカードが握られており、それぞれが持ち主へと返却される。
「昇級試験合格、おめでとうございます。レイジ様」
「ありがとうございます。マリーさん」
俺は満面の笑みを浮かべるマリーさんからギルドカードを受け取り、礼を述べる。
受け取ったギルドカードは銅から銀に変わっており、ランクもEではなくDと刻まれていた。
「よし、これにて昇級試験を終了する! 解散‼︎」
『ありがとうございました‼︎』
その声に従い、それぞれが会議室から出て行く。
俺達も先に出て行く人の後を追って会議室から出て行こうとした。
「レイジ、お前だけはここに残ってくれ。ちょっと話がある」
どこか厳しい顔付きをしたロイドさんに呼び止められた。
「俺だけにですか?」
「ああ、そうだ。二人だけで話したいことがある」
ロイドさんの表情は真剣そのものであり、俺はフールとシルフィアの二人には一階で待っているように頼み、二人が会議室から出て行くところを見送ってから扉を閉め、ロイドさんの方を向く。
「少し話が長くなるかもしれないから椅子に座って話すぞ」
俺とロイドさんは机を挟んで向かい合うように椅子に座り、それからロイドさんは話し始めた。