第118話 信念を貫け
「じゃあ出発すんぞ」
昇級試験二日目の朝、日の出とともに目を覚ました俺達は見張りをしてくれていたフール達に挨拶をしたのち朝食を済ませ準備を整えてから馬車に乗り込み御者台に座っているシルフィアの隣で手綱を握るリュンクの声がすると同時に馬車が動き出した。
今朝の出来事や気になった事を強いて挙げるなら主に三つ。
一つ目は昨晩、俺がジャンとリュンクのアドバイスにより思い浮かんだパーティー名『銀の絆』で良いかどうかをフールとシルフィアに尋ねたところ二つ返事で了承してもらえたので、俺達のパーティー名はギルドに申請するまでは仮であるものの『銀の絆』に決まった。
二つ目は先程から俺がメンバー全員を呼び捨てにしていること。
これは朝食をとっている時にジャンが『僕の方が年上だけど敬語やさん付けとか畏まらずに話してくれないかな?』っと言ってきて、それに続いてリュンクやケトラ、メルやティナも呼び捨てで良いと言ってきたので今はメンバーにだけ敬語を使わずに話す様になった。
そして最後の三つ目は俺の気のせいかもしれないけど、ナーグとティナがお互いにお互いを気にしあっている様子であり、馬車の中でも現在進行形で互いのことを気にしているようだった。
「そう言えば僕達が向かう場所を根城にいる盗賊団は懸賞金などは掛けられてないんですか?」
ガタゴトと揺れる馬車の中でジャンが唐突にロイドさんに尋ねた。
盗賊の中でも強者になると盗賊一人を捕虜、又は討伐すれば成功報酬として銀貨一枚が国から報酬としてギルドを経由して贈られるに加えて、懸賞金が懸けられている賞金首や犯罪者は成功報酬にプラスで報酬が貰えるらしい。
更に言えば捕虜にして奴隷商に売り払えばその分、別途で報酬が稼げる。
「今回の盗賊団は早期発見であり、大した被害も出ていない。後、事前調査によれば要注意な強者はいないから懸賞金はまずない。序でに言うと殺さずに捕虜にしてしまった場合、帰りが大変になるし今回はお前達が人をちゃんと殺せるかどうかを確かめる必要があるから今回に関しては殲滅だけを考えておけ」
どうやら今回は利益ではなく効率を優先すると同時に覚悟が試される。
「大した被害は出てはいないと仰いますが、ギルドに所属する冒険者が『デトラの森』に入ったきり消息を絶ったと、説明を受けた際にお聞きしましたが、そこはどうなんでしょうか?」
そんな時にメルがそう尋ねた。
確かにメルの言う通り、試験を受ける前にロイドさんからその話しを聞いていた。
「はぁー…。お前達に話しても問題無いか…」
メルの質問にロイドさんは暫く頭を悩ませた後に溜め息をついてある話しを始めた。
「お前ら全員、一ヶ月位前に起こった街中での冒険者の十人以上が殺されたことは知っているよな?」
((<ドキッ>‼︎))
ロイドさんの口から出た言葉に自分とフールは心の中では心底驚いたものの表情には表れないようにポーカーフェイスを保つ。
「それって確か元々この試験に参加するはずだった『狼の牙』が犠牲になった事件ですよね?それに確か犯人はまだ見つかっていないとか」
「ああ、その通りだ」
ケトラの質問をロイドさんが肯定したので間違えない。
(その事件の犯人は俺です)
シルフィアを家族に迎え入れたその日の出来事であり、俺の人生で初めて人を殺めた日でもある。
「その被害者である『狼の牙』のメンバーを含めた殺された冒険者達は全員が裏で恐喝や窃盗や誘拐、そしてあろう事か殺人まで起こしてやがってな。冒険者として、いや、人としてやっちゃいけねえ罪を過去に何件も起こしていやがった」
ロイドさんの言葉には怒り込められており、すごいオーラを放っていた。
「その件でギルドは警備兵団と共同で被害者の素性を調べあげたところ。ギルドにはまだ其奴らの仲間がいることが判明した」
裏でそんな事が起きていたと言う事実に唖然とする俺達は食い入るようにロイドさんの話しに耳を傾ける。
「しかし、分かった時には既に其奴らは街から居なくなっていてな。其奴らの姿が最後に目撃されたのは『アルバス』の北門を出た所であり、盗賊団が『デトラの森』に出没するようになったのがそれから後の話だ」
「じゃあ、その消息を絶った冒険者達と今回討伐する盗賊団の中には同一人物の可能性が高いと?」
「あくまで推測ではあるがな。事前調査では其奴等が出入りしている所は確認できていないが、それでもギルドの見立てではその可能性が一番高いとされてるな」
「逃げた冒険者達はどれくらい強いんですか」
逃げた奴が場数を踏んだ冒険者だった場合は厄介であり、俺達だけで対処できるかが不安だった。
「逃げた奴は全部で四人で戦士一人、重戦士が一人、魔術師一人、狙撃手一人で全員Eランク冒険者だ」
「実力は俺達と同じですか?」
「いや、逃げた奴等はEランク以下の依頼しか受けて無ければ、ギルドに冒険者登録したのは早い奴で三ヶ月前で、実力はお前達が確実に上だ」
しかし、ロイドさんの言葉に全員が安心し胸をなでおろした。
「だからと言って安心もしちゃあいられないぞ。彼奴等も元冒険者だ。普通の盗賊よりタチが悪い」
ロイドさんの言葉に今度は緊張感が高まる。
「だからこそ今回の盗賊団の討伐は全員全力でやれ!慈悲なんかいらねえ!彼奴等を放っておけば被害が増えるだけだ!」
ロイドさんの言葉に力がこもる。
「お前達はどうして冒険者になった!憧れや期待、己を鍛えるため、大切な人を守るため、冒険者になった奴は色々いる!だがな!それら信念を捨てる奴は冒険者になれねえ‼︎」
今まで幾度の困難に立ち向かい、己の実力で上級冒険者にまで上り詰めたロイドさんの言葉は一味違う。
「だからこそお前達は自分の信念を貫いて行かなきゃならねえ!その上でこれからのことは避けては通れない道だ!全員生半可な覚悟で挑むな‼︎ 何事にも全力を尽くせ‼︎ いいな‼︎」
『はい‼︎』
ロイドさんの言葉に意志を込めて返事した俺達はその決意を胸に盗賊団の根城を目指すのであった。