夏の日
喧しい蝉の声で、もう昼が近いことに気付く。閉め切ったカーテンの隙間から、夏の白い日射しが鋭く差し込んでいる。そういえば、さっきからやけに蒸し暑い。画面の中の兵士を注視したまま、体勢をぐいと傾けて片手で扇風機のスイッチを探る。
カチ、カチッ。
指先が乱暴にボタンを押し込む。が、気分屋のそいつは動こうという素振りさえ見せなかった。
「チッ」
苛立ちのままに扇風機を薙ぎ倒し、両手をコントローラーに戻す。画面の中の兵士がサブマシンガンをぶっ放すのを眺めながら、そういえば、あの扇風機はコンセントが挿さっていなかったことを思い出した。
「アイザックー、入るぞー」
ドアの向こうでそんな声が聞こえるが、いつもの如く、無視する。相手も別に気にすることなく、いつもの如く、勝手に部屋に押し入ってきた。
「うわ、あっついな、この部屋」
こいつは、俺の兄。成績優秀で、スポーツ好きで、明るく世話焼きで友人が多く、クズの俺を見下している。
このような客は、取り立てて構ってやる必要もない。いつものように話半分で返事をしてやれば、勝手に喋りまくって勝手に満足して、そのうち勝手に帰っていくだろう。
————ところが。
菓子の袋や空き缶に塗れて、人形のように倒れる兄。そこかしこに飛び散った鮮血。俺の手には、散弾銃。白けた煙を吐き出している。
父親と母親の、悲鳴が聞こえて。それから、サイレンの音が近づいてきて。俺は嘘みたいな光景に立ち尽くしながら、ただ呆然と、そのすべてを聞いていた。
……どうして、こうなったんだっけ?
『じゃーん、お前、好きだろ?』
『……何これ』
『叔父さんから、借りてきたんだ。どうだ、本物だぜ』
『……へぇ』
『……ア、アイザック?……おい、何を、』
茹だるような暑さの中、やけに五月蝿い蝉の声を聞きながら、どこか遠い世界のことのようにぼんやりと、「ああ、最低な夏になったなぁ」そんなことを、考えていた。
>>Isaac-17:蝉時雨と散弾銃