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先人の記憶

一昨年くらいに書いたものが出て来ました。

勿体無いので載せます。

俺は偶然、赤茶けたノートブックを手にとった。

頁を捲ると手紙のような書き出しで始まっていた。


貴方がこれを手に取ったという事は、私は狂人として処理されたのでしょう。

そしてまた起きてしまった。

この血には怪物が済んでいる。

これは私が、先人たちの知恵を借り書き留めた調査記録である。

私の手元には今、先人の残した資料があります。

この資料の情報に、私が調査していき分かった結果を付け加え、このノートブックに纏めていきます。


七月十日


初めに、伝承書を分かり易く要約、現代語訳することにします。これがこのノートの一ぺージ目には相応しい。

この村で殺人が起きた。

死体の頭部は潰れたホウズキの様な凄惨な有様だったに 。

町から人体に詳しい人間を連れてくると、脳の残骸だけ無い事に気づいた。

明らかに人間技では無く、鬼の仕業という噂が立ち村人達は混迷した。

村の男達が鬼狩りをしようと山に入ると、また一人犠牲になった。

村人達は鬼を恐れ神として崇め、社を建て、農作物や山の幸を滞りなく奉納した。

しかし、鬼は奉納品には目もくれず四ヶ月毎に人を襲った。

難境に陥った彼らは、生贄を捧げる代わりに、好き勝手に人を食わないでくれ、という請願の旨を書に記し、貢ぎ物と共に納めた。

藁にでもすがりたかった彼らは、鬼が読む筈も無いと分かっていながら、書に一縷の希望を託した。

それからというもの、鬼は人々を襲う事が無くなった。

彼らが生贄にどのような人間を捧げるのか、それは既に決定していた。

誰が相談するでも無く、村人達は共通認識を持っていた。

それは各家々に生まれた第二子であった。

長男が家を継ぎ大黒柱になる村社会において、次男は替玉に過ぎず、次女以下もまた同様であった。

長男以外の兄弟姉妹はある種の奴隷であるという慣習がこの村には、古くから根差している。

※この悪しき慣習こそ、最後まで残り続けた物だった。

幼少の頃より兄が絶対と教育を施され、死ぬまで労働力としてのみ生きる被差別階級者。

村人達は彼等を躊躇なく差し出し、彼等も又躊躇なく贄となった。

生贄は減り続けていき、遂には第一子の赤子すら差し出す自体にまでなった。

しかし鬼は赤子を喰らわず、その日、村人が一人犠牲になった。

村人は困惑し、次の生贄として町から人を攫った。

だが鬼は又も喰らわず、今度は犠牲者も出なかった。

そして村は平和になった。

伝承はここで終わっています。

鬼は行方知れずであるのに、彼等は安堵してしまった。

七月十三日


話は手元にある先人の調査書まで、時間が飛びます。

この調査書の内、重要だと思われる部分を抜粋、要約します。

筆者がこの調査書を記すキッカケとなる事件が、ある夏の蒸し暑い晩に発生しました。

それは殺人事件でした。犯人は人間で、死体と姦淫している場面を村人に発見され捕縛されました。右手に凶器となった鎌を持っていた事や、衣服が血塗れている事からも、彼が犯人だという事実は揺るぎようがありませんでした。

そして、彼は村民会(この村独自の司法であった模様)にて死刑宣告され地下牢に入れられるのですが、次の明朝、村民の一人が異臭を感じ地下牢を覗くと犯人は変わり果てていました。

辺りには、赤黒いどろっとした物体に白い固形物が混じった何かが飛散し、凄惨な光景が広がっていたそうです。

死体は首から上が潰れた鬼灯のようになり、足を組んだまま仰向けに倒れ、右腕を鉄格子の間から伸ばした状態だったと記されています。

犯人兼犠牲者が○○家の"第二子"であった事から「伝承の鬼が現れた」と村人達は慄然しました。

そして村では、被差別階級者達が総じて『鬼童』と呼ばれるように成りました。

筆者は犯人が、数年前から少しずつ狂い出していたと回想しています。

彼はこの事件を調査し、鬼の正体を突き止めようと様々な人物に聴取を行い、彼の勤める村役場の資料庫を漁ったと書かれていました。

しかし、目ぼしい情報を得られず、この資料は途中から一行日記に成り果てています。

そして、ある日を境に同じ言葉だけが書かれるようになりました。

あの女を殺す。

あの女とは、これまでも日記に何度と登場した彼の妻君を指した物だと思われます。

この言葉が書かれ出した頃は、筆跡は安定していました。しかし時が立つに従い、字はミミズの様にぐにゃぐにゃと変化し、最後に書かれた文字は読解不能な何かへと変わり果てていました。

七月十五日


昨日参照した資料は筆者不明ですが、日付が書き込まれている為に分かった事が一つだけあります。

読解可能な日付けから、日記の最後の行までを数えた日付けの日。その日には、殺人事件が発生し犯人は死刑以前に死亡した旨が、役場の資料には書かれていました。

その資料によると、この年、数世帯が町に移住したようです。

そして再び、鬼の影は消えました。

その事件から数十年、大きな戦争を二つも跨ぎ現在の元号になってからは、鬼の犠牲者は出ていません。

七月二十五日


鬼を祀った神社を調査した。

黒い霧状の何かを見た気がするが、気のせいだった。

禰宜によると、伝承通り鬼の出現後に建てられたらしく、町の方にある社と大差は無かった。


八月一日


その後、このノート(調査書)は日記になっていた。

調査の為に動いてはいるが、資料が見つからなかったようだった。

日記には、定期的に変な物が見えると書かれており、時が経つ毎にその頻度は増えていった。

また日記後半には、女性の名前がよく登場するようになっていた。

そしてノートブックは一冊埋まり、終了している。

日記は毎日書かれていた訳では無いので、四年間も続いていた。

筆跡は安定しており、先人と同じ道を辿った訳ではなさそうだ。

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