初心者訓練施設
今回は、冒険者協会から教えてもらった初心者訓練施設でのお話です。
訓練施設の外観は、スポーツクラブと打ちっぱなしのゴルフ場をくっ付けたみたいなものだった。入口から前半分が受付けや更衣室、個別練習室、それに倉庫もあるらしい。後ろ半分が実戦練習の為のフィールドになっていた。
訓練施設は時間が少し遅い事もあって、あたしの他に訓練している人はいなかった。他の人のやり方を参考には出来ないものの、失敗しても恥をかかないで済みそうでひと安心だ。
施設の受付けに弓の練習をしたい事を告げると、弓道場に案内された。
職員が何かを操作すると、遠くに案山子のような標的が現れた。目標は固定式と移動式があるらしく、最初は固定式を出してくれたようだ。
まずはレンタルした弓を装備すると、現在の状況が表示された。
【レンタル弓:練習するためだけに作られた弓。劣化消失することはないが、攻撃力はほとんど無い。ATK+1】
とりあえず矢をつがえる。目標は固定式の案山子もどきの胴体部分。弓を引いて第1射を穿つが、矢はあらぬ方向に飛んでいってしまった。
「あはっ…さすがにすぐには当たらないか」
やはり、ナビゲーションすらないのだから、そうそう当たるものではない。しかも飛距離も全然届いていない。これはかなりの訓練が必要みたいだ。
「せいっ!!」
「せいっ!!」
「はっ!!」
「やっ!!」
「まあまあ…当たるようになった?」
ひたすら動かない案山子を狙って打つこと1時間、やっと案山子に当たり始めた。
それならと今度は、移動式の案山子に挑戦するも、やはり全然当たるはずもなく、それでも諦めずに矢を放っていると、何とかコツらしきものを掴めてきたようだ。
「もうちょいなんだけどなぁ~」
訓練用のレンタル弓矢を使っているため、残量を気にする心配もないためか、それともスキルLvが上がってきたためかは分からないけど、とりあえず100発ほど射的して、固定式で5割、移動式では3割程度の命中率まで精度を上げた。
これでは弓を使いたがらないのも納得出来る。固定式でこれなら、とっさの行動ならなおのこと当たる確率は低くなるに決まっている武器など『クズ』扱いになって当然…しかも、剣等と違って弓には『矢』が必要になるが、こんなに低確率なら、どんだけ大量の矢を用意しなくてはいけないのか…考えたくもない。
しかし、あたしはそれを何とか使える程度まで引き上げる必要がある。スキルの都合上、次の攻撃系を入手するまで、これで魔物?を倒していかなければならないのたから、これは死活問題なのよね。
しばらく打ち続けると、移動式目標の当確率が4割を越え始めた。見ると弓のスキルがLv5に、達成している。やはり、地道にスキル上げをすれば報われるということか。
他に気が付いたのは、最初に比べて目標が見やすくはっきり見えるようになったこと。最初なんてぼやけてたのに、今ではすぐそばにあるようにくっきりしっかり見えている。
おそらく遠視スキルがLv5に到達している事から、その効果で補正かかかったのかもしんないけど、この訓練施設ではどれだけ費やしてもLv5が上限なんだそうだ。
このまま弓を練習していても感覚を覚える程度なので、素直に止めることにした。レンタル弓を返却する。
最終的には固定式では8割、移動式では5割の当確率まで達していた。
さて、時間的にはまだ寝るのに早そうなんで、歌のスキルを上げてみることにしよう。職員さんに聞いてみると、別の部屋へと案内された。
ワンルームの中にソファーとテーブル、そして最奥に何かの画像表示板が設置されており…見た感じとしたら、カラオケボックスまんまじゃないですか。
リモコンもどきとマイクがあり、歌の選択はリモコンもどきに言うことで、ニュアンスの似た曲を検索してくれるようだ。
(まんまスマホの検索システムじゃない)
後はマイクに向かって熱唱すればいいんだって言うんで、とりあえずド〇えもんを選択してみる。
…………知ってるリズムが流れ始める。
「こんなこといいな…………大好きド〇え〇ん♪」
一気に歌い上げると、全面の画像に音程、安定性、ビブラート&ロングトーン、リズム、表現力、独創性…様々な項目の点数が表示され、総合評価6と出た。10段階の6なんで、決して悪いと言う訳ではないのだが。
【ド〇え〇んの歌】
某国民的ア〇メの主題歌。精神的ダメージで病んでいる者に歌う事で回復させる効果あり。表現力が付き、評価が8を越えると追加効果発生。現在の評価6
【分析レポート】
基本に忠実ですね。ただ、表現力や声の強弱をつけると、もっといいでしょう。
うーん…普通に歌うだけじゃ評価は上がらないんだ~(/´△`\)
とりあえず知ってる曲を次々と熱唱していく。評価は総じて6か7で、それ以下でも以上でもない。
普通に歌うだけじゃダメと分かって、強弱をつけたり、感情を入れたりしたけど、そんなに劇的な変化は起きなかった。
30分も続けて歌っていると、さすがに喉が渇いてきたんで、受付で飲み物を購入し、喉を潤してから、再度挑戦する。
うーん、しかし歌スキルなんだし、癒しの歌とか無いの?と思って、『癒しの歌』って言ってみたら、なんか頭の中に歌詞とメロディが湧いてきた。
「ほんの小さな出来事に、愛は~♪」
某ドラマの主題歌を歌いきると、評価が初めて8という高評価をつけていた。
【サ〇テンの花】
某ドラマの主題歌、癒しの効果弱。評価8以上で追加効果、約15分の持続効果発生。現在の評価8
【分析レポート】
基本に忠実ですね。表現力や声の強弱もついてきているので、歌い込みをして独創性を伸ばしましょう。
うーん…独創性が何なのかよく分からないけど、とりあえず効果を知るためにいろんな曲を15曲ぐらい歌ってから終了。
分かった事は、評価が8を越えると追加効果が発生するという事。それから、何度も同じ歌を歌うことで評価が上がって最高評価のみがリストに残ること。
一度歌って評価された曲は、リスト選択するだけで同じ評価の曲が口から勝手に発せられる事だ。
さて、次は初体験の《無属性魔術》の練習だね。魔術の類いって杖などを媒体にして使用するのが普通なんだそうで、職員さんからレンタル杖を借りることにする。
【レンタル杖:練習するためだけに作られた杖。劣化消失することはないが、攻撃力はほとんど無い。最下級魔術しか使用出来ない。ATK+1】
弓道場の隣のエリアで、固定式の案山子が出現する。杖を構えて、《無属性魔術》最下級呪文を唱える。
「《千脚万雷》(ボルトレッグ)!!」
言葉のまんま小さな雷の塊がたくさん出現し、的に向かって駆け抜けていくかのようにどんどん当たるのが見える。魔術は弓よりも命中率が高く約9割だった。威力もまずまずのようだし使い勝手も良さそうだ。
しばらく魔術を練習して、Lv5にしてから杖を職員に返す。これで訓練施設でやれることは終えたことになる。
ともかく、この世界での生き方について必要な体の動かし方や魔術など、初心者として覚えることは最低限習得した事になる。あとは実戦を繰り返してスキルLvを上げることになる。
確認してみると《身体能力向上》もLv5まで上がっていた。どうやら別のスキルの訓練による経験値も関連性があれば反映されるようだ。心なしか体が軽く感じられ、一つ一つの動作がスムーズに移行する。
さすがに初日からやり過ぎても後に響くだろうと思い、大人しく宿屋に戻って寝る事にしよう。
のんびり歩きながら《遠視》《身体能力向上》《探知》のスキルを意識すると、僅かずつだが上昇している。この種のスキルは街中であれ、行動するだけで上がっていくらしい。
来るときよりも視界が遠くまではっきりしているし、明るく感じられた。
空に見える星が、まるで望遠鏡を見るようにズームアップする事さえ出来るようになっていた…。
だからかな?あまりに上手く行ってたから…油断しちゃったのは…。
やっとスキルLvもそこそこ上がったので、次は実戦です。
とりあえず次回は初心者訓練施設でのお話になります。
【パーソナルデータ】
名前:アケミ
種族:人族(未知の大陸出身)
職業:冒険者(ランクG)
同調率:0%
満腹度:70%
口渇度:15%
【特有能力】
《武技特技の系統樹》
【スキル一覧】
《弓》Lv5 4up
《歌》Lv5 4up
《料理》Lv1
《薬剤》Lv1
《木工》Lv1
《遠視》Lv5 4up
《探知》Lv2 1up
《小手先の技量》Lv1
《無属性魔術》Lv5 4up
《身体能力向上》Lv5 4up
スキルExp5