Freedom Onlin
「いやいやいや、君どうやら平気そうやな。身体ちゃんと動くん?なら、なんとかなりそうな感じやなぁ」
いかにも胡散臭い芸人って感じの口調に、思わずガン見すると、バラエティー番組で見たことがある、明○石家さ○まに似た風貌の男の人だった。
あたしは素早く立ち上がると、あんた誰?と言うのをなんとか押し止めた。初対面の人にいきなりそんな言葉を言うほど、あたしは世間知らずじゃなかった。しかし…
「キミさぁ、今「あんた誰」とか言おうとしてへんかった?」
「えっ、なんで?」
この怪しい男なんで言ってもないのに、あたしの心をまるで見透かされてるみたい、気持ち悪い。
「えっと、状況が分からないんで、良かったら説明してくれますか?」
「ええで、そん為に来たんやからね~」
なんともいい加減な口調なんだけど、今の状況を説明してくれるのはこの男以外いないのだから、こちらには拒否権すらない。
謎の男(面倒なので以下謎男と呼ぶ)が何か空中をタップするような意味不明な行動をした途端、何もなかった場所にいきなり丸テーブルと椅子が2脚現れた。
おいおい、これはどんなトリックなのかあとでじっくりと種明かしをして欲しいものだ。
椅子を勧められたので遠慮なく座ると、謎男も向かい合わせに座ったので、とりあえずこちらから質問してみることにする。
「まず、あたしは死んだのか知りたいんだけど分かる?」
「分かるで、お嬢ちゃんは限りなく死に近い状態ではあるけれど、復活の呪文とかで生き返る範疇にいるってとこやな」
「はあっ?」
思わず間抜けな言葉を発したのも仕方ないだろう。例えがあまりにも現実離れしてたんだもん。なんで例えがド〇ク〇なんだ。確かにゲームが一般市民向けに流通したきっかけであり、その後しばらくは続編販売日には長蛇の列が出来てネットで流されたのは知ってるし、そういうのをあたしもやったけど…でも、なんでそれが例えなの?
「あんましにもアバウト過ぎたようやが、現実を率直に言えば、お嬢ちゃんは意識不明の状態で、事故からすでに3日経過しとる。残念ながら、今現在も目覚める様子はないな」
意識不明…なんだ。こんなにぴんぴんしてるのに全然実感ないや。じゃあ、ここにいるあたしって一体…いや、それより…
「あの子大丈夫だったのかな…」
つい口からこぼれ落ちたのは、あの時庇った小学生の事だった。
「それは、お嬢ちゃんの側にいた小学生の男の子のことかな?」
「知ってるの?」
思わず食い付き気味に聞いてしまうが、それを諌めるかのように答える謎男。
「お嬢ちゃんが運び込まれて来た時に一緒に来た男の子のことなら、かすり傷程度だったから心配しなくてもいいですよ…
しかし、自分の心配より他人の心配とは…悪いことではないけれど、予想の斜め上って感じの印象だね」
「だって気になったんだから仕方ないじゃないの…」
「それもそうだねぇ~」
なんか、のんびりしたやり取りが続いてるけど、まあいいか。それよりも気になってる事があるんだよね。
「ところで、さっきからお嬢ちゃんって連呼してるけど、あたしには松本明美って名前がちゃんとあるんだけどね!」
「それは失礼、これからは松本さんて呼ばせてもらうよ」
「了解。ところであたし、このままだとどうなるのかな…」
「このままにしといたら、いつか目覚めるかも知れないし、目覚めない可能性もある。これは現実世界ではどうも出来ないことなんだ」
あれ?口調が普通になってるよー、これって真面目な話とかの場合だけ素が出ちゃってるてことなのかな?
なんて謎男の口調の変化を面白いと思っている最中も謎男は難しい言葉を連ねていた。
「…それで結論として、君の精神と肉体の神経回路の同調率がかなり低いことが原因の一端にあると私は見ている訳なんだ」
「シンクロ率って何?」
「うーん、アバウトに言うなら精神が肉体を動かそうとすると、神経細胞が即座に動いて行動するわけだけど、それが阻害されたり何らかの原因で動かないと困るよね。
その神経細胞が命令を聞いてから実際に動いた割合って感じかな。これ以上詳しく説明しても理解出来ないかもしれないから、省くね」
確かにあんまし難しいこと言われても理解出来ないだろうし、その程度で良いと伝えておく。
「ところで今更なんだけど、あなたは何者で、ここは何処なの?それから、あなたの本当の言葉使いはどれなのかな?」
「すまない自己紹介がまだだったようだ。わたしは内閣府情報管理課再生医療部の中山田新太郎です。
ちなみにこちらが地で、先程までのはこちらに来る前に伺っていた場所での方言が抜けきっていなかったようですね…聞き取りずらかったようならば謝罪しなければならないが…」
「あ、それはいらないです。あと、ここが何処なのか教えてくれますか?」
はっきり言って、口調はこっちの方が断然聞き取り易いし、別段謝罪してもらうほどに気に障ってもいないんで、さっさと話を進めてほしかった。
しかし、随分と偉そうな役職みたいなのに、これだけ砕けてるんだなぁ…とか思いながら中山田さんの言葉の続きを待つ。
「ここはいわゆるネットワーク空間、しかも再生医療部所有の独立した一角に当たります。それではなんで松本さんがここにいるかと言う事の前に、まずはこれを見て下さい…」
中山田さんは再び空中に指をタップするような仕草をとる。と、ふいにテーブルの中央が四角のモニターに変化した。
そこに写り出されていたのは、病院のベッドに静かに寝る自分の姿だった。腕には点滴が刺さっているだけで、特に重病のような雰囲気はないかな…。
「ご覧のように松本さんは現在も目覚めることなく、意識不明の状態なんですよ…
普通ならば、このまま目覚めるのを待つのが普通なんだけど、去年から施行された特例措置法に、君が該当するとの連絡が入ったので、装置を着けさせてもらったというわけなんだ」
確かに病院のベッドのあたしの頭には、目の場所まで隠れるヘルメットのような物が着けられていた。
「君にはこれからVRMMOをやりながら、現実世界にいる自分の精神と肉体との完全同調を目指してもらうことになる。
この特例措置法を行った結果、既に何人かの人間が社会復帰を果たしている」
「本気?」
「本気です。これは政府の決定事項だからね。もちろん拒否権はあるんだけど、これは政府の承認済みの法案なので、特例措置法の該当者にかかる全ての費用はこちら持ちなので、心配はいらないよ」
確かに最新鋭のVRMMOは多種多様に進化しているって聞いてるけど、病院にまでそれが進出してたなんて…しかも無料♪
まあ、やれば社会復帰出来る可能性が増えるのならば、やるしかない…んだろうね。
「分かった、やるっきゃないね!」
「やる気になっていただき何よりです。これから始めるVRMMOについて少々説明させて頂きます…」
中山田さんの説明によると、あたしがプレイするのは最新作のVRMMOで【Freedom Onlin】通称【FO】というものらしい
…これは一般ユーザーも普通にプレイしているということで、協力しながら進めて構わないらしい。
正式な運用もつい最近とのことで、すぐに同レベルの仲間も見つかりそうで、まずはひと安心だ。
廃ゲーマーほどゲームはしないが、友達とわいわいする程度にはゲーム慣れしているわたしにとって、レベル差があり過ぎて、ハブられて孤独感になりながらやるゲームほどつまらないことはない。
どう進めていくかは別として、感じが掴めるまでソロでのんびりやって、迷惑がかからない程度に育ったら、パーティーに入れてもらう予定にしようかな…。
ゲーム内容は一般的なRPGでスキルLv方式で、スキルとはいわゆる特異能力のことらしい。つまりは《剣》スキルを取得すれば剣を使えるようになる。もちろん取得しなくても多少は使えるけど、アーツ、いわゆる必殺技
を覚える事はないのだそうだ。そしてスキルのLvを上げることによりキャラクターが成長し、強くなったり、いろんな事が出来るようになるらしい。
スキルをある程度まで育てるとアーツと呼ばれる必殺技や特技を覚えるようになり、それが冒険の障壁となる敵や罠、行動範囲を広げていくことになるのだ。更にスキルは条件を揃えると上位強化、究極進化が出来るようになるのだという。
スキルは最初から十個まで選択出来て、Lvが上昇するか、イベントを達成するとスキルExpが貰えて、それを消費する事で新しいスキルを取得することが出来る。
メインスキルは十枠しかないが、普段使わない時は、サブ枠に移動が自由に出来るので、使い勝手は悪くないようだ。
キャラクターステータスについて一通り聞いた感じは…
HP、これは俗に言う生命力のことだが、モンスターなどとの戦闘で0になった場合、3分以内に蘇生行為が実行されなければデスペナルティで強制帰還され、最終セーブポイントで復活するが、30分の全ステータス半減措置、さらに武具の耐久値10%減少(永続的)とかなり厳しい…。
MP、これは魔法力のことであり、これがなくなるとやはりデスペナルティが発生して、30分全てのステータスが30%ダウンするが、それ以上の制裁措置はないとのこと。
同調率、これはあたしのような患者だけの特別表示らしく、これを上げることがあたしの当面の目標だとされる。
満腹度、これは言葉通りのことらしく、ゲーム内で行動すると減り始め、食事をすることによって回復し、0になるとHPが減っていくらしい。
口渇度、これはやはり言葉通りであり、喉が渇いている状態を指して、行動により増大し、100になるとMPが減る。飲み物で回復出来るとのこと。
ここまでがメインステータスで常時表示らしく、次にサブステータスだが、力強さ、敏捷性、器用さ、知性、精神力があるらしい。内容は割愛させてもらう。メインと違って不表示設定にする人が多いらしい…
これはどんな行動をすれば、どれがどの程度上がるとか気にしながらプレイするのを好まない人が多いらしいかららしいが、これはあたしも不表示にしとこうっと。
あと、このゲームには定番の魔王討伐とかは現在の所は導入されていなくて、自分の好きなことを範囲内でやることを売りとしているのだそうだ…
まだスタートしたばかりなので、行動出来る範囲も狭いんだって言うけど…まあ、やればわかるよね。
「さて、概要などの説明は終わりましたので、早速始めてみましょうか!?」
「はい…」
「松本さんは現在、ネットワーク空間にログインしている状態です。つまり現在の松本さん自体がアバターなのです。
普通ならばアバターを作って好きなキャラクターを演じるのですが、今回はこのままの容姿を反映する事になりますが、よろしいですか?」
「いいよ」
「はい。……ええっ!! よろしいんですか?便宜上言ったまでなんですよ…
別にアバターを新たに作成して、それに移行しても問題ありませんし、作りませんか?」
あたしの即答に、思わず中山田さんが驚いたような感じであたふたしている。なんか新鮮で面白いし、このまま弄るのもいいよね(笑)
「大丈夫ですよ。ゲームするって言っても、結局は自分の身体を動かして神経細胞を活性化させることが目的なんだし、リアルと同じの方が動かすのに違和感がないと思いませんか?」
「それはその通りなのですが、個人情報保護法とかで、松本さんに影響が出ないか少々心配なもので…」
なるほど…そういう心配もあるんだぁ、でも何とかなるんじゃないかな。
結局、新しいアバターは作らないで、名前だけをカタカナ表示にする事に決まった。
「あ、それからこれはあくまで松本さん自体の精神と肉体の同調率を目指しているので、基本ステータスに反映しています」
「了解♪」
「最後になりますが、通常なら宿屋などでログアウトすることになりますが、今回はログアウトするには同調率を限りなく上げて、病院の松本さん自体が意識を回復するしかありません…
ですので、松本さんはゲーム世界で生活してもらわないといけない事になります。戦闘で死んでも宿屋で復活しますので、ご心配なく。
では、ゲーム世界で楽しんで来てください」
そしてあたしは【FO】レザリオンに降り立った…
とりあえず次回はスキル選びです。
それから文才ないので、基本的には毎週土曜日投稿予定です。