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1618

作者: 七水 樹



案外、何にも覚えていないもんだな。



なんて薄っぺらい感想を抱いていた自分を、

嘘だね、結構覚えてるもんだね、

という新しい薄っぺらな感想で塗り替える。


三年も前の教材が、

まさか僕のこの涙腺を揺るがせる日が来るとは

みじんも思っていなかったのだけれど。


ぺらりとページをめくってみては

汚い字をなぞってみるけれど、

あらま、悲惨なほど何にも覚えてない。

でも、あの時呆然と天井を見上げていた自分のことは

はっきりと覚えている。


なんでだろう。

あの時は永遠に続くと思っていた苦行が

今はすごく懐かしい。

たぶん今の僕があそこに戻ったとして

同じように辟易するのはわかりきっているのだけれど。



明日はごみの日。

燃えるごみの日。

今まで見向きもしなかった、随分前に解いた教材。

邪魔だから捨てなきゃね。

だって見向きもしなかったもの。

復習なんて、一度もしなかったもの。

でも、

なんでだろう。

あんなに大嫌いで仕方なかった先生からのプレゼントが

今はこんなに愛おしい。



なんだかんだで、

僕とともにあったのは、

健全な学生に相応しい学業というものだったのだ。


解いただけの問題集。

赤文字だらけのプリントの山。

覚える気のないマーカーライン。


踊り踊る文字のその延長線に

今の僕がいる。


何を手にしただろう。


そう、案外何も覚えてないもんだ。

ごみ袋に投げ入れられた教材たちのように

僕は記憶でさえぽんぽん捨てていくから。

そういう人間になっちゃったから。


何を得てきたかもわからない。

失ったものばかりあるような気がして

でもそれが何かもわからない。


濃密なようで、淡白な三年間だった。

永遠のようで刹那だった。

ただ今少し、寂しさに似たようなものを僕は持つ。


だからきっと

寂しさになる何かを、

僕はあの場所で得たのだろう。



あの、三年間で。

1618の青春を。


高校生活の三年間で終了した課題の冊子をごっそり捨てちゃいました。

復習するかも~と思って、一度もしなかった諸々のやつ。

ちょっと寂しいかなぁ、と。

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