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二十五章

 仕事を終え、家に帰った。居るはずの女がいない。探しても探しても見当たらない。近所の公園かそれとも夕飯の買出しにでも行ったのか、そんなことはない違う。今の彼女の精神状況で公園への散歩どころか食事の準備なんて無理な話だ。

 女は割れた窓ガラスの上に立っていた。

 ――私は原初。最初にして終わりに戻る存在。……ところで、ねえアナタ誰。

 その言葉を残して女は二階の窓から霧のように消えた。

 それからなのだろう、男が壊れたのは。

 男は女の残した一本の髪の毛から研究に研究を重ねてあるヨロイ使いを生み出した。

 人工実験ヨロイ体一号……それが私のお兄ちゃん。

 女が消えてから謎の特殊能力者による犯罪に頭を悩ませていた政府に人工のヨロイ使いの生成方法を教え、この国で管理局を作り上げた。

 全ては女を追いかけるため。無我夢中でたくさんの人を犠牲にして追いかけ続けた。

 しかし、とても重要な問題が残され続けた。

 お兄ちゃんと私以降の人工ヨロイ使いは生まれることはなかった。……その代わり、たくさんの人たちは死んだ。男も女も小さな子供も年寄りもみんなみんな。実験の行き着いた先。だから、私達は原初がばら撒いた種のチカラを借りることにした。それが雷太さんのように偶発的に生み出されたヨロイ使い。

 お兄ちゃんと私のチカラで圧倒し支配し管理局に加えた。そうして、やっと管理局が形になり表の管理局と暗部の二つの組織ができあがった。

 数年間という時間を費やしたが蓄え続けた力で原初の足取りを掴むことに成功する。

 その任務に私とお兄ちゃんを含むその時の王と暗部達が全員集合した。原初は空を飛び、雷を起こし、素手で岩を砕き、人を支配し、大勢のヨロイを自由に操った。

 残ったのは私とお兄ちゃんだけ。ねえ、よく聞いて。ここからが凛渡お兄ちゃんにとって重要な話になるから。

 戦いはとても凄惨で激しく、まるで泥仕合のようなもの。しかし、戦況は一変するの。原初の攻撃が私の体を貫いた。確か、氷の刃だったはず。それを見たお兄ちゃんは怒り狂い、ヨロイとして覚醒した。ヨロイとして覚醒したお兄ちゃんは強大なチカラで原初を追い詰めていった。そして、原初の持つ最大限の一撃とお兄ちゃんの放たれる限りの全力の攻撃が相対する。遥か地上の空港にまでその爆発は及んだ。

 もうお気づきかしら。そこにいたのが凛渡お兄ちゃんだよ。

 話はこれだけで終わらないわ。お兄ちゃんはヨロイとして完全に覚醒したが、その間もずっと自分の意識を保ち続けた。……たぶんだけど、凛渡お兄ちゃんと契約してからも人の自我は持っているはずよ。

 突然の事態に油断したんでしょうね。お兄ちゃんは原初を倒す為に行動を起こした。しかし、そこで待っていたのは意外な光景だった。一人の少女のチカラにより地面に伏せる原初の姿。

 その少女こそ、貴方の妹ココロ。

 混乱するお兄ちゃんはそのまま多くの記憶を失っていく、その時お兄ちゃんは一つの願いを口にしたらしいわ。

 ――妹の幸せを。

 それがヨロイになったお兄ちゃんが契約者に要求する願いになった。



                 ※



 「――後はなんとなく分かりますよね。お互いの大切な家族を守りたい私のお兄ちゃんと凛渡お兄ちゃんが出会い契約した。そして、原初を倒したココロちゃんを研究し管理する為に貴方に偽の記憶を植え付け、私が妹として成り代わった」

 そうして心の長い長い苦しみの歴史の話が終わった。

 話を聞きながら体を喪失感が埋め尽くしていった。自分のうなだれた体にまるで力が入らない。

 「俺は……ずっと騙されていたのか……」

 その言葉が出るのを既に知っていたのかのような返事が返ってくる。

 「そう、凛渡お兄ちゃんは騙されていたの。私という女に……カワイソウカワイソウな凛渡お兄ちゃん。妹の偽者をずっと家族だと信じ続けていた間抜けな人」

 抑揚のない声は実に気持ちの悪いものに感じた。

 俺は間抜けな道化だ。言われるままに動き、手の上で必死に足掻いた。俺は本当に助けを待っていた妹に気づかずに、赤の他人を妹だと思い込んでひたすらに愛し続けた。これが滑稽と言わずなんと言おうか。

 ――おい、ブルーさんよ。俺の質問に答えてくれないか。

 数秒待ったが返事はない。しかし、奴が耳を傾けていることは理解できた。

 ――アンタは本当にズルイ奴だよ。

 「お兄ちゃんとのお喋りは楽しい?」

 心の声が聞こえる。

 「……お前の本当のお兄ちゃんはだんまりだよ。なにしてるんだろうな、妹がこんなに探しているのに。……俺も人のこと言えないけどな」

 最後の言葉は苦笑いを浮かべた。

 「そう」

 あっさりとした返事が俺の心をチクチクと刺激する。

 「俺をどうしたいんだ。秘密を全て知った人間て大概はろくな結末迎えないよな……」

 目の前の心はそっと首を振る。

 「いいえ、まだ全てを知っているわけじゃないの。ここから先は、私が話した物語の主役だった男の人が話をするわ。……そこにいるんですよね」

 心は自分の後ろ斜め方向へ視線を向ける。そこから出てきたのは、俺の中でも出来上がっていた犯人の答えあわせだった。

 「やっぱり、アンタが黒幕かよ……」

 ソイツは普段どおりのヘラヘラとした笑みを浮かべながら全ての真相を知るものが出てくる。

 「うん、僕だよ。支部長であり管理局全てをとりまとめる局長でもあり原初を生み出した張本人。始まりと破壊と終わりを目指す男とは僕のことだよ」

 舞台役者のような大げさなリアクションで両手を広げた男が心の隣に立つ。

 「――犬飼浩二!」

 全てが自分の世界だとばかりに手を広げる男に対して、憎悪の瞳を向ける。俺を身近で監視しつつ俺に洗脳なんて真似ができる奴がいるとすればコイツだけだ。真実がどうあれ全てのは苦しみと悲しみの始まりを司る男その人である。

 

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