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二十二章

 目の前の年齢も大して変わらない男が自分をヒーローと名乗る。これほど滑稽な光景があるのか。いや、ない。ありはしないのだ。あってはいけない。

 「いいわ、アンタがヒーローなら私はどこまで行っても悪。最低のクズと罵られようが、死の直前まで恨みの中にいようが……私は悪。それでしか生きられない悪。……ねえ、ヒーローさん」

 淡々と吐き出す言葉の中、目の前の男に声をかける。

 「悪は悪でしか生きられないんじゃないかしら。最初から悪であるべく怪人として生まれたなら戦うしかない奪うしかない。奪われないようにアンタみたいなヒーローも現れる。そして私達、怪人を傷つける。……悪も居場所が欲しいのよ。私達みたいな悪には居場所なんて必要ないの。ただ、消されるの? 悪という理由だけで、それしか生き方がないのに」

 ヒーローは即答した。

 「悪は悪でも居場所はきっと見つかる。……居場所を探し続けるんだ。お前はそれを放棄した。それだけの話だ」

 優しくも冷たい言葉に思えた。

 一瞬とも永遠とも思える時間を過ごした気がした。その間、過去を振り返る。三度の瞬き。

 昔はもう少し幸せだった気がする。だが、周りに他の人よりも悪が多すぎただけ。どんなヒーローも悪に触れ続ければ心が死んでいく。そんなことすら忘れていた。目の前の男は、私が感じた以上の悪に触れながら正義の味方に憧れ続けたのだろう。その中で正義を叫び続けてきた本当のヒーローだ。だからこそ、私は全力でこの男と戦わなければいけない。

 久しぶりに生きるという言葉が私を駆け巡る。コイツを倒して生きていこう。コイツを倒せば私は悪に誇りを持ち居場所を手に入れるかもしれない。

 「うん、なら探すね。今すぐに……行こう、ゴーレム」

 土の巨人は拳を構える。そして、雷太へ向けてその巨大な拳を振り落とした。

 その時のアースの顔には穏やかな笑みが浮かばせていた。これで勝ったのだ、私の操る巨人を超える存在などいない。だが、おかしい感触がしない。

 「なにしてるの……潰してよ! ゴーレム!」

 巨人ゴーレムの拳は雷太の右腕一本に受け止められて動きを止めていた。

 アースはさらに気持ちを込める。男を潰せ砕け壊せと。しかし、それから先からはピクリとも動かない。

 「いいパンチだ。だが、それだけだ」

 もう片方の左腕をゴーレムの拳へと放つ。すると雷太の一撃により拳にヒビが入り、そのヒビがゴーレムの体を侵していく。

 「なんて力なのよ……!?」

 忌々しくアースは舌打ちをすれば、ゴーレムを二歩背後へと向かわせる。すぐさま足を動かすと同時にゴーレムのヒビが入る原因となった右腕を落とす。轟音を立てながら腕は地面へと落下した右腕に冷や汗を掻く。あのまま腕が付いたままなら、拳どころか体を粉々になっていただろう。

 ハッとなり慌てて前方を見る。逃げることや状況を窺うことに気を回しすぎた。ヤツの姿がない。

 「おい、おせえよ。ノロマ」

 声は遥か上空。夜空をバックに目を輝かせるヒーローは必殺の一撃の準備をしていた。

 私はこの必殺技の名前を知っている。昔、家族で見ていた。小学校から帰っておやつを食べて、テレビを見て、そうこうしている間に夕飯の時間。家族が集まりテレビのスイッチを入れれば彼の姿が映し出された。

 ――必殺! ダイナマイトパンチ!

 確か、そんな名前。

 思い出す頃には上空から落ちてくるヒーローの一撃に私のゴーレムは頭から風穴を空けられていた。

 「……あれ、いつから……私が……」

 わるものなの……。

 


                  ※



 ゴーレムをの体を粉砕し、砂山の中から一人の少女を救い出した。

 口を半分開けて涎を流しているので口元を拭ってやった。そっと砂山の丁度良く盛り上がったところに椅子に座らせるようにする。

 どうせこの場所は管理局に知られているし、この子は管理局が拘束し専門の病院か施設に連れて行くことになるだろう。

 「もしもまたアンタが心を取り戻して元気になるなら。……今度はチカラばかりに頼らないヒーローとしてアンタの心を救うよ」

 毎回のようにヨロイを壊す度にこんなことを言う。これは言わば誓約。

 だから、俺はその時まで死ねない。こんな経験初めてじゃないが、それでもいつかこの罪は罰を受けなければいけない。いつになるかは分からない、罰を受けるその日まで戦う。

 「何度も何度も……人の心壊して……俺も、いつからか分かんないんだよ……」

 直後先ほどの変身した姿の反動が来たのか、体を裂かれるような激痛が走る。自分の腕に噛み付き、その痛みを堪えるように体を丸める。

 この程度、俺が奪ったものに比べたら……。

 心身に受ける痛みを堪え続ける。生きて生き続ける為に。

 「悪いな、凛渡……ちと遅れるわ……」

 そう呟けば、地面に倒れ込んだ。砂の山に顔を埋めながら、心の中でごめんなさいを繰り返し続けた。

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