二十一章
「……どうやらオシマイみたいね」
アースが欠伸まじりの言葉を呟く。ピクリとも動かない雷太から視線を逸らして背を向ければ、噴水の上から地面に着地。ツインテールを風に揺らして歩き出す。
そういえば、アクアの姿が見当たらないし建物から声も聞こえなくなった。
「アイツ、ヘマしてないといいけどな……」
頭の上に高く輝く月を見上げてそう言えば、心のざわめきを感じつつ足を急がせようと一歩を踏み出そうと。
「――待てよ、コラ」
アースは今日一番の深く疲れたため息。ゆるりと背後を振り返る。
「アンタもほんっとしぶといわね!」
イラだつ気持ちを抑えられずに背後のその人を見る。
「悪いな、打たれ強いのは昔からなんだよ」
口元の血を親指で拭き取り、勇ましい笑みを雷太が浮かべて立っていた。
※
笑ってしまいそうだった。戦いの際に昔の夢を見てしまうなんて。よりにもよって、あの時の夢だ。自分にとってもトップファイブに入るぐらいの情けない話で忘れられない記憶。これはその時が来たのだということかもしれない。
「……おい、バカ女。ここからが本番だ」
その声にアースが堪えきれずに吹き出す。
「ぷっ……ははははっ。なに言ってんの!? ここからがホンバン、アンタよくこの状況でそんなこと言えるわね。そんなこと言う奴はもう終わってんの! オシマイオシマシ!」
両手を挙げて大げさなリアクションをとるアースの姿を見る。
やっぱり昔と重なるなぁ。あの時は一緒に背中を任せられる奴がいたけど、今は一人。だけどさらに違うのは、敵も一人。負けるわけねえな。
アースの舌打ちが聞こえた。
「その目、気に入らないわ。オーケー、分かったわ。……アンタの自信ごと打ち砕いてみせる。圧倒的で絶対的な暴力でね!」
アースが指を鳴らす。そして、高く飛び上がる。その直後にアースの前方の地面が大きく盛り上がる。その比は先ほど拳を出していたもの以上、中庭の三分の一の地面が底から大きく盛り上がる。地面は砕け、噴水は裂け、木々を押し倒し、岩の塊が地の底から出現する。
「来いよ! 私の本気、ゴーレムモード!」
岩の塊が腕になり足となり目と口を持つ人の顔になる。人の形をした巨大な岩の王それがゴーレム。
「おいおい、マジかよ。……ファンタジーに迷い込んだ気分だ。いいさ、気分も盛り上がる」
顔を上げる。そこはまだ胴体、さらに顔を上げる。やっと赤く輝く目が見えた。目の前にそびえ立つのは、巨大な岩の悪魔。背後には三階建ての廃病院があるが、そこにも追いつく大きさだ。そこが定位置であるようにアースはゴーレムの肩へと着地をする。これがアースのチカラの全てなのだろう。
コイツには勝てない。絶対に勝てない。
――おい、ヒーロー。
さっきまでの俺なら。
「……俺のヨロイは寄生した武器に爆炎を起こすチカラを与える能力だ。そう思ってた」
「思ってた?」
アースの声を耳にしつつ言葉を続けた。
「俺みたいな立場にいるとよく死にかけるんだ。生死の境を彷徨う、生きてるか死んでいるのかさえ分からない時もある」
「はぁ。そんなのヨロイのチカラを持った時点で誰だってそうでしょ。管理局でもアンタの立場でも」
少しだけアースの声に苛立ちを感じた。
「そうだ、そんな時に発現したんだ。俺のチカラが」
ヨロイのチカラが使えるのにヨロイの名前を知らなかった。俺は出来損ないのヨロイ持ちかと思った。声だけ聞こえて、契約して、チカラを手にした。だけどいつになっても不完全だ。そんな中、管理局と敵対するようになり周りに仲間が集まるようになってからは命の危険が増した。そして、絶望的な状況に追い込まれた時に俺の本当のヨロイの本当の名前を知る。
「もうダメだと思った時に、コイツは俺に名乗ったんだ」
雷太の姿を光の霧が覆う。その霧が顔に巻きつき、腕に巻き、足に巻きつく。次第に霧は顔に張り付き、体に張り付いていく。形を持たない物質が少しずつ雷太の体をベースにして形を手に入れる。
「なんなのよ……アンタのその姿……」
絶句、たくさんのヨロイ使いを見てきたアースがそんな声を漏らす。
僅かに残る霧を腕で振り払う。その姿を現した。
雷太の顔には金色の角に真っ赤な目、口らしい口はなくそれ以外の場所は黒く染まる。体の方は黒をベースにしたライダースーツのような姿に普段よりも二周りは大きな手に大きな足。肩や胸の方には簡易型のような甲冑を装着していた。さらに、首から流れるのは炎、それは赤いマフラーのように揺れる。その姿はまさに、特撮ヒーローのような姿。
「これが俺の真のチカラだ。……俺のヨロイの名前はヒーロー。どんな絶望の前でも、何度も立ち上がる。……俺はそんな人たちの夢になる。それがヒーローだ」
前方へ向けてグッと拳を構える。
「ヒーローなんて俺には重い名前だ。だけど、あり続けることが目指し続ける努力はできる。みんなが諦めてしまったこの名前を俺は叶え続ける」
俺はヒーローだ。レジスタンスのみんなが……凛渡が……呼んでくれたこの名前に誇りと責任を持つ。




