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二十章

 悪魔と覇王が相対する頃、場所を変えて向かい合うのは雷太とアース。

 ところ変わって廃病院の中庭。然るべき人の居た時代に人々の心を癒した噴水は半壊し、甘い香りに心を躍らせた花壇は地面が抉れ雑草で溢れかえっていた。

 原型を留めない噴水に腰掛けるのはアース。肩を大きく上下させるのは雷太。

 「まだ懲りないの?」

 呆れたように言うアース。

 「うるせえよ、ブス」

 雷太が口元に笑みを浮かべると地面を蹴った。

 言葉の挑発に乗ることもなく、アースは飽き飽きするように人差し指を上下に動かす。高く跳躍すればアースの眼前に迫る。手を伸ばせば届くという距離に迫るがアースの指の動きに合わせるように地面が盛り上がり、そこから石の巨人の手が現れると雷太の体を叩き上げた。咄嗟にハルバードを前に構えて防御の体制をとるが、衝撃がハルバードを貫通し大きな振動を与えた。まともに拳を受けた雷太は羽が落ちるように空中を舞うと中庭のベンチに体を打ちつけた。

 「ねえ、まだやんの。アンタが外に出てきた時点で詰んでるの。分かるかな」

 そう言えばアースは面倒くさそうにため息をついた。

 「うんうん、私の能力を考えて狭い室内で戦うように仕向けたのは良かった。だけどね、残念不正解のまた来週ー。だけど、悲しまないで……キミの予想を上回るチカラを私が持っていただけの話」

 鼻を鳴らして、雷太が誘い込んだであるはずの場所に視線を移す。

 ナースセンターがあった部屋には大きな穴が空いており、中庭に転がる瓦礫は内側から巨大な力で吹き飛ばされた物だった。雷太はアースの持つ石の巨人の両拳で外に吹き飛ばされたのだ。



                 ※

 体が軋む。酷い眩暈と頭痛、戦闘でここまでのダメージを受けるのは久しぶりだ。

 自分の呼吸が弱くなっているのが分かる。腹部の痛みから骨までイっているのだろう。なんてことだ、こんな情けない姿は凛渡には見せられない。アイツの見えないところなのが唯一の救いだ。

 

                 ※

 

 ――おい、ヒーロー。

 そんな声を思い出した。

 小学生の頃、確か三年生ぐらいだったと思う。仲の良い友達が六年生にイジメを受けていると聞いた。昔から分かりやすいヒーローに憧れていた俺は流行の特撮ヒーローの面を被り、近くの公園に六年生を呼びつけた。自分を無敵だと信じていた俺は、たくさんの友達を呼びつけた。俺の姿を見てほしくて、賞賛が欲しくて、ヒーローになりたくて。

 それは圧倒的な展開。俺のハッキリとした負けの光景だ。

 俺一人に上級生は四人。全員が俺よりも体が一回りも二回りも大きい。四人に囲まれれば一方的な攻撃、体を羽交い絞めにされ、腹部に一発、顔に一発。膝をついたところで、顔を蹴り上げられた。途端、涙が溢れた。

 周囲の同級生達は鼻血を流す俺を見て悲鳴を上げれば、次々に出口へと走り出した。俺を助けようとした奴もいたが、体の大きさを利用して睨みを利かし近づけさせなかった。それだけは救いに思えた。なにより、少年時代の俺の記憶に焼きついた出来事がある。オロオロとその光景を見ていたイジメの被害者だった奴が六年生の一人に声をかけられた。

 お前も蹴ろ、とその一人は言ったのだ。俺がまさかそんなことは、と思ってソイツを見ればソイツの足は俺の耳を蹴る形で顔を揺らした。その時、確かに見たのだソイツは泣き笑いを浮かべていた。とてもみっともない顔。二回、三回、ソイツが蹴る。六年生達は笑う。俺も助けたかったソイツも同じ特撮番組が好きだった。ソイツの特撮ヒーローのイラストの入った靴が俺を蹴る。俺の面を吹き飛ばす。

 ただただ悔しかった。面を蹴られ、踏み潰されたことではない。助けたい友に裏切られたことではない。弱い自分が悔しい。強くなりたい。俺は……ヒーローになる男なのに。

 「おい、ヒーロー!」

 暴力の雨が止んだ。

 腫れた瞼、半分しか見えない視界で公園の入り口を見つめた。そこに立つのは一人の少年。隣のクラスの大羽、大羽凛渡だった。その背後の入り口の影には一人の少女が心配そうにこっちを窺っている。

 「そんなところで寝ていていいのか。お前はヒーローなんだろ! 立てよ!」

 突然の来訪者に驚きの表情を浮かべていた一人は、凛渡の前に立つふさがる。ソイツが一番、体の大きな少年だった。スイカのような腹、シャツの隙間から見えるヘソを気にする動作をする。

 「出て行けよ、ガキ」

 お前もガキだろ。そう言いたいがうまく口が動かないのが悔しい。

 「悪いな。大切な妹の前で、ヒーローが倒れる姿は見せたくないんだよ。ウチの妹もコイツが好きなんだよ」

 少年の横を通り過ぎると原型の分からない面を手に取る。土を手で払い落とすと地面に這いつくばる俺の頭に乗せた。顔に付けないのは既に紐が切れているからだろう。

 そして、奴は再びこう言うのだ。

 「おい、ヒーロー」

 そう言えば、俺の体を上から押さえつけていた六年生に力いっぱいの体当たりをした。体の自由になった俺は渾身の力で立ち上がる。

 「そうだ! 俺がっ……俺はヒーローなんだ!」

 それからだ。それから俺と凛渡の友としての日々が始まった。

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