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十九章

 水の弾丸の中を凛渡は駆ける。放たれる銃弾を刃で受け、前進しながらも的確な射撃を急所から逸らす。肉を抉られ、刺激を感じながらもその足は止めない。そして、凛渡はアクアに辿り着く、すかさず一閃。

 「同じこと……」

 アクアはにんまりと笑みを浮かばせて、半分にされた上半身は地に落ちる。再び水が割れる。

 「いや、今回はちょっとばかり違うぞ」

 凛渡はアクアを飛び越えるために地面を蹴る。


               ※


 俺の目的は今回は違う。ある可能性を試したのだ。再生を繰り返す奴に背中を向けるという危険を冒してまで。

 ――見えたかブルー。

 その可能性を追いかける。 

 ブルーも多くのことを学び、俺も戦いの中でたくさんのことを学んだ。俺の経験から育まれた直感と判断力、今の状況の中ではっきりとした答えを導くためのブルーの研ぎ澄まされた感覚。ブルーがルートを導き、俺が答えを出す。

 分離型で100パーセント間違いない、問題は奴の居場所。アクアの姿が消えた瞬間の僅かに見えるチカラの流れ、分離されたアクアの行動。その他諸々を頭の中で整理して、ブルーが考察し俺が結論を導いた。

 ――ああ、見えたぞ。奴だ。

 アクアを背後に前方の入り口を切り崩す、相変わらず無反応のフレイムも横目に外に飛び出した。


                ※


 「なんてことだ……! まさか気づかれるなんて……」

 息が上がる。ありえないと思っていた出来事が俺に迫る。

 「嘘だろ……俺の分離は完璧だ。俺ほど完璧に人型を作れる奴はいない。最強にして無の存在のなのに……」

 ブルーが俺を切り裂く。この俺を。考えるだけで冷や汗が溢れる。いつもなら俺が安全な場所で標的の姿を視認し、ゲームを遊ぶように俺自身を操作すればいい話だ。そのはずなのに、いつもと状況が違う。

 例え、俺の正体が発見されたとしても分身をすぐに作り出して仕留めればいい話。並の敵なら、それで十分だ。しかし、敵はあのブルーだ。奴が目の前に現れれば分身を作る暇もない、例え分身を作ったとしても本体と分身を消し去ることなど三秒もいらないだろう。

 怖い、怖くて冷や汗が溢れる。

 「た、たすけて……」

 木々の間を抜ける。転がりながら、擦り傷に涙を浮かべる。本当なら俺は怪我なんてするはずない。痛みもない。そのはずなのに。

 誰か助けてくれ、フレイムは強いのになんで助けてくれないんだ。あいつの命令違反がここまで憎く思ったことはない。生きて帰ったら絶対にあいつは許せない。

 そうだ、アース。アースなら付き合いも長いし助けてくれるはずだ。さっきの男もアースならすぐに倒して、こっちに向かっているはずだ。きっとそうだ。それならアースが来るまでの間、時間を稼ごう。時間さえ稼げば、いつでも挽回のチャンスはある。だから逃げないと、なるべく遠くに逃げないと。

 その時、背後で茂みの擦れる音。

 俺が走ったから。違う、蹴飛ばした枝や石ころから。違う、音が重い。そうこの重さは知っている。

 気の根っこに引っかかり、足がもつれる。そのまま無様に地面へとキスをした。メガネが背中の暗闇へと転がる。メガネを探そうと乱れた視界で手を伸ばす。

 掴んだ。いや、これはなんだ違う。

 「はじめまして、かな。……アクア」

 俺が掴んだのはブルーの右足だった。


                 ※


 やっと捉えた。ご丁寧に残してくれた足跡ではっきりと奴の行き先を教えていた。涙をいっぱいに溜めたアクアが地面に這いつくばっていた。

 「教えろ、お前たちは何故そこまでしてあの子を追いかける」

 刃先をアクアの首に這わせる。小さく悲鳴を上げた。

 「……あの子は俺達の希望だ。あの子は俺達の抱える忌まわしい呪いを解くことができる」

 アクアは虚ろな瞳でたどたどしく喋りだした。その言葉に嘘は感じられない。

 「呪い……それはヨロイのことか」

 「それしかないだろ。ウィンドを消すところを見ただろ。アレはあの子のチカラの暴走に近いものだったが、あの子のチカラは完全な状態になれば、俺達の中のヨロイを消すことができる。それは希望とはいえないのか」

 アクアの言葉は簡単に信用できるものではなかった。しかし、これだけ追い詰められた男がつく嘘にしてはあまりにもバカバカし過ぎる。本当ならば、ココロはヨロイの世界を変える。

 俺の迷いを感じたのかアクアは言葉を続けた。

 「……あの子は俺達が管理し研究するのが一番なんだ。お前のヨロイだって消せる。これ以上、戦わなくてもいいんだ! ……俺達がチカラを手にしてから多くのものをなくしたはずだ。手を伸ばしても届かない幸せを手に入れることができるんだ。欲しいだろ、当たり前の幸せてやつが!」

 「当たり前の幸せ……」

 心と毎日穏やかに過ごせる毎日。学校に行って雷太とふざけて、心がそれをバカにするように笑う。しばらくしたら、ココロも俺達と一緒に過ごせるようになる。三人で毎日笑いながら過ごしていく。きっと、それが俺の欲しい幸せ。

 一瞬緩んだその瞬間をアクアは見逃さなかった。アクアが体を反転して、地面を転がる。

 「悪いけど、一人で幸せに浸ってくれよ! あの世でね!」

 話をしている間に用意していたであろう分身が前方の大木から現れる。その手は人差し指を向け、親指を立てている銃の形。今まさに水の弾丸を撃とうとしているところだ。

 「くそっ……」

 完全な油断だ。なんとか回避しようと体を傾ける。

 完全に回避はほぼ不可能だが、せめて急所を外せば。そう考え地面を蹴る。

 「え……なんで……アース……」

 聞こえたのはそんな間の抜けた声。辺り一面が一瞬で眩しくなる。目の前で勝ち誇っていたはずのアクアの体は炎に包まれていた。分身においては、とっくに蒸発したのか立っていた場所には湯気が立つだけ。

 「本当に甘い」

 燃え盛るアクアの声ではない。首をゆっくりと傾ける。

 そこに立つのは包帯で顔を隠した少女、フレイムその人だった。

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