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十八章

 凛渡の青き刃がアクアを襲う。常人が見れば一閃、しかしその僅かな間に五度もアクアの体を往復する一撃だった。再び距離を離せば、凛渡の大きな舌打ち。

 そこに立つのは、首、両腕、両足を切断されるはずだったアクア。だが、刃先をなぞるように液状になった体。それもものの数秒でもとの人型を取り戻す。何度もそんなことを繰り返したせいか地面に落ちたメガネはそのままだ。

 あれからどらくらいの時間が経ったのだろう。

 何度も何度も再生が追いつかないほどのスピードで奴を細切れにした。しかし、感触は一瞬。すぐに水に変わっては、その矛先は無かったことにされる。結果は、ふりだしに戻ることの連続だ。

 「さあ、私と貴方の力の差は理解できましたか。……ああ、貴方の学ぶチカラを使おうとしても無駄なのは気づいているでしょう。私のチカラはいくらブルーといえど学ぶことなど無理に等しいでしょう」

 確かに、奴のチカラは学べないと感じてる。ブルーは相手の力の特徴を学ぶものだが、奴のはそれとはまた違う。ブルーがマネできるのは、自分で出来ることだけなのだ。自分本来の学ぶという特徴を打ち消してしまうほど、特徴的なものは学ぶことはできないのだろう。ブルーに聞いても無反応だが、幾度ものた戦いで俺自身が学んだブルーの知識だった。そして、奴の力には特徴なんてない。ただ、水を扱うだけのチカラなのだろう。そんなヨロイなんてこの世界に万といる。だが、奴は確実に他のそれとは違う。奴自身がチカラの使い方が天才的なのだ。特徴がないのではない、奴自身が自分のチカラの多様性を理解することで、そのチカラを特徴を超えた最強のものにしているのだ。

 

 奴の口元が上がってる。アクアは実に愉快そうに肩で息をする俺を眺めていた。

 「……アンタドSだろ」

 「ご要望とあればどちらでも」

 ニッコリとしたその顔に今日何度目かの怒りを覚える。いくら俺が腹を立てても体力を消耗するだけで、奴の顔を歪ませることはできない。

 どうしたものか、と考察していると先に行動を起こしたのはアクアの方だった。  

 「何もしないなら、こちらから行きます」

 アクアが地面を蹴る。凛渡ほどではないにしろ動きは素早い。足元を液状にしているのだろう。まるでスケートで氷の上を滑るようだ。

 だが、回避できないわけじゃない。どんな攻撃が来るか分からないが近づいて来ているのなら、近距離でしか戦えないはずだ。

 凛渡がサイドステップをする。足元に余計にチカラを集中させたことで、アクアから大きく距離を開くことができた。両腕を倍以上伸ばしても届くはずの無い距離、そして凛渡にとっては様子を見るための間隔。

 「……っなに」

 横っ腹を鋭い痛みが襲った。ヨロイのチカラで痛覚をある程度はマヒさせていたが、それでも頭に響くような鋭い痛み。

 「まだまだですね。暗部のナンバー2も伊達じゃないんですよ」

 アクアの右手五本の指が爪先から水の柱のように伸びていた。先から垂れる水は赤も混じり、アクアのチカラにより変化した水と凛渡の血液と混ざり合い独特の色合いを出していた。水の柱は五本とも凛渡の腹部を貫通、歯を食いしばり体をさらに後方へと地面を蹴った。水の柱が無理やり引き抜かれると同時にシャツを赤に染めた。

 「……やるじゃねえか。変態」

 ヨロイの浸食を進めた。痛みは薄れていくが、感情も薄くなっていくような気がした。血液の流れを感じ、トクントクンと心音が頭に響く。ヨロイに喰われる感覚。

 青く輝く瞳でアクアを睨みつけた。

 「どういたしまして、凡人」

 そう言うと同時に、右手を持ち上げた。その手が銃の形を模していることが分かった、気づく、人差し指が俺に向けられていた。本能的に危険を感じ、右に見えていた大きな柱へ地面を蹴った。

 鈍い音が響く。俺の頭部があった背後の壁は銃弾を打ち込まれたように、一センチにも満たない小さな穴が生まれていた。アクアは俺の頭を打ち抜くために指先から水の弾丸を作り打ち込んできたのだ。

 「どうです、水鉄砲ですよ」

 二発、三発。三発目は腕を掠めたが、四発目が飛んでくる寸前で柱へと身を隠すことができた。

 情けない、俺の自分への正直な感想だ。このままでは、奴に一撃も与えられない。まだコイツを倒しても、後ろにはもう一人控えているのに。やはり、限界までブルーのチカラを開放することが一番なのか。だからと言っても単純にブルーのチカラで立ち向かえる相手ではないことも確かだ。首を切ってもだめ、粉々にしてもだめ、水の塊に刀を振り回しているようなものだ。

 「ほらほら、まだまだ行きますよ!」

 アクアは両腕を水のムチにすると左右に振るう。その先は凛渡が体を隠している柱へ向けて。ゴリゴリ音を立てながら、柱を削りながら凛渡に迫る。

 ジッと歯を食いしばりながら焦りと共に考えを巡らせる。そうえいば、と過去の戦いではスライム状に体を変化させる敵がいた。最終的には自分の存在というものを認識することができなくなり液体のまま死に絶えた。

 奴の場合はチカラが未熟なところがあった。しかし、今回の敵は奴のような特殊型ではない。寄生型でチカラのエキスパートだ。最小限で最大限の活用法なのだ。ブルーも戦いの中で学ぶ、俺もそれと共に経験を積んだんだ。過去にヒントになる敵もいたはずだ。……いや待て。

 奴はいつ寄生型と言ったんだ。それに、あれだけ自分の体を変化させているのだ。負担を最小にするように調整するとしても、あれだけ体を自在に変えているのだ。奴のあの余裕は異常だ。ウィンドとの戦いで体をギリギリまで寄生させた俺だからこその疑問だ。俺は最初から何か考え違いをしているんじゃないか。根本的に俺は奴を誤解しているんじゃないか。

 その疑問を解決する為にも柱を飛び出し、アクアの元へと駆け出した。

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