十七章
地面に軽い音が響いた、それがアクアの首が落ちる音。その音が止む頃には、体をステップさせ雷太の隣には凛渡が立つ。
作戦は簡単なものだった。雷太が囮となり不自然にならない程度に目立つ。そして、その隙に確実に敵の一人を削る。気配を極限まで消していた凛渡の役目がそれだった。
「やったのか……」
首から上のないアクアが前向きに倒込んだ。足場を悪くした人形があっさりと転がるように。
「確実に仕留めたはずだ。確かに感触があった」
そう、確かに。不意打ちは趣味じゃないが、そうとも言っていられない。相手はウィンド並の強さを持つ者が三人、奴一人に太刀打ちできなかった俺では話にならない。最低でも、一対一の状況に持って行くしかない。
しかし、だ。この雰囲気はおかしい。奥の包帯の少女は俺が飛び出したことを知りながらも微動だにせず。先ほどまでやかましく会話をしていたもう一人の少女も焦る様子はなく、地面に伏せる青年の姿を見下ろしていた。それは突如俺の手で起きたこの状況に混乱しているのか、それとも。
「おい、凛渡。すぐにたたみ掛けるぞ」
雷太のドスの利いた声が響く。この状況を混乱から生まれたものだと判断したようだ。
「待て、早計過ぎるぞ」
「なに悠長なこと言ってるんだ、俺は……行くぞ」
雷太が地面を蹴る。
「よせ、雷太!」
蹴り上げた足の勢いのままに跳躍。ハルバードを肩より上に持ち上げ、勢いのままに振り下ろす。刃先がギラギラと輝く炎のギロチンのように。転がる首をさらに積み上げる為に。
「私、何もしないわよ」
アースがぼそりと呟く。
マズイ、俺がそう考えて体を動かす。しかし遅すぎた、雷太の刃は少女の首へ向かうことはなかった。吹き飛んだのは少女の首も肉片でもない、雷太の体が空中で跳ね上がり、右手に見えていたナースセンターの窓口の暗闇へと消えた。血飛沫と共に。
「雷太!」
急所を外したように見えた。雷太は恐らく無事だと思う。そう信じるしかない。奴らから背中を向ければ、次に首がなくなるのは俺の番だ。確実に餌食にされる……奴ら三人の。
「アクア、いつまで休むつもりだったの」
そう三人。立ち上がるその体は首のないところに先ほどのおかっぱ頭、襟を正せば血の跡もない。しかし、違う部分があるとすれば、青年の肩が濡れていた。そして、首が落ちていた場所は首の水風船が割れ水溜りが作られた。
「アースが何もしないと言うまではね」
傷一つないソイツが堂々と立っていた。
「お前、何者なんだ……」
青年はメガネを押し上げて角度を変えた。
「管理局暗部ナンバー2、アクアだ」
事もなげに言うアクアの姿に一筋の汗を流す。
「コイツの気持ち悪い能力のせいで、私がナンバー3なのよね」
指先から小さな小石を作ればアクアへ向けて指で放つアース。弾丸の速さのそれはアクアの頭部を貫通すれば壁に穴を開ける。そして、平然とした顔で不敵な笑みを浮かべた、
「ミッションをはじめるぞ。……俺はブルーを仕留める。首の礼だ」
アクアがまっすぐに凛渡に歩み寄る。
「おーけー。なら、私はさっきの爆弾君のところに行こうかな。こっちの様子を気にしてるみたいだし。……ねえ、フレイムはどうする」
包帯少女はそう問われれば、無言で首を横に振る。
「……そう、アンタは好き勝手に動くみたいだし、私達も私達で勝手にやらせてもううわ。そんじゃ、ミッションスタートと行きますか」
楽しげにそう言えば、アースはナースセンターのカウンターをぴょんと飛び越える。眼前には確実に距離を詰めるアクア。そして、未だに傍観の形を崩さないフレイム。ジッとタイミングを待つ雷太。刃を腰の下にスッと構える凛渡。
決してまともとは呼べない少年少女達によるお互いの狩りが始まる。




