十四章
自分のベッドにのしかかっていたココロをどかすと雷太に向き直った。
「悪いな、話を聞かせもらうぞ」
雷太の少しばかり申し訳なさそうな顔を見れば、なんとなくだが雷太の心情が透けて見えそうだった。ココロは俺の背中に隠れるように雷太をジト目で見る。これまた、心情が透けて見えそうだった。
「ココロ、俺達を助けてくれたのはコイツだ。悪い奴じゃない、いろいろ嫌かもしれないがちょっと話をしてもらっていいか」
俺の顔を覗き見れば。
「うん……」
ココロはコクリと頷けば、雷太を見つめた。しかし、俺の背中に隠れたままで。
雷太は優しげな苦笑を浮かべれば、口を開いた。
「ありがとう、ココロ……ちゃん。単刀直入に聞くけど、ココロちゃんはヨロイを持っているの?」
しばらく考える為に間を空ければ。
「これがヨロイのチカラかどうかはわかんないよ。……でも、私はあの人達が欲しがるチカラを持っているみたい。……雷太もこれが欲しいんでしょ」
雷太は一瞬、ギョッとした顔を浮かべれば、いつも通りのへらへらとした笑顔。
「ああ、欲しいよ。ココロちゃんのチカラは俺から見たら喉から手が出るぐらい欲しい。でも、ダチの妹を利用してでも叶えたい夢なんて一つもねえよ」
ジッとココロは雷太の顔を見つめれば、一言。
「……雷太は他の人とは違うみたい。信じる、お兄ちゃんの友達だし」
「ありがとう、ココロちゃん。さっきの話を聞いて思ったんだけど、ココロちゃんはそのチカラをうまく使えないの?」
「うん、気持ちがワッとなったりムカッとなったりした時に出てくるの。そしたら……みんないなくっている。怖いことも周りにいた人たちも」
ウィンドを消した時のようにココロはたくさんの人を消してきたのだ。怖くて、辛くて悲しくて。どこかで聞いた話だと、俺は視線を落とす。雷太の表情が曇るのも雰囲気で理解できた。
「しかし、おかしいな」
「ん、どうした、凛渡」
俺は浮上したある疑問を口にする。
「ココロの力は強大だが不完全だ。ヤツらはそんな不安定な力を野放しにするほど甘くはない。そして、管理局はなによりそういうものを嫌う」
「その力が判明してすぐに対策を打たないのはおかしいてことか」
こういう話は過去に何度もあったが、命を奪うことが一番の解決策としていた。そう考えると同時に、処分や殺すという物騒な単語をココロへの配慮として言わなかった雷太に感謝した。
「ああ、おかしい。……なあ、ココロ。お前の施設にはどんな奴がいたんだ」
「うーん、先生たちと警備員の人と私」
その言葉に雷太は目を見開く。
「すげえ待遇を受けていたんだな」
その言葉にココロは首を傾げる。
「やはりな、ココロの住んでいた施設はココロの為に存在していた。つまり、管理局にとっては大きなリスクを背負ってでも手中におさめたい人物なんだ」
強大な存在だとは思っていたが、これほどまでとは考えもしなかった。
何もかも次元の違う存在、か。
ココロへ視線を向ければ、屈託のない笑みを浮かべる。それだけで俺の覚悟がより強固なものになっていくのを感じる。
「まあ、いいさ。俺はお前の兄だ。過ぎた時間は戻らないが、これから取り返していくことはできる」
ココロの頭を撫でる。コイツがどんな存在だろうが、俺の妹なのは確かだ。
「……なあ、凛渡」
その言葉の続きはすぐに理解できた。
「言うな、雷太。これから、少しずつその問題と向き合う。……三人でな」
「分かった。お前が言うなら従う。……忘れるなよ、大切なものを」
「助かる、雷太」
そう感謝の言葉を述べる。心とココロの問題、この状況どうにかして真相に辿りつかないといけない。それまでは、絶対に死ねない。
その時、廃病院を爆音が揺さぶる。
『管理局です、戦えるものは指定の位置に。戦闘能力のないものは抜け道に!』
脳内に女の声が響く。これもヨロイのチカラなのだろう。院内にいる人間だけに聞こえるように、テレパシーを送っているのだ。
すぐに雷太と視線を交える。
「雷太、答え合わせの時間だ」
「おう、問題用紙とのにらめっこには飽き飽きだ。やっぱり、こっちが向いてるみたいだ」
雷太は部屋の掃除用具箱の中から、一本の槍。長い柄の先には斧に近い片刃、その上部には鋭い槍の穂先が輝いている。形だけ見れば、ハルバードと呼ばれる武器だ。そう言えば聞こえはいいが、どこからか見つけた農機具を組み合わせたようにも見えるの実際の状態だ。
「お前にはコレだよな」
もう一つ放り投げれば一本の日本刀。抜いていれば様々な箇所に錆が見られる。酷い刀だが、ないよりはマシだ。
ぎゅっ、裾を引かれた。
「ココロ……」
「ねえ、お兄ちゃんは帰ってくるの?」
泣きそうなその顔が、家で待つもう一人の大切な少女に重なる。
強く頷く。
「ああ、二度と離しはしない。必ず帰ってくる」
そう告げれば、ニッと兄としての優しくも強いと思われる俺一番の笑顔をココロに向けた。




