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十章

 膝をつき吐血。じん、と腹の辺りが傷む。骨にヒビが入っているかもしれない。そう感じれば、ブルーのチカラが痛みをなくす。気づけば、目の色どころか髪の色まで青く染まっている。刀に寄生もさせてないのに、腕には鉄の手甲が装着され、足も膝当て程度の鎧だったものが足の付け根まで覆っていた。

 「あらら、ボクが倒す前にヨロイに喰われちゃうかもね」

 小バカにした声を上げる。 今は、この声を聞く余裕はない。ただ、チャンスを探すのみ。

 ――待たせたな。

 ウィンドの姿は消え、再び一撃。右に体が飛べば、左側から衝撃。受身をとりながら立ち上がり、バックステップ。奴の蹴りが宙を裂く。ウィンドの顔が歪む。逃がすまいと追いかけて蹴り。しかし、当たらない。体を傾けて回避。大きく後方へと飛び距離を開ける。 

 そして、見据えたウィンドの顔は酷く歪んでいた。

 「もう当たらない」

 「嘘だろ……俺の動きを読める奴なんて誰も……」

 そう、普通なら誰もいないだろう。今まで幾度もヨロイと戦ってきた俺なら分かる。分かるからこそ、俺はコイツを動きを見つめ続けた。だから、語ろう。俺のヨロイの真相を。ゆっくりと口を開いた。

 「いないだろうな、俺が太鼓判を押してやるよ。……だけど、俺のヨロイは普通とは違うんだ」

 着地したままで膝をついていた体を起こす。

 「いろいろ教えてくれた礼に教えてやるよ。ヨロイ持ちになった人間はそれぞれ違う特殊な能力を手に入れるよな。お前のヨロイの能力はスピード……速さだ。体を硬化する能力、手から炎や水を出す奴……ま、いろいろいるよな。だが、俺のヨロイの能力は、少々分かり辛くてな……」

 一歩、一歩、ウィンドへと歩み寄る。

 「ブルーのヨロイの能力は学習だ。学ぶんだ、ありとあらゆることを。……普段使っている刀は、基本になる寄生能力との相性だ。殺陣は映像や書物や動きを俺を通じて学ばせた。……ま、そんなつまらない話はいいさ。本題に戻る」

 ウィンドは理解したのだろう。自分がどれほど追い詰められたのかを。一歩、背後へと後退した。

 「だから、学ばせたんだ。てめぇが遊んでいる間にたっぷりとな。動きや癖も全部だ。ワンパターンなお前の動きだ、簡単だよ」

 ウィンドへ向けて駆け出す。間合いを詰めれば、目の前に驚きの表情のウィンド。

 「学んだよ、お前のスピードも……能無し野郎」

 振り上げた右の拳がウィンドの顔面を揺らす。三本の歯が宙を舞う。それで、攻撃をやめない。続けざまにもう一撃、左の拳で崩れた顔をに一撃。口元から流れる鮮血が奴に致命的な一撃を与えた証拠だった。

 そのままに後方へ飛んだウィンドは地面にゴロゴロと転がる。落ちる寸前のところでのそりと上体だけを起こした。鼻を折ったのだろう、口元からダラダラと血を垂れ流している。

 「ふ、ふぁけんなよ……おめぇ……」

 歯も折れている。まともに喋れないのだろう。だが、奴もヨロイ持ちだ。ものの数分で歯は生え変わるだろう。しかし、数分の時間も与えない。

 「プライドの高いお前のことだ。その姿はさぞ腹が立つだろうな。安心しろ、お前のヨロイをぶち壊してすぐに終わらせる」

 ヨロイを壊す、その言葉にウィンドの顔は恐怖の色に染まる。

 ヨロイは壊し殺せる。そして、ヨロイをなくした人間は心を失う。質問をすれば返事を返し、食事をしてトイレにも行き睡眠をとる。人としての日常生活を送ることは可能だが、自分の趣味を楽しんだり誰かと遊んだり恋をしたり……そういった人間の心の要素がなくなる。ただ、生活するだけの人形だ。ごく稀に、強靭な精神でそれらを跳ね除け、心を殺さない人間もいる。それは非常にわずかな可能性。

 トドメの一撃のために、一歩さらに前進。ウィンドの顔を見れば、既に歯が回復し、瞬く間に顔を緑の鎧で覆っていった。その顔はカマキリと人間の合わさった姿のようにも見える。

 「や、やめろ……やめろ、やめろ、やめろ……くそったれええ」

 顔中に汗を掻きながらウィンドは体を飛び上がらせる。その姿は全身鎧。喰われ、そしてその姿は鎧そのものだった。

 「……くそったれはどっちだよ」

 緑の鎧の騎士は空に高く舞い上がる。空中で腕を一振りすると、真っ黒い雲が空を覆う。左手を一振り、黒い雲が地響きを上げ始める。ポツリポツリ、と冷たい雨が顔を湿らせれば、次は猛烈な風と腹の底を震わせるような雷鳴を鳴らす。

 今ここに、完全に鎧は誕生した。

 「今日こそ、俺は死ぬかもしれないな。なあ、ブルー」

 ――なんだ。

 「たぶん、今の俺ではコイツに勝てない。最後の頼みだ……心とそこの女の子を連れて逃げてくれ。……可能なら、今この下にいる人たちも」 

 ――分かった。 ……他の人間は知らぬ。昔、俺はお前に助けろ、といわれた。その言葉を守るだけだ。

 「お前の返事がここまで頼もしいと思ったことはないよ。俺の体を喰うんだろ、ならコイツは絶対に倒せよ」

 どこまでやれるか分からないが、目の前の緑の鎧ウィンドは俺には倒せない。完全に生まれてしまったヨロイは、ただでさえ手こずる。管理局でさえ、最低でも三人一チームを作る。それでも、死人の一人や二人はざらだ。さらに、コイツは王のヨロイ。武器もない、体力も僅か、心も半分以上喰われかかっている。そんな俺が勝てる相手ではない。悔しいが、俺自身が喰われブルーが奴を倒すしかない。その後、ブルーはどうするのか知らないが、少なくともあの二人は助けてくれる。ブルーが人を襲わずにウィンドを倒してくれるなら、それが一番だが……望みすぎだな、そりゃ。

 既に体の八割を鎧が覆っているが、ブルーに俺を委ねようと目を閉じた刹那。

 「――だめ! 絶対にだめ!!!」

 ぱっと目を開く、背後で眠っていたはずの少女が目を覚まして声を荒げていた。

 少女の体は、みるみる内に発光し丸い球体になった。球体がシャボン玉のように曇天の空に舞い上がれば、ウィンドに接近。

 ウィンドは、雄たけびを上げながら、右足を振るう。するとかまいたいのように、真空状の刃となり少女を襲う。ふわり、少女の球体がそれを避ける。左足でもう一撃、二度目の真空の刃も少女はふわりふわりと浮き上がると回避する。

 「見てる場合じゃないな……!」

 少女の回避した真空の刃まっすぐに、ショッピングモールへ降り注ぐ。体を犠牲にしても受け止める。この下には、心がいるんだ。

 刃へ駆け寄る俺をちらりと見た少女が手をかざす。すると、舞い上がる球体から高速の球体が二つ。真空の刃にぶつかれば、シャボン玉が弾けるように破裂した。

 「あの子は何者なんだ……」

 そう呟き、空を見上げる。

 少女を乗せた球体がウィンドと接触するところだ。直後、ウィンドが先ほどの真空の刃ように弾けた。あっさりとふわふわ浮かぶシャボン玉が、ぱちん、と割れるように。

 今までの天気が嘘のように空は青く澄み、再び午後の陽気を取り戻していた。

 空から舞い落ちるのは、一人の少女。この街をこの俺を救った女の子だった。そして、それが当たり前のように落ちてきた女の子をそっと抱きとめた。

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