Story=1 : Doppel;
都会からやや離れた厳粛な荒野。
デバッガと呼ばれる武装したアンドロイドの生ける屍の上にちょこんと座る黒髪の少女が一人。
小さくとも透き通るような綺麗な声で歌を歌っている。
「printf~、("I want to die!\n It is already the %d time...",die)」
そんな少女の姿を遠くから一人の若い女が眺めていた。
女はにぃ、と口元を緩めると、少女の下へと歩みを進めた。
「ようやく、見つけたよ。 あんたの遺産」
女が少女の側に近づくと、ようやく少女は気づいたらしく、男に目を向ける。
すると、ニッコリ微笑んでたずねた。
「……ふふ、あなたのお名前は?」
「俺は彩姫明沙、おめーは……髪の色からしてメリッサだろ?」
明沙と名乗る女はメリッサと呼ばれた少女の隣にスカートも気にせず無造作に座ると、メリッサに対して何かを要求するように手を出した。
メリッサはしばらく優生を観察すると、わかったようにうなずき、左腰につけていたホルダーを取り外すとそれをそのまま明沙に渡した。
明沙は受け取ると、少女の透き通る黒髪を優しく一撫ですると、ホルダーの紐をゆっくりと解いた。
「そう、これだよ。 俺が求めていたのはこれなんだよ。 こいつでようやく意思を継げる……というのは、ちょっと違う、か」
中身は一冊の本であった。
この世界に住むアンドロイドは文字、厳密には高級言語、高水準言語である、人間の言葉は使わない。
つまり、人間。
ブラッドというのか、そのブラッドを対象とする情報媒体であるのは間違いない。
明沙は愛おしいように背表紙を指で撫でると、ゆっくりとそれを開いた。
「……これがXi言語、か。 だけど、かぁー……流石に難しいぜ。 一朝一夕では無理、だな」
本を閉じて、メリッサに向きなおすとたずねる。
「わかりやすく俺に教えてくれたりできねーか?」
メリッサはニッコリ笑うと返す。
「基本は型、関数、引数、そしてその処理をね……」
「わりい、やっぱいいわ」
明沙はため息をつきながら頭を掻くと、本をホルダーにしまい、腰に巻きつけると立ち上がった。
ここでようやくメリッサは疑問を投げる。
「何で明沙は私を知ってるの? 私は明沙を知らないよ?」
「ああ、そうね」
明沙は鼻で笑いながら。
「俺はお前のお姉ちゃんだからな」
「お姉ちゃん……?」
「ああ」
「でも明沙は明沙でしょ?」
呆れたように明沙ため息をつくと、デバッガの亡骸に座り続けるメリッサに手を伸ばす。
出された腕をメリッサが握ると、明沙はメリッサを引き起こす。
「そーか、まあおめーが知る必要もねー事だもんな」
明沙はゆっくり前に進むと、くるりとメリッサに振り返る。
「さっそくだけどよ、遊びに行こうぜ。 わかるだろ?」
メリッサは大きく口を開いて歪な微笑を浮かべた。
Story=++
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