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アルカナム・ギア  作者: 枯葉 木葉
1章:兆しの蒼刀 (変わる日常編)
9/31

第9話 突然の襲撃

 いつの間にかついにユニーク数が1000の大台に!

 読んでくださっているみなさん、ありがとうございます!


 さてそんな訳で9話目です。

 それにしてもネーミングセンスの無さに我ながら呆れを通り越して脱帽ですな(笑)

 第5魔典研究室は旧校舎の奥地にあるらしい。

 そんな事しか知らなかったはずの僕だったけど、いざ行ってみるとすぐに場所が分かった。というか、奥へ奥へと行っていたら自然と辿り着いた。旧校舎なんて初めて入ったんだけどな。

 そういえばエレナと出会った日、エレナは第5魔典研究準備室に行ってたんだっけな。何をしに行っていたのかは分からないけど、その帰り道で道に迷って、それで僕はエレナと出会ったんだったよな。

 まあ、それはいいとして……準備室はここで……いいんだよな? なんか扉の前からでも禍々(まがまが)しい雰囲気が漂っているんだが。

 ……怖すぎる。正直言って入りたくない。なんか呪われそうだ。


「とはいえ、魔典を持ってかないと呪われるよりもひどい事になるんだよなぁ……」


 意を決して扉を開けてみると、真っ暗な闇だけが広がっていた。本当に何か潜んでいそうな……そんな雰囲気だな。

 って、早く電気を点けないとだな。こんな暗いんじゃ探し物も見つからない。

 手を伸ばして壁にあるスイッチを押す。カチッ、という乾いた音だけが響き……あれ、電気が点かないぞ。

 何度か押してみるけど、やっぱり電機は点かない。よくよく考えてみれば当然かもしれないな。旧校舎なんだからもう電気が通っていなくても不思議じゃない。

 仕方なくPDAを電灯モードにして部屋に向ける。


「うわぁ……」


 そして思わずそんな声が出てしまった。

 光で照らされた準備室は、書物――おそらく魔典――が足の踏み場もないぐらい散らばっている。さらにほこりがすごい。積もった埃で本が白くなっている。

 ……本当にこんな所に歓迎会の最後に使うような魔典があるんだろうか。というかエレナよく平気だったな。

 いつまでも部屋の姿に唖然としている訳にもいかないので、仕方なく部屋の中に入る。足元、それから前方を交互に照らしながら進んでいく。ここで積まれた本を倒したりなんかしたら悲惨な事になるからな。それだけは避けねば。

 準備室だからそれほど広くないと思っていたのに、光で照らしてもなぜか奥は闇に包まれたままだ。


「あった。魔典……これ、か?」


 まだ埃の積もっていない、おそらくここに置かれてまだ日が経っていないものを見つけた。たぶんこれが目当ての魔典なんだろうけど、僕は思わず訝しんだ。

 ここに来れば分かると吾妻先生は言っていた。そして僕も、それを見つけて目的の魔典がそれだと、ほとんど無意識に確信した。

 だけど僕は、その確信を否定したかった。

 この部屋にはこれ以外にも数百――もしかしたら数千もの魔典がある。なのに、埃のかぶっていないこの魔典は、他のものよりも禍々しいものを感じさせていた。

 本当にこんなものを今日、使うつもりなんだろうか? なにか嫌な予感がする。

 無意識に呼吸が荒くなる。部屋の空気が悪いからか、喉も少し痛くなってきた。

 おそるおそる手を伸ばしてみる。魔典に触れる瞬間に少しためらってしまうけど、意を決して本を掴んだ。


「…………何も、ないな」


 触った瞬間に何か出てくるかと思ったけど、別に何も変わりはしない。……部屋の雰囲気に流されていたのかもしれないな、今までの悪い雰囲気は。


「はぁ……余計な体力使った気がする……。雰囲気に流されすぎだろ……」


 深く溜息をつく。まあ、こんな部屋に居たら気分が悪くなるのも不思議じゃないよな。

 とりあえず目的の魔典(おそらくはこれだろう)は手に入った。早く戻ろう。この部屋怖すぎるから。




 積まれた本を倒しそうになりながらも、ゆっくりと10分ほど時間をかけて準備室から脱出する事に成功した。ピシャリと扉を閉めておく。


「あれ、そう言えば鍵ってどうしたんだ?」


 入る時は何も考えずに扉を開けていたけど、よくよく考えてみればおかしいよな。魔典は1冊でも充分に価値のあるものだ。たとえそれが使い古されたものであっても。

 物置同然とはいえ魔典が置かれている場所が、そんな無防備でいんだろうか?


「……絶対によくないよな」


 と呟いてはみたものの。鍵なんか持ってないし、僕が開けられたって事はそもそも鍵なんかかかっていなかったんだろうな。けして僕が壊したなんて事はない。

 だから僕ができる事はせいぜい吾妻先生に注意を促す事ぐらいだろうな。まあ、言ったところで改善されるかは分からないけど。けっこういい加減だからな、ここの教員たちは。

 旧校舎を歩き回り、すぐにいつも自主練で使う中庭に出た。

 行きは迷わないけど帰りに迷うかもしれないと思っていたけど、迷うような道じゃなかったな。もしかしたらエレナは方向音痴なのかもしれない。

 それにしても、第5魔典準備室あんなとこに居たからだろうか、外の空気が新鮮に感じるな、やっぱり。

 PDAのディスプレイに目を落とす。時刻は19時37分。歓迎会の終わりはたしか21時ぐらいだったと思うから、ここで少し休んで行ってもこの魔典を使う時間には充分に間に合うだろう。

 サボりと言われると言い返せないけど、正直言って講堂内は僕には息苦しすぎる。あんなに人がたくさん居る所は苦手なんだよな。

 ベンチに向けて歩き出した――瞬間、爆発音にも似た音が響き、気づいた時には僕は吹き飛ばされていた。


「けほっ……な、なんだ、いきなり!?」


 背中を地面に強く打ちつけて、肺から空気が吐き出された。

 呼吸を整えながら、さっきまで自分が立っていた場所を見やると……土煙でよく見えないな。っておかしいだろ! どうして土煙がまっているんだよ?

 いったい、何が起きたんだ。吹き飛ばされる直前、爆発音みたいなのが聞こえた。

 攻撃された? 誰に、何の目的で?

 次第に土煙が晴れて視界が鮮明になっていく。そしてそこには、夜の闇に紛れるような、真っ黒なコートを着た人物が立っていた。フードをかぶっているせいで顔まではよく分からない。手には同じように黒い大剣。

 大剣が叩きつけられた地面は穿たれたような……というかクレーターができていた。思わず息をのんだ。

 あんなのが直撃していたら、死んでいた。間違いなく。しかも即死だっただろう。

 どうして気配を何も感じなかったんだ。あれだけの穴ができる攻撃なら、魔力を使うはずだから、少なくとも接近ぐらいは分かるはずなのに……。


「お前の持っているその魔典。それをこちらへ渡してもらおうか」


 黒コートの人物が大剣を肩に担ぎながらそう言ってきた。声はなんらかの方法で変えているらしく、男か女か分からないな。コートのせいで体格も不明瞭だ。

 僕は言われてすぐに抱きかかえていた魔典に気づいた。無意識に守ろうとしていたらしい。

 そしてどうやら、あの黒コートの目的はこの魔典らしい。


「お前は誰だ? どうして、この魔典を狙う?」


 立ち上がり、後ずさりながら問いかける。

 できる事ならすぐにでも逃げたい。けど、背中を見せた瞬間に襲い掛かってくるかもしれない。戦おうにも今の僕は武器なんて持っていないし、素手と大剣じゃ分が悪すぎる。魔法なんて使われたら一巻の終わりだろう。

 ふっ、と黒コートが鼻で笑ったような気がした。


「殺されたくなければ、余計な事は聞かない事だな」


 問いかけは一蹴されて終わった。

 やっぱり、あいつはあくまでこの魔典が目的らしい。

 素直に渡せばもしかしたら生かして帰してくれるかもしれないけど……そんな事したら吾妻先生に殺されてしまうかもしれない。まあ、それ以前にここで渡したら騎士の見習いとはいえ情けないだろう。

 速さには自信があるんだ。全力で走れば逃げられるかもしれない。

 静かに足を後ろに動かし――、


「変な事は考えない事だ。私はいつでも、お前を殺せる」

「――っ!?」


 刹那――黒コートから殺気が放たれた。それも、背筋が凍るようなドス黒い。

 反射的に身体を動かそうとしても、ピクリとも動かない。身体全身が強張り、足がすくんで動いてくれない。

 マズイ……マズイぞこれは……。

 僕をいつでも殺せるっていうのは、間違いなく本当だ。あいつが放つ殺気がそれを物語っている。抵抗なんてできない。そんな暇もなく、あの大剣に叩き潰される。

 どうすればいい。どうすればここから……この状況から抜け出せる!?

 緊張と恐怖で呼吸が浅くなってきた。脂汗が額を伝うのが分かる。

 向うから、黒コートがゆっくりと歩み寄ってきていた。それに気づいてさらに身が強張る。

 やがて完全に距離が縮まり、黒コートが目の前に来た。そこで初めて、体形が少しだけ分かる。背は僕と変わらないぐらいで、身体はどちらかというと細い方だろう。顔は……さすがに見えないか。


「ぐっ……!?」


 いきなり胸倉を掴まれて持ち上げられた。

 ……なんて力だ。自分と同じような体格の僕を片手で、軽々と持ち上げるなんて。


「そろそろ放したらどうだ? お前もこんな所で死にたくはないだろう?」

「ぁ……ぐ……っ」


 締め上げられ、息が苦しくなってきた。

 次第に視界がぼやけてきて――僕は魔典から手を放して、胸倉を掴んでいる手を掴もうとした。が、僕が魔典から手を放した事に気がついた黒コートが僕を後ろの方に投げ捨てた。

 地面を転がるも、その痛みで何とか意識だけは繋ぎ止めて、酸素を求めて深く息を吸う。

 魔典は取られてしまったけど、とりあえずこれで僕が殺される事はなくなった……のか?


「さて、気を抜くのはまだ早い。ここからが楽しいショーの始まりだ」

「な、にを……」


 ――言っているんだ。

 そう続けようと黒コートを見やると、僕は言葉を失った。

 黒コートが魔典を開き、魔法陣を展開していたからだ。


「封印されしよこしまなる焔の精よ。獣の姿を成し、敵を焼き払え!」


 ――詠唱スペルッ!?

 気づいた時にはもう遅い。魔典から膨大な魔力が溢れ出し、魔法陣へと吸い込まれていく。その魔力はやがて焔へと変わり、獣――狼の姿へと変貌していく。

 僕はその光景を……ただ見ている事しかできなかった。


「グルァアアッ!」


 地面に降り立ち咆哮。空気が震えた気がした。

 赤い焔を纏う狼が僕を見据える。

 ダメ、だ……。あんなやつと戦っちゃいけない。死ぬのは目に見えている。相手が人間じゃない以上、加減なんて事も期待できない。

 そもそも今の僕が『戦う』なんて選択肢を取れるはずがないんだ……!

 いや、待て。落ちつけ。いくらなんでもあんなのが出てきたら、先生たちが気づくはずだ。そうしたら応援が来るかもしれない。


「先に言っておくが、助けは来ないぞ?」

「えっ?」

「ここら一帯には結界を張ってある。ここで発せられる音はもちろん、魔力も遮断される。ここに迷い込んでくる奴でもいなければ、まず人は来ないだろうな」

「なっ――」


 結界、だって!?

 その方面にはあまり詳しくはないけど……もし本当に結界なんて張られていたら、こんな所に人が来る可能性なんて0に等しいぞ。

 くそっ……こんな事なら誰かに行ってから来ればよかった……。


「エサとなるか、逆に駆逐するのか。どちらだろうな、お前は?」

「グァオォッ!!」


 狼が咆哮し、次の瞬間には黒コートの姿はどこにもなかった。

 魔典という目的のものが手に入ったから逃げたのか(逃げたというのはおかしいか)、それともどこかで僕がこの狼になぶられる様子でも見学しているのかもしれない。

 どちらにせよ、天と地ほどの力の差があった黒コートが居なくなった事で、少しだけ――ほんの少しだけ緊張がほぐされた気がした。

 ……けど、脅威はまだ去っていない。

 目の前で威嚇している狼を、どうやって退ければいい!

 頭でいろいろ考えようとしても、この状況がそうはさせてくれない。狼の纏う炎が一回り大きくなると同時に突進してきた。


「くっ……」


 なんとか転がってそれ避ける。狼が通った後の地面は少しだけ削れ、芝生が炭と化していた。

 震える足に力を入れて立ち上がる。身体が強張っているけど、動けない訳じゃなさそうだ。ここで動けないとか言ったら即死だからな。

 狼は踵を返し、僕を見据えると大きく口を開けた。反射的に横に跳ぶのと同時に、狼の口から火球が放たれた。

 さきほどまで僕が立っていた地面に着弾すると爆発した。爆風に巻き込まれて、僕の身体が地面を転がる。


「ぐ、ぅ……」


 痛みをこらえ、立ち上がる。

 中距離の攻撃もできるのか、あいつは……。完全に僕が不利じゃないか。

 あっちはその鋭い爪でも尖った牙でも、身に纏う炎でも僕を殺す事ができる。なのに僕はあいつに攻撃する手段が殴る蹴るしかない。炎を纏っているやつ相手に素手で攻撃なんかしたら、逆に自滅してしまうだろう。

 さっきから探しても、使えそうなものはなに1つ落ちていない。


「グルアァァッ!」


 狼の方向でハッとして前を向く。

 一瞬、狼から視線を外したその隙を突かれた。狼がすぐそこまで突進で距離を詰めてきている。身に纏う炎はさっきの突進と同じぐらいだ。つまり――直撃したら消し炭になるかもしれない。

 頭にその光景がよぎった瞬間、足が、身体が強張った。

 その瞬間、すべてがスローモーションに感じた。

 死ぬ直前ってゆっくりになるんだっけ? とか、少し的外れな事を、頭の隅でどこか冷静に思った。

 落ちこぼれとか罵られたまま、誰にもしられないまま死ぬんだな、僕は。

 この学院に入ってから良い事なんてなに1つなかった……。いつもボロボロで、独りで、得られる事なんてなに1つなかったんだ。

 でも、この1か月――エレナと出会ってからは、初めて充実した日々を送っていたと思う。初めて、楽しいと思えていた。


 ――それももう、終わりなんだな。


 無意識がそう思った瞬間、僕は――僕の意思は頭を振った。


 ――いや、こんなところで終わってたまるか! 僕はまだ、生きるんだ!


「静流くんっ!」


 刹那、声が聞こえた。幻聴か、それとも実際の声なのかは分からない。

 けれど、それはたしかに、僕へと届いていた。

 声の方を見る間もなく、目の前に棒状の何かが回転しながら飛んできた。一瞬でそれを理解し、手を伸ばす。


「おおおぉぉッッ!!」


 突進してきた狼を投げ渡された剣で受け止め、上空へ打ち上げる。落下してきたところに後ろ回し蹴りを放ち吹き飛ばした。ベンチか何かを巻き込むような音がした。

 狼を蹴り飛ばした足が燃えるように熱い。いくら防火が施されている制服だからと言って、やっぱり蹴りは無謀すぎたか。


「大丈夫ですかっ?」


 再び声が聞こえてきて、同時に足音も近づいてきた。


「エレナ、どうしてここに?」


 振り返るとそこに居たのはエレナだった。まあ、声で分かってたんだけど。

 ……それにしても、どうしてまたメイド服を着ているんだろうか。さっき1年生に囲まれていた時は制服だったはずなのに。


「静流くんが講堂から出て行くのを見ていたんです」

「え?」


 申し訳なさそうに、俯いて呟いた。その言葉に僕は驚きを隠せずにいた。

 あの時――僕が講堂から出た時、エレナは1年生に囲まれていて僕に視線を向ける暇なんてなかったはずなのに。


「戻ってくるのが遅かったので様子を見に来たんですけど……」

「グルアァァッ!!」

「来て正解だったみたいですね」


 咆哮した狼を睨みつけて、エレナはスカートの下――太腿に着けていたホルスターから見慣れた拳銃を2丁取り出した。


「どうしてここに居るって分かったんだ?」

「そ、それはえっと……あ、吾妻先生に聞いたんですよっじゃないとこんな場所に居るなんて分かるはずないじゃないですかっ!」


 まあ、たしかにそうかもしれない。でも、それでもどうして僕に渡す剣を持ってきたんだろうか?


「そ、そんな話はともかくっ! そろそろ来ますよ!」


 エレナに言われて視線を狼に戻す。

 身に纏う炎が先ほどよりも一回り大きくなり、爪や尾は炎で拡張されていた。

 たしかに、話は後にしておいた方がよさそうだ。


「いつもの自主練みたく手加減しなくていいから。最初から全力でお願い」

「自主練の時も手を抜いてるつもりはないんですが……分かってますよ。最初からフルスロットルですっ!」


 狼を睨み、拳銃を交差させたエレナの周りをバチバチと青白い電気が流れた。


はや蒼穹そうきゅうの雷よ。我に集え――」


 発せられたのは具現魔装リアライズ詠唱スペル

 次第にエレナの2丁拳銃に雷が集まっていく。


「来なさいっ! 雷閃銃バレットアウト――《スパークルティアー》!!」


 目も開けていられなくなるような閃光が放たれ、光が収まると、エレナの2丁拳銃が銀色の大型拳銃に姿を変えていた。


「やっぱり、それ……」

「見せるのは初めてでしたね……って、さっき講堂で出したんですけどね。見ませんでしたか?」

「いや、見てたよ。ランクBって初めて知った」

「言ってませんでしたっけ?」

「残念ながら聞いてなかったかな」


 まあ、騎士としての生命線だから言わない方がいいんだけどね。僕は最低ランクだから言っても言わなくても同じだけど。

 それにしても……さっきまで死を予期していたってのに、エレナが来てくれただけでそんな気持ちがなくなったな。独りじゃないって事が、ここまで心強いなんて知らなかった。


「それじゃあ、ここでわたしの強さを見せつけますよ。静流くんは陽動、わたしはその隙に攻撃、でいいですか?」

「頼むよ。どうせ僕じゃあんまりダメージは与えられそうにないしね」


 相手は曲がりなりにも精霊だ。そんなやつ相手に具現魔装でもない普通の剣で戦うなんて、正直言って無謀だからな。それにさっきの回し蹴りでもダメージは僕の方が大きって分かってるから、今この戦いにおいて僕の攻撃は無意味に等しい事は証明済みだ。

 なら僕の役割は、エレナが攻撃しやすいようにあいつの注意をひきつけるぐらいだろう。


「ガアァッ!」


 僕が応えたのと同時に、狼が地面を蹴り僕らの方に突進してきた。身体に纏う魔力を大きくしたからかさっきよりも速い。

 少し出遅れたけど、僕も地面を蹴り狼の前に出て炎の爪を受け止めた。燃え盛る炎の熱に耐えられずに、すぐさま弾いて横に跳ぶ。

 このまま長期戦になったら体力がもたないっ。できるだけ早く決着を着けてくれよ、エレナ!


「逃がしはしません……!」


 バババババッ! 銃声が何度も聞こえ、エレナの攻撃が始まった。

 僕は巻き込まれないように後ろに下がり、そこでとんでもない光景を目の当たりにした。

 撃ちだされた雷を纏う銃弾が、何もないところでカクカクと、勢いを止めずに何度も曲がっていたのだ。しかもその先には狼が居る。

 狼は炎で防いだり、バック、サイドステップで対応していく。が、銃弾はどこまでも狼を追っていく。

 具現魔装した事でエレナの操作系魔法が強化されたのかとも思ったけど、どうも違うらしい。銃弾は曲がってはいるけど、あくまで直線的な動きだ。

 この動き……どこかで見た事があった気が……。

 あっ、そうか。自主練の時のエレナが使う跳弾撃ちリフレクトの動きに似ているんだ。

 でもまあ、何もないところで曲がるトリックまでは分からないな。というか、今はそれを解き明かしている余裕はない。


「オオオォゥッ!!」


 狼が咆哮し、身に纏う炎で火柱を作りだして向かい来る銃弾を焼き払った。あんな防御の仕方もあるのか……これじゃあ、エレナの攻撃も効果がないじゃないか。

 それでも僕には突っ込んで行く事しかできずに、もう一度切り込みにかかる。もう炎の熱に気を取られている場合じゃない。少しでも隙を作らないとっ!

 攻撃はほとんどせずに防いでいると、後ろの方で銃声が聞こえた。すぐさまバックステップで距離を取ると、銃弾は僕を避けるようにいくつも飛んでいった。

 それを見た瞬間、1つ閃いた。一歩間違えば自分が焼け死ぬ事になるけど、これならもしかしたらダメージを与えられるかもしれない。

 地面を蹴って再び狼と距離を詰める。僕の行動にエレナが驚くかもしれなかったけど、この際それは仕方ない。

 さっきみたいに炎で防御される前に剣を振るう。集中力を乱された狼は仕方なしにというように爪と尾で僕の剣とエレナの銃弾を防いでいく。

 宙を舞ういくつもの銃弾。僕はそれを剣で、狼に向けてすべて弾き飛ばした。


「グウゥッ……」


 全弾、とはいかなかったけどいくつか当たってくれたようだ。でも、剣で弾き飛ばしただけじゃダメージはあんまりなかったか……。

 炎を纏わせた尾が振るわれた。かろうじて剣で防ぐけど、予想以上に強い衝撃を受けて吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ……」

「だいじょうぶですかっ?」

「大丈夫、だけど……」


 起き上がって狼を見やる。先ほどの銃弾はあんまり効いていないようだった。

 このままじゃジリ貧だ。


「静流くん……少しの間、時間を稼いでください」

「え?」


 エレナの方を見ると、2丁の拳銃を連結させてアサルトライフルのような形態にして狼に銃口を向けていた。銃口の前にはいくつもの魔法陣が重なるように展開している。

 次の攻撃で決める気らしい。僕は無言で頷き、狼に向かって走り出した。

 魔法陣を使う攻撃なんてまったく想像もつかないけど、ここはエレナを信じるしかないっ!

 剣と爪がぶつかり合い、甲高い音が響き渡った。そして、ピシッ、剣に亀裂が入った。

 やっぱり、普通の剣で精霊を相手にするのは無謀だったらしい。それでも僕は剣を振り続けた。それらすべてが防がれると分かっていても、今攻撃の手を休める事はできない。

 何度目の交差か。振り抜くととうとう剣が根元から折れた。炎を纏う尾が僕に向かってきて、苦し紛れに柄で攻撃を受ける。


「ぐ、ああああぁぁぁっっ!?」


 当然受けきれる訳がなく、僕の身体は簡単に吹き飛ばされてしまった。両手も焼けるように熱い。いや、実際に焼けてしまったのかもしれない。とっさに確認してみると、幸いにも火傷はひどくなさそうだ。

 だがそれにも安心している暇はなく、気づけば狼が僕に飛びかかってきていた。鋭い炎の爪が、まっすぐに僕を狙っている。

 今度こそ死を覚悟した――、


「静流くんっ!」


 刹那、エレナの声が聞こえて、僕は火傷覚悟で、そして一か八かで狼を蹴り上げた。

 蹴り上げは爪の――というか前足の腹に当たり、狼の身体が一瞬浮いた。その隙をついて横に転がる。


「これで終わりですっ! 《サンダーボルト・ストライク》ッッ!!」


 叫び、放たれたのは巨大なレーザーにも似た電撃。

 電磁砲レールガンという言葉が浮かんできたけど、そんなものとは確実に威力が違った。

 だというのに、狼はそれを受け止めて見せた。正確に言うと、その電撃とほぼ同じ威力の火炎弾を放っていた。しかも押されているのは……エレナの方じゃないか!

 これで終わると思っていた攻撃が、それすらも覆されそうになっている。

 どうすればいい……? 僕はどうすれば?


「くぅっ……」


 エレナの唸りが聞こえた。

 僕にできる事……それは1つしかないじゃないか。

 足の痛みを堪えて、エレナの後ろに回り込む。そして、後ろから拳銃を持つエレナの手を包み込んだ。


「え……?」


 エレナが驚いているのが分かる。まあ、当然だろう。今僕はエレナを抱きしめるような体勢なんだから。


「僕が支えるから、反動とかそういうの全部気にしないで全力出して!」

「えっ? でも……」

「いいから!」

「っ、わ、分かりました!」


 頷くと身体を僕に預けてきた。

 こんなに近くに居るからだろう。エレナの魔力が膨れ上がっていくのが分かった。


「フルバーストですっ!!」


 巨大な電撃がさらに太さを増した。同時に、身体に衝撃が加わる。

 こ、これが……エレナの、全力の攻撃の重さか……足がどうにかなりそうだな。

 それでも言ったんだからたえなければならない。


「はあああぁぁぁぁぁっっ!!」


 さらに大きく、電撃が巨大化していく。狼の火炎弾を押している。もう少しだ……!


「グル、ォ、オオオオオォォオォォォッッッ!?」


 火炎弾を打ち破り、電撃が狼に直撃した。

 中庭に断末魔が響き渡り、電撃が収まるとそこにはすでに狼の姿はなく、中庭はもとの静寂を取り戻していた。


「お、終わった、の……?」

「は、はい……おそらくは……」


 2人して肩で息をして確認しあう。

 念のため見渡してみるけど、狼の炎はどこにも見当たらない。


「そっか……倒したんだね僕たち……」

「はいっ、倒しまし――」


 笑顔で振り向いてきて、なぜか言葉が途切れた。ボンッ、と音がしたかのように顔が真っ赤に染まった。口もパクパクと開いたり閉じたり。どうしたんだろうか。


「あ、あのっ、静流くん……この体勢はその……えっと……」

「体、勢……?」


 言われてそう言えばと気づいた。

 今僕はエレナを抱きしめてるんだっけ。どうりで甘い香りがする訳だ……。


「わ、わたしとしてはこのままでも別に構わないんですが……いえやっぱりいけないと思いますけどでも静流くんがどうしてもと言うならこれでも構いませんし飽きるまでこの体勢でいてもわたしは嬉しいしドキドキするしあぁ~何言ってるんでしょうかわたしっ!?」


 なんだか……腕の中でたくさん何かを言っているけど……声が遠くに感じた。

 次第に視界もぼやけてきて――いきなり世界が回った。

 ドサッと何かが倒れる音が遠くで聞こえた。それと同時に、誰かが僕の名前を呼ぶ声がする。

 ああ、倒れたのは僕か……。

 そう気づいて、誰のものかも分からない声を聞きながら、僕は意識を暗闇へと手放した。

 戦闘の描写が本当に難しい……。

 ちゃんと伝わっているのか心配です。


 それでは恒例の(?)簡易キャラ紹介です。



アルマ・カルディーオ

年齢:15

身長:166

一人称:おれ

ランク:F


魔法学院騎士科に通う1年生の少年。鼎遥とは同じクラス。

性格は無鉄砲で思い込みが激しい。

魔法はあまり使えない。本人曰く「初級魔法だけ」使える。

使用武器は直剣。

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