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アルカナム・ギア  作者: 枯葉 木葉
1章:兆しの蒼刀 (変わる日常編)
7/31

第7話 歓迎準備

 そんな訳で7話目ですが……いつのまにかユニーク数が600を超えていましたっ!

 みなさんありがとうございます!


 という事で今回から物語が少し進むんじゃないかなと思います。まあ、ほんの少しですが……。

 すぐ横――頬を銃弾が掠めていった。背筋に冷たいものを感じながら、僕はさらに早く走り出す。

 続けて向かってくる銃弾は、時にはかわし、時には叩き落としていく。もちろんそのすべてをさばけるはずもなく、数発足や腕に当たってしまい、痛みに顔をしかめる。だけど走る足は止めない。

 次第に近づく僕に、銃を構えるエレナは焦りだした。しかし標準は正確だ。叩き落とした銃弾に銃弾を当て跳ね返すトリッキーな技――跳弾撃ちリフレクトは正確に僕を狙ってくる。

 この技、下手すると背後からも跳ね返ってくるから避けづらいんだよな……。とても厄介な技だった。が、それも可能な限り打ち落としていく。

 僕の剣が届く範囲――間合いに入った瞬間、エレナは逆に突っ込んできた。虚を突かれた形だけど表情には出さない。一瞬の硬直が命取りだからだ。

 詰められる距離。エレナが銃口を僕に向けた――刹那、僕は剣を逆手に持ち替えて……引き金を引かれた。

 腕を思い切り振り銃弾を弾くが、すぐに第2射がくる。でもそれは予想しきった事だ。とはいえ振り切った後では防御は難しい。なら回避するか。それも今の体勢では難しいだろう。

 ではどうするか。答えは簡単だ。


「――っ」

「はっ!」


 地面を思い切り蹴り身体を捻って1回転。加速と遠心力を使ってすれ違うエレナを5回斬りつけた。


「あぅっ!」


 すれ違った後のエレナはズシャァ! 地面に滑り込んでいた。

 しまったな……少し強く斬りすぎたかもしれない。木刀だから、この場合は強く叩きすぎた――と言うのが正しいのかもしれないけどな。


「大丈夫、エレナ?」

「だ、だいじょうぶれす……」


 起き上がったエレナは鼻頭が赤くなっていた。やっぱり大丈夫じゃなさそうだなぁ。

 謝り続けてその日の自主練は終わった。許す代わりにパフェを奢る事になったのはまた別の話だ。





  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *





 エレナと出会って鳳さんと決闘デュエルして……といった怒涛の数日から早くも数週間が経ち、今は5月末。土曜日だ。

 ここ、西都魔法騎士学院では少し遅めの新入生歓迎会を翌日に控えていた。正確には、西都魔法騎士学園騎士科のだ。

 普通は歓迎会なんて入学した直後ぐらいにやるのが普通なんだけど、魔法学院ここは特殊な教育機関だからそこも普通ではないのだ。

 理由としては、新入生が学院に慣れ始めるから、らしい。

 詳しく言うと、入学初めの1か月は学院のカリキュラムに耐えられずに自主退学する新入生が多い。聞いた話によると毎年1割弱は居なくなる。

 つまり新入生歓迎会というのは、最初の1か月を乗り切った新入生の、言ってみれば本当の入学式みたいなものなのだ。魔法科の方は知らないけど、たぶん同じような時期に同じような事をしているだろう。

 そんな訳で今日はその歓迎会の準備を1日かけてやる事になっている。騎士がそんな事していいのかと言われそうだけど、『どんな事でも全力で』というのが騎士科の暗黙の了解だ。手を抜くと逆に教師に言葉じゃ表せない罰を受けてしまうらしい。

 とはいえさすがに騎士科の生徒が全員参加する訳じゃない。

 ホストは2、3学年の生徒全員。ゲストは新入生となっている。まあ、そもそも4年生から上は学院に居る事が少ないから当然と言えば当然なんだけど。


「静流くんは今日何をするんですか?」


 登校中、横に居たエレナがそう聞いてきた。


「ウェイター、かな。ほとんどの2年がそうだよ。少なくともランクの低い生徒は。エレナは何する役なの?」


 ランクの高い生徒――たとえば鳳さんなんかはパフォーマンスとかそういうのをやるんだと思う。

 そう言えばエレナのランクって聞いてなかった気がするな。別に知りたい訳じゃないけど。


「わたしはですね……恥ずかしいので言いたくないです……」


 顔を赤く染めてそむけられた。

 恥ずかしい役柄なんかあっただろうか? それとも女子の役柄と男子の役柄はなにか根本的に違うんだろうか?


「静流くんがどうしてもと言うのなら、言わない事もないですよ?」

「いや、別に言いたくないなら無理には聞かないよ」


 それに言わないままでいたとしても、どうせ明日には分かるんだし。

 そう思って言うと、なぜかエレナは「なら絶対にいいませんっ」と怒りだしてしまった。いつも思うけど、エレナの怒るポイントがよく分からない。




 今日は準備だけだから手ぶらなので教室には行かず、生徒は全員会場となる第1講堂に集まる事になっている。ちなみに準備に身体を動かすのは2年生の役割だ。3年の先輩たちは先輩たちで、なにか準備をやっているとは思うけど、なんの準備なのかは僕には想像もつかない。


「遅かったですわね」

「おはようございますっ、マリアさん」


 講堂に入るとすぐ、マリアさんに話しかけられた。それに笑顔でエレナが応えた。

 遅れたつもりはなかったんだけど……PDAで時間を確認してみても、うん、遅刻した訳じゃない。むしろ早いぐらいな時間だった。


「マリアさんは歓迎会、何の役をするんですか?」

「ウェイターですわよ。女性の場合はウェイトレスだったかしら?」


 それにしてもと、楽しそうに言葉を交わすエレナとマリアさんを見て思う。

 ……いつの間に仲良くなったんだろうか。僕の記憶が正しければ、つい最近まで知り合いでもなかったと思うのに。


「篠宮さん、入り口で突っ立っていると他の人の邪魔になりますわよ?」

「あ、そうだね……」


 相変わらず僕に対してはきつい気がする。

 鳳さんにボロ負けして――そこから悪化した噂で一時遠巻きにされていたけど、今では以前と変わらずにこうやって会話(?)もできるようになっていた。

 言われた通り入口に居たら邪魔になるので、とりあえず講堂の中へと入っていく。ここに集まるのは式場準備の段取りを確認するぐらいだから、あんまり中に入る必要もないんだよな。


「あー、はいはい注目ー……はしなくていいや。どうせ連絡だけだし」


 しばらくして教師が来た。相変わらず適当そうにしているのは、騎士科教師の吾妻あずま優理子ゆりこ先生だ。スーツを着てピッと背筋を伸ばせはいかにも仕事のできる美人教師に見えなくはないというのに、いい加減、大雑把と言った性格がそれらをすべて台無しにしている。

 注目しなくてもいいとはいえ、ほとんどの生徒が吾妻先生に視線を向けた。そうしないと後で怖いという事を、みんな知っているからだ。


「お前ら今日の自分の役割しごとは把握してるよな? 把握できてないやつは居ないだろうとせんせーは信じてるぞー」


 なんて棒読みだろうか。あんなでも割と人気の高い教師だから、本当に世の中は分からない事だらけだ。


「ちなみに今日、新入生は学院内に来れないようにしてあるけど……まあ中には休みの日でも来るような物好きな奴は居る。だからくれぐれも新入生にはバレないようにしろよー。サプライズの意味がなくなるからなー。もしバレたりなんかしたら……」


 先生は一度言葉を切り、場合が場合ならドキッとするような笑顔を浮かべた。


「単位を1個消し飛ばすからそのつもりで♪」


 こう言う事を言う時だけ、どうしてこの人はこんな笑顔を浮かべるんだろうか。しかも内容がえげつない。

 単位を1つ消し飛ばすって事はつまり……今まで取得していた単位をなかった事にされると、そう言う事だからな。新年度が始まって1か月しか経っていないけど、それでも鬼みたいなばつだろう。


「じゃ、そゆことで。各々しっかりと自分の役割しごとをこなすように」


 そう言った吾妻先生は――すでに姿を消していた。これはいつもの事なのでもう慣れたから驚きはしないけど、ほんとどうやっているんだ、あれは。あの人は瞬間移動でもできるのか?


「それじゃあ、わたしは衣装合わせらしいですので」

「うん、また後でね」


 周囲が騒がしくなって、ようやく歓迎会の準備が始まろうとしていた。

 僕とは違う仕事らしいエレナといったん別れる。

 衣装合わせって……いったい何をするんだろうか? というかそれが今日の仕事なのか?


「それではわたくしたちも行きますわよ?」

「あれ、マリアさんと僕って同じところだっけ?」

「……昨日も確認しましたでしょうに」


 そうだったっけ?

 記憶を探ってみてもあまり思い出せない。


「とにかく、わたくしたちは会場設営でしたでしょう? 早く行きますわよ」


 正直、会場設営なんて面倒な事は早く終わらせたい。

 頷いて、先に行ってしまったマリアさんを追いかけた。




 会場設営の仕事の内容はいたって簡単だ。パーティよろしく料理を置く円形のテーブルを複数設置して、会場を華やかに装飾させる。言葉にすればこんなに簡単なんだから驚きだ。

 しかし、実際に準備する身としてはこれ以上ないぐらいきつい仕事だった。

 具体的には肉体労働が。

 第1講堂はこの学院内で1番大きい講堂だ。縦横はもちろん高さも驚くぐらいにある。1~3学年の全生徒をここに収容できるような広さがある。2学年だけじゃ人手が足りなすぎるのだ。

 初めにやる作業は全体を綺麗に掃除。会場設営に割り当てられている2年生だけでそれをする事になる。ただでさえ人手が足りないのにと思うけど、いまさら愚痴っても仕方がない。

 それにどちらかと言うとこういう掃除は僕の得意分野でもある。だてに何度も聖堂掃除をやっている訳じゃない。どういう風に掃除すれば効率がいいのかある程度は分かるつもりだ。こんな事で胸を張りたくはないんだけど。


「ふぅ……いつもの聖堂掃除に比べたら、この人数での掃除は楽ですわね」


 と呟いたマリアさんには、少し罪悪感を感じるんだけどな。

 人数が少ないとはいえ掃除をするには多かったからなのか、講堂の掃除は3時間ほどで終わった。順調なのかはともかくとして。

 それからすぐに設営が始まる。設営係をさらに中で『装飾班』と『運搬班』に分け、僕とマリアさんは運搬班に割り振られた。

 装飾班は文字通り、会場を華やかに演出させるために飾りつけをする。運搬班はテーブルを初めとした必要な備品機材を運び設置するというものだ。言葉だけなら運搬班の方がきつそうに聞こえるけど、実際は両方あまり変わらずにきついからどちらでもよかった。

 それでまあ、設営が始まったんだけど……、


「おい篠塚! ちゃんと持てよな!」

「篠倉くん、もっと右! あっ、行き過ぎ! 今度は左!」

「し――なんとか! 暗幕足りないから持って来い!」


 とかなんとか、どういう経緯なのかは分からないけど、なぜかみんな僕に何かを言ってくる。少し前までは口を聞こうとすらしてこなかったのに不思議なものだ。まあ、早く作業を終わらせたいだけなのかもしれないけど。

 というかどうしてみんな僕の名前を間違える? 別に覚えにくいような名前じゃないはずなのに。最後の人なんか「し」しか覚えてないってどういう事なんだ?

 一応ここでもう一度僕の名前を言っておこう。篠宮静流だ。ほら、覚えにくくもなんともない。いたって普通な名前じゃないか。

 そう、心の中で愚痴っていた。言われたその場で意見するのは僕には無理だし、作業中なんだから誰に誰が指示を出しているのか、それさえ分かればよかったから変に相手を刺激するのもどうかなと思ったのだ。結果、スムーズに作業が進んだんだから問題はない。

 会場設営から解放された僕は、大きく膨れ上がったビニール袋を担いで歩きながら1人で納得していた。

 解放された……と言ってもゴミ捨てを押し付けられただけだ。一時的なものに過ぎない。


「でもまあ、一時の休憩ではあるんだから、もう少し有意義にしたっていいよね……」


 作業で出たゴミはそのまま焼却場に出す事になっていて、その焼却場まで少しだけ距離がある。講堂内でせわしなく作業にいそしむ同級生には罪悪感を感じるけど、少し歩む速度を遅くした。

 人手が足りないとはいえ1人居ないぐらいじゃきっとあまり変わらないだろうしな。

 たっぷり10分ほどかけて焼却場に到着。ちょうどよく用務員の人が居たのでゴミ袋を任せて、また重い足取りで講堂へと戻る。




 と、その途中――、


「あっ、危ないっ!」

「え? へぶっ!?」


 人の声が聞こえてその方向を向いた瞬間――顔面に何かが激突した。めちゃくちゃ痛い。


「シャァーッ!」

「いだだだだ!? 何! 何なの!?」


 尻餅を着いたところで前方から何かが威嚇するような声が聞こえて、ガリガリガリッ! その『何か』に顔を引っ掻かれた。


「やめっ、やめなさいっ! やめてーっ!」

「にゃう?」

「あでっ!?」


 声からして女の子だろうか、少女が悲鳴にも似た叫びをあげると顔面に張り付いた『何か』が僕の顔を蹴りつけて飛んだ。

 顔を抑えつつ着地したやつを見ると……猫? なんで学内にそんなのが居るんだ?

 僕を引っ掻き蹴りつけた事に何も罪悪感を感じていないのか、猫は何食わぬ顔で首を掻いていた。……ってこの猫、よく見たら耳と尻尾の先に魔力――色からして水属性か――が現れている。

 こいつ、ただの猫じゃなくて精霊なのか?


「イタズラしちゃめっ、でしょ!」

「うにゃぁ」


 今のをイタズラと言うのか、君は。

 少女が猫にそう言うと猫は機嫌を損ねたのか、一言鳴いて姿を消した。やっぱり普通の猫じゃなかったらしい。

 猫を叱責した少女は小柄で――下手したらエレナより小さい――色白だった。黒い髪はまっすぐに肩で揃えられている。白い制服の校章の色は真新しい黄色。

 つまり1年――新入生じゃないか! 入学したばかりで精霊を使役したっていうのか。

 精霊の事は……僕はあまり詳しくは知らない。知っているのは、術者の魔力で生成されるという事ぐらいか。具現魔装リアライズに似てるな。あと精霊の召喚は精霊術と呼ばれているんだっけな。

 ……ってそこじゃない! いや、そこも重要ではある気がするけど。それはともかく、どうして1年生が学内に居るんだ? 先生の話じゃ来れないようにしているはずなのに。


「あの、すみません、お怪我は大丈夫ですか……?」

「ああ、うん。大丈夫。ヒリヒリするけど」


 触ってみて別に血は出ていないようだし、これなら心配する事は何一つないだろう。

 少女は不安そうにしていた瞳を潤ませて安堵の息をつ――いたと思ったら、大きく目を見開いた。その視線の先は僕の左胸――校章だった。


「せせせ、先輩……だったのですか!? す、すすみませんっ! わたしの力が未熟だったばかりに先輩にお怪我を負わせてしまって!」


 一歩引いた少女は綺麗に直角に身体をまげて頭を下げた。

 ポタポタと、しずくが落ちて地面を濡らした。って、もしかして泣いてる? 泣かした!?


「い、いや、別にこれぐらい何ともないし怪我にはカウントしないから。これぐらいの傷は騎士科なら日常茶飯事だと思うし。と、とにかく頭を上げて涙を拭いて!」

「ひっく、許されていいんですか、わたし?」


 僕の顔色を窺うように少しだけ頭を上げた少女に、とにかく力強く頷いておく。

 名も知らない後輩に泣かれるとか……ちょっと僕には精神ダメージが大きすぎる。というか僕が泣かした事になるのかな、これは?


「先輩にたてついたら死よりも恐ろしい体罰を受けるって聞いていましたけど……先輩は優しいんですね……」

「いや……さすがに全員が全員そんな訳じゃないからさ……」


 少女の言葉で泣いた理由が何となく分かった。

 この学院は一部で上下関係に厳しいところがあるんだ。後輩が先輩に対して何かやらかすとそれで罰を受ける。なんて事を、僕も入学当初に耳にした。

 だからこの少女も、僕(一応先輩)に事故とはいえ怪我を負わせてしまったから、それで僕が怒って何か体罰を受けると思ってしまったんだろう。

 とりあえず体罰がないという事に、少女は今度こそ安堵の息をついた。


「ところでさっきの猫ってやっぱり」

「は、はいっ、すみませんっ! メリーにはちゃんと言い聞かせておきますからっ」


 やっと落ち着いたと思ったらまた謝られてしまった。

 どうやらあの猫の名前はメリーと言うらしい。一瞬羊かと思ったけど、それをツッコんだらまた頭を下げられそうなのでやめておく。


「それは別に気にしないでいいよ。ただあの猫が少し気になっただけだから」

「そ、そうなんですか……?」


 少女が少し安心したような表情になる。

 ……僕ってそんなに怖いだろうか? いや、それはないか。先輩ってだけで怖がられてるだけみたいだしな。


「あれって精霊、だよね?」


 心の中で下級の、と付け加えておく。下級かどうかはただの勘でしかない。

 少女がコクリと小さく頷いた。


「メリーはわたしが小さい頃から使役している精霊で、初めて召喚に成功した精霊なんです」


 「下級なんですけどね」と小さく付け加えた。

 小さい頃――がいくつの頃を差しているのかは詳しくは分からないけど、少なく見積もっても6~8歳ぐらいだろう。そのぐらいから精霊術を使えるなんて、天性の才能を持っているんだろうな。魔法ならともかく、精霊術は素質のある人にしか使えないから。


「今ではすっかり家族の一員みたいなもので、大切な子なんです」


 微笑んで少女が言った。

 本当に大切にしているんだな、あの猫の事を。小さい頃から使役しているなら、付き合いは長そうだしな。

 少女を見下ろしていると、足元に本が落ちているのが見えた。拾ってみると、それの表紙には『魔法初級編』と書いてあった。学院内の図書館に、たしかこんな参考書があったな。


「今日は、それを見ながらメリーと一緒に特訓をしていたんです。わたし、精霊術以外はまったく使えないので」


 恥ずかしそうに小声で少女が言った。

 自主練するのはいい事だけど……なにも今日みたいな日にやらなくてもいいのに。


「練習するのはいいけど、今日はもう帰った方がいいよ」

「……どうしてでしょう?」

「今日はちょっと……怖い先輩たちが居るからさ……」


 不思議そうに首を傾げていた少女がビクリ。身体を震わせた。

 別に脅かそうとしているんじゃない。自分の単位を守るために、2年生が何をするか分かったもんじゃないからだ。僕はこのまま丁重に帰すつもりだけど、強引な手に出る生徒だっていそうだ。


「だから悪い事は言わないから、今日はもう帰った方が――」


 途中で言葉を切る。そして後ろを振り返り……誰かこっちを見てるな。しかも敵意、いや、殺意が明確に伝わってくる。

 位置もすべてバレバレなんだけど……あれ、どうしようか? 今すぐにでも飛びかかってきそうなんだけど……。

 あの殺気が僕とこの女の子のどちらに向いているのかは分からないけど――まあ、十中八九僕だろう――とりあえず、この子に被害が及ばないようにしないといけないな。

 少女が僕の身体に隠れるような位置にさりげなく移動する。と、さらに殺気が強くなって――、


「どうしたんですか?」

「ごめん、ちょっと我慢してて」

「え――ひゃあっ!?」


 一言断りを入れて少女を抱え上げて――刹那、茂みから飛び出した男子生徒が突進してきた。その手には両刃の剣を握っている。直線的な攻撃だったので後ろに飛び退いて剣を避けた。


「お前っ! かなえから離れろっ!」


 剣を構え直しながら黒髪の少年がそう叫んだ。

 校章の色からしてこの少年も1年生みたいだ。どうして今日に限って1年生が2人も居るんだ。もしかして他にも居るのか?

 それはさておき、少年が言った鼎と言うのはこの少女の名前だろうか。まあ、そうだろうな。


「アルマさん? どうしてここに?」

「え、いや、それはその……散歩してたら偶然、鼎の姿が見えたからその……」


 少女も驚いているらしく、少年を不思議そうに見た。突然アルマと呼ばれた少年が顔を真っ赤にして慌てはじめた。


「知り合いなの?」

「はい、クラスメイトです」


 それなら鼎さんに危害は加えないだろう。とりあえず下ろしてあげた。


「っておれの事はどうでもいいっ! 今大切なのは、その変態モヤシを断罪する事だっ!!」

「変態モヤシって……僕?」

「それ以外に誰が居る!」


 いやいや……百歩譲ってモヤシは頷いたっていい。実際僕は剣士としては身体が細い方だから、もう少し筋肉を付けた方がいいよな、とも思っているから。

 だけど、変態ってのはどうやったって頷けない。というか頷きたくない。そもそも何をどう見たら初対面の人にそんな言葉が出てくるんだろうか?


「アルマさんやめてくださいっ。この先輩はとても優しい人です。悪い人ではありませんっ」


 僕に変わって鼎さんがアルマくんに対して叫んだ。

 直に「とても優しい」なんて言われると、なんだか照れるなぁ……。

 アルマくんは鼎さんの言葉に少し言葉を詰まらせたけど、頭を振ると僕を睨みつけてきた。


「鼎はそいつに騙されてるんだ! でなきゃさっき鼎を抱きっ、抱えるなんてっ、しし、しなっ、しないはずだろぉっ!!」


 顔を真っ赤にして言葉を詰まらせながら、必死に声を出しているようだった。赤面癖でもあるのか、あの少年は。

 と思ったら鼎さんも頬を赤らめてチラリ。僕を横目で見てきた。


「た、たしかに、さっきのは驚きましたけど……それでもいい人なんですっ」

「い……いくら鼎がそう言ったっておれは騙されないからなっ! センパイだからっていい気になるなよっ! 羨ましいんだよチクショウ!」


 いや……いい気になっているつもりはまったくないんだけど。

 しかもなんだか思いきり私怨な感じがする。何に対して羨ましがっているのかは分からないけど。


「と、とりあえず落ち着いて。話し合いでもしようか?」

「うっせー! 問答無用だー!」


 叫びながら少年が地面を蹴って走り出した。

 何でこんな事になるんだろうかと首を傾げたくなりつつ、僕は小さく溜息をついた。

 はい、新キャラを3人ほど出させてもらいました。

 とりあえずメインとサブの中間ぐらいの立ち位置になるんじゃないかなと思いますが、どうなるかはまだ未定なのであしからず。

 というか前回がっつりとか言いながらそこまで進んでいないような……。まあ、前書きにもすこしと書いたんでいいですかね(笑)

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