あなたのそばに。
某読者参加企画に送ったモノにちょこっと書き足した「ちょい足しVer.」ですwww
最後の展開、ちょっと書き足しただけでも変わるもんだなぁ・・・(;^^)
「――これでもう四件目、だね」
呟きながら僕は、ホワイトボードに貼ってある地図に、被害者の位置を示す丸印を書き加える。
すると奥で、
「ああああんっ、もうっ! 分かんない、全然分かんなぁいっ!」
と、悔しそうに一人の女の子が、雑多に物が置かれているデスクの前で、しかめっ面をしながら腕を組んでいる。
150cm行くか行かないかの見た目(本人はそれ以上あると言い張ってるけれど)で、下手すれば小学生とよく間違えられる。けど、これでも探偵事務所を構えていて、この辺りで起きた事件を幾つも解決している事で有名な(自称)美少女高校生探偵だというのだから、人は見た目によらない、というか何と言うか。
僕は数時間前からうんうんと唸っている女の子に話しかける。
「メイちゃん。少し休んだほうがイイんじゃない?」
僕の言葉を受けると、女の子は頬を膨らませて、
「ユウジ君。『メイちゃん』じゃなくて『メイさん』、でしょ? 事務所では敬語厳守だって言ったじゃない! 今度言ったら減給だからね、げんきゅー!」と抗議した。
「あ、すいません……」
メイちゃん、改めメイさんが開くこの事務所に僕が助手として入ったのは今から数年前の事。その頃からメイさんはこの事務所を一人で切り盛りしていた。
何でも、先代の父親から事務所を受け継いだらしい。そんな彼女だけど、「少しでも大人の女に近づくため」とか言って、自分の事を『メイちゃん』ではなく『メイさん』と呼ばせている所は、やっぱりまだ子供だと言わざると得ない。
なんて、考えている矢先に。
「ユウジくーん。なーに考えてるのかなぁ?」
メイさんが、にんまりと笑顔で僕を見つめていた。目は全く笑ってなかったけど。
「あ、ええと。ほ、ほら、事件! 事件の事考えてました!」
僕はとっさに話題を逸らした。今メイさんの頭を悩ませている連続バラバラ事件。今までに四人の男女が殺されてバラバラにされている。「被害者の腕に巻かれいている腕時計が、十時を差したまま壊されている」という奇妙な共通点以外、証拠や犯人に繋がる情報も無く、警察の方でも捜査が難航しているらしい。
「で、ユウジ君はどう思ってるの?」
「そ、そうですねぇ。やっぱり、腕時計が犯人からの何らかのメッセージになってるんじゃないかなぁ、って」
僕がそう答えると、メイさんはやれやれと首を振った。
「全く、そんな事私でも気付いてるって。その先を考えなきゃダメでしょ」
メイさんは言うとやおら立ち上がり、腰に手をあて無い胸を張ると(そう言うと凄く怒るけど)、得意気に自分の推理を話し始めるメイさん。
その殆どは、苦笑いすら浮かべられない様な荒唐無稽な推理だったが、僕はそれを関心を持って聞いているフリをして、頭の中で別の事を考えていた。
――今度の犯人役は、誰にしようか、と。
まさか、自分が今まで犯人だと指摘してきた人が実は全くの濡れ衣で、すぐ隣にいる助手が今までの事件の犯人だなんて、思いも寄らないだろう。
先程言った「腕時計のメッセージ」も、警察を除けば犯人である僕しか知らない事実だ。警察から聞き出したかの様に、僕からメイさんに伝えたのだ。そしてメイさんの調査が佳境に差し掛かった時、事前に決めていた犯人役に全ての罪を被せるのだ。
僕が事務所に入ったばかりの頃。事務所は今とは違い依頼等は全く無く、廃業の危機に陥っていた。その理由は、近くに居てすぐに分かる。
ハッキリ言って、メイさんは「どうして探偵なんてしてるんだろう」と思いたくなる程のバカだったのだ。周りの人たちから「親の代から随分と堕ちたものだ」なんて中傷を受けた事も、一度や二度では無い。それでも探偵を辞めようとはしなかったメイさんに問い詰めた事がある。
「何故、そこまでして続けるんだ」と。
すると、困った様に笑いながら、メイさんは答えた。
「お父さんみたいな、困った人を助ける探偵になるのが、昔からの夢だったから」
涙を目の縁に溜めた、精一杯の笑顔を見た時に思った。この人を本当の探偵にしたい、と。
けれど実際、そう都合よく解決できるような事件なんて起きやしない。だから、自分で起こしたのだ、メイさんに解決させる事件を。
最初は、自分の身の回りの人を中心に軽めの犯罪をして、その都度メイさんに解決させ、徐々に探偵としての力を付けさせた。次第に、罵倒していた周りの住民も徐々にメイさんを認める様になっていった。それに比例して、僕が行う犯罪も徐々に過激になっていき、遂には殺人にまで手を染めてしまった。
でも、後悔はない。何たって、自分が愛した「めいたんてい」の助手になれたんだから。
そう思うと、自然と顔が歪んでしまう。
「ちょっとユウジ君、今笑ったでしょ!」
「え、いやいや笑ってないですって」
慌てて僕は誤魔化し、メイさんを宥める。全く、この人の助手を勤めるのも楽じゃない。
だけど、僕はそれでも幸せだ。何故ならこうして、あなたのそばにいれるのだから――。
「とにかく! こんなとこで考えても仕方が無いわね。現場に行くよ、ユウジ君」
「あ、はい」
僕はドアを開けるメイさんへと続く。そのメイさんがふと、微笑を浮かべながら僕を振り返る。
「ユウジ君。ありがとね、いつも」
「……? どうしたんですか? いきなり改まって」
「ほら、たまには部下を労うのも、いい上司の務めってヤツだしね」
「はぁ、そうなんですか」
その割には余り労ってないような気がする、なんて事は言わないけれど。
「あ、でもさー。仕事頑張るのはいいけど、ユウジ君最近仕事やりすぎだよ?」
「はい? やりすぎって言うのは……」
「だぁ、かぁ、らぁ」
メイさんは言うと急に立ち止まり、正面から僕を見据え、腰に両手をあてて上目遣いで僕を見やる。そして、悪戯を仕掛けた小悪魔のような笑顔で放たれた次の台詞は、一瞬にして僕を凍て付かせた。
「――人を殺すまでは良いけど、バラバラにするのはやりすぎだよ、って事」