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外面王子と模倣AI ーポンコツ男子の想いはAIに伝わらず、今日も空回りするー

作者: 星川宙
掲載日:2026/08/01

 生徒会室で本日必要な仕事を終えると生徒会長である少年、山代(やましろ)玲耶(れいや)は大きく伸びをした。そして、同じく残っていた生徒会のメンバーにさわやかな笑顔でお礼を言う。


「みんな、ありがとう。これで今日の議題は全て終了だ」


 玲耶の締めの言葉で各々立ち上がり、生徒会室を後にした。最後に部屋に残ったのは玲耶と副会長の天谷(あまたに)直虎(なおとら)だ。直虎は玲耶にニヤニヤしながら近付いた。


「相変わらず、学園の王子様やってるねぇ。完璧人間すぎて嫌になるわ」

「トラ、俺は完璧じゃないよ。そう見せてるだけ。この世に完璧な人間なんていないだろうしね」

「うわあ、その言い方が既に完璧人間なんだよ。今日もまた帰ったら勉強か、主席様?」


 直虎はやれやれと両手を肩の横にやり、大袈裟にリアクションする。玲耶はその様子に微笑む。


「何度も言ってるけど、家では宿題以外に勉強はしてないぞ?」

「でたー、やってるのにやってないって言うやつ! それにその王子様スマイルやめろ」


 そう言いながら、直虎は玲耶の頭を小突く。本当の事なのになと思いながら玲耶は反論するのをやめる。それよりも気になった事があった。

 帰り支度をしながら、直虎に向き直る。


「王子様スマイルとかしてないからな、なんだよそれ」

「お前自覚なしかよ! 高1の時からキラキラと効果音見えるような笑顔振りまいておいて!」

「そんな笑顔人間が振り撒けるわけないだろ」


 直虎が少し嫉妬が混じったような声で玲耶を指差す。そんな笑顔をした記憶もないのに、怒られて心外だ。しかし、直虎はかなりの情報通だ。ということは他に王子様スマイルとやらの命名者がいるはず、そう思うと玲耶は、恥ずかしくなる。

 これ以上、直虎と話していたら恥ずかしさで憤死するんではないかと考えた玲耶は、鞄を手に取り立ち上がる。


「俺、用があるからこれで帰るな。戸締りよろしく」

「あっ、こら玲! 逃げんな」


 そんな直虎の声に背中に受けながら、玲耶は生徒会室から出た。そして、昇降口に向かって歩き出す。途中、すれ違う生徒や教師に笑顔で挨拶する。

 これも王子様スマイルとか言われているのか? と自分の笑顔に不安を覚えながら、玲耶は学校を後にした。


 高校の近くにある商店街。八百屋や肉屋には多くの女客がいた。そのうちの何割がアンドロイドなんだろうかと、玲耶はぼんやりと見ながら考える。この町のアンドロイド率も少し気になってきた。


 十数年前にハウスキーパーの代わりに、家事専用アンドロイドが登場し、人々の暮らしは一変した。料理は名店の味のレシピを仕入れて、家庭で美味しい料理を食べれる。買い物や掃除もアンドロイドがやってくれるため、家事が苦手な人でも外食だけに偏らず手作り料理が食べれるようになり、世界の健康寿命は伸びた。


 仕事や学業を優先し、憂鬱ともされる名もない家事への時間の浪費も減り、生産率も上がった。今では人々の暮らしになくてはならないものであり、家にアンドロイドがいない家庭の方が少ない。

 家事の全て、買い物も料理も後片付けも掃除もーー家事と振り分けられるもの全て実施してくれるアンドロイドは特に学生や独身者に重宝されていた。


「今日の夜ご飯はなんだろうか?」


 そういう玲耶の家にもアンドロイドがいる。高校入学を気に一人暮らしをすることになった玲耶を両親が心配して購入してくれたのだ。買い物をする客達を見ながら、玲耶は本日の晩御飯を楽しみになり、自然と早歩きになる。

 そして商店街から少し離れた位置にある学生向けのマンションにたどり着く。


 玲耶は慣れた様子で、エレベーターに乗り込み5の数字を押す。微かにモーター音を聞きながら、エレベーターが上昇していくのを感じる玲耶の頭の中は既に夕飯のことでいっぱいだった。

 5階にエレベーターが到着を告げる音がして、扉が開く。"508号室"が、玲耶の家だ。鍵を開けて中に入る。


「ただいまー」


 家の中に入り、扉が閉まる音を聞いた瞬間に、玲耶は体の力が抜けた。そして、適当に靴を脱ぎ散らかしてリビングに行く。2人掛けのソファの隣にカバンを置くと、ソファにダイブする。


「疲れた。もう指先一本も動かしたくない。なんだよ、王子スマイルって、学園の王子とかやってねぇーし、完璧とは程遠い人間なんだよ」


 ソファに寝転びながら玲耶はぼやく。そこには学校での王子様然とした様子はカケラもなかった。

 足をバタバタさせて直虎から言われた言葉に恥いる。


「マジで勘弁してくれ。俺は一人暮らしをするために頑張ってるだけだ、家族にバレたらこのパラダイスはなくなる」


 そう言いながら、靴下が窮屈に感じたので足を使って靴下を脱ぐ。脱げた靴下は重力に従い、床に落ちた。


「私が家での生活を報告した瞬間に終わると思うよ。靴下を床に脱ぎ散らかさないと何度言えば理解するの?」


 その様子を見ていた、短い黒髪の女性が呆れながら玲耶に問いかける。


愛衣(あい)が拾ってくれるからいいんだよ」

「確かに私は家事専用アンドロイドだけど、玲を自堕落にさせないように玲耶の両親(マスター達)に頼まれてる」


 ドヤ顔で言う玲耶に愛衣はそう言う問題ではないと言うように語る。玲耶の両親は彼が外面はいいが、家では自堕落な事を知っていた。一人暮らしをしたいと言った時は、お前には無理だと散々言われた。しかし、誰かの目があっては真の自堕落生活は送れない。

 だから、なんとか説き伏せたのだ。辛かった家の中でも真面目のフリをしてきた過去を思い出す。

 あの日々のおかげで悠々自適な一人暮らしを確かに玲耶は勝ち取ったのだ。


 しかし、一人暮らしには条件がついた。

 一つ、生活能力皆無の玲耶が家で遭難や飢えないように家事専用のアンドロイドを入れる事。

 一つ、成績が落ちたり、自堕落な生活を送るようなら一人暮らしは終了すると言う事。


 最初の1ヶ月、玲耶は頑張った。しかし元々自堕落万歳な性格の上に、一人暮らしの目標が自堕落な生活を送る事だった為、限界はすぐに迎えた。

 そんな様子を見ていた愛衣が少し考えてから抜け道を提案してくれた。


「事前データとして玲の自堕落具合は知っている。それ以上に堕落しているようならとマスターに言われている。行き過ぎなければ私は報告しないことも考える」

「!? ほんと? ありがと、愛衣! 愛してる」


 そう言って、愛衣に抱きついた。肌は柔らかいが人体の温かみを感じられず、そこで玲耶は愛衣がアンドロイドであることを自覚した。しかし、それと同様にもう一つの感情も自覚してしまった。電子で構成されており、感情がないとはずのアンドロイドが自分の為に抜け道を用意してくれた。それは感情というものがバグとして発生したのではないか。そんな彼女が自分は好きだと。

 決して報われることのない恋心を玲耶は抱えていた。


 そこまで考えたところで、顔を覗き込まれる気配を感じ、現実に戻ってくる。目の前には愛衣の顔が思った以上に近くにあり、顔が赤く染まる。


「? 心肺と体温の異常を感じたけど、熱でもある?」


 そう言って、愛衣の手のひらが玲耶の額に触れる。


「ーーっ!!」


 顔に体中の血液が一瞬で集まったのではないかと玲耶は感じた。鏡を見なくても自分の顔は真っ赤であることがわかる。しかし、愛衣は不思議そうに首を傾げる。


「熱い気はするけど、熱はない? なんでだろう?」

「なっ、なんでもない! なんでもないから!」


 玲耶はソファから起き上がり、愛衣と距離をとる。不思議そうに愛衣が距離を詰める。その顔は心肺そうだ。

 普段なら表情や感情の模倣とわかっていても可愛いと思えるのだが、今は心臓に悪い。


「そう、わかった。夜ご飯今から作るけど、何がいい? 先にお風呂入る?」

「夕飯は任せるよ。愛衣の料理はなんでも美味しいから」


 まだ顔が赤いがなんとか玲耶は笑顔で本心を伝える。

 愛衣は不思議そうに首を傾げた。


「昔からの有名店のレシピを完璧に模倣しているので、美味しくなければ困る」

「いや、君が作るからでレシピじゃないんだけど……うーん、どうしたら伝わるな?」


 ほのかな恋心を伝えようとするもいい表現思い浮かばず、玲耶は首を窄める。


「とりあえず、ご飯はなんでもいいよ。先にお風呂入ってくる」

「それなら、靴下も拾って洗濯機に入れておいて」

「……はーい」


 玲耶はそう返事をすると床に脱ぎ散らかした靴下を拾い、敗残兵のようにリビングを後にした。


 お風呂でさっぱりした玲耶がリビングに戻ると鼻腔にカレーのいい匂いが届く。今日はカレーになったようだ。玲耶はキッチンに近づいた。


「いつもありがとな、愛衣」

「これが、プログラミングされている仕事なので、礼は不要だよ」

「でも、感謝の言葉は伝えたくてさ」


 後ろから愛衣を抱きしめながら玲耶は言う。自分のこの心臓の高鳴りが愛衣にも伝播すればいいのにと思いながら。


「玲、料理の邪魔。離して」


 しかし現実は残酷だ。一緒に並んでみたテレビドラマの迷惑そうな登場人物の表情を完全に模倣して愛衣に離すように言われる。


「わかったよ」


 やや不服そうに玲耶は愛衣から離れた。愛衣に感情が芽生えないか期待して、毎日並んで恋愛ドラマを見ている。しかし、今だに愛衣に感情が芽生える様子はない。

 玲耶は心の中で今日も敗北だなとため息をつく。この恋心を自覚した時から決めてきた。

 愛衣に、アンドロイドのプログラミングされたAIに模倣じゃない感情を芽生えさせることが出来るのか、そのために大学ではもっとAIを知っていつか絶対に振り向かせる。それが玲耶の目標だ。


 自堕落な生活を満喫しながら、愛衣と恋仲になる。


 そのためだけに、きっと玲耶は明日も外面の仮面を完璧に被って王子様を演じるだろう。

 全ては自分の欲望のためだけに。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


ラブコメ書けるかなと始まった作品ですが、報われないのかわ書きやすくて楽しかったですが、果たしてこれはラブコメなのでしょうか?

この後もきっと玲耶は愛衣に感情を芽生えさせる為に頑張るんだろうなと想像するのも楽しいですね。

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