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アレミテの仕事

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお、つぶらやくん。どうした、めちゃくちゃしんどそうな顔をして。


 ――この世でもっとも弱いものの体験をしてきたら、しんどかった?


 うん? もっとも弱いものの体験? なんだい、社会の勉強かなにかかな? まあ、一概にその手の体験も軽んずるものではないと思うし、良いと思うよ。

 上には上がいるように、下には下がいる。自分がどれほどのものを持っていて、あるいは持っていないのか。正確にはかれていればいいけれど、成功や失敗が続きすぎたりすると、ついこれらの評価を見誤ってしまう。

 成功に調子づいて無謀なことに挑んだことでリスクを背負い、また慎重になりすぎたばかりにむざむざ大成功の機会を失ってあとからみじめな思いを味わうこともあろう。自分の力量はちくいち認識をアップデートしていくのがいいな。


 ――ふむ、なにを見当違いの戯言を……とでもいいたい顔だね。


 よ~し、そちらがもっとも弱いものを体験したのであれば、逆に最強をめぐる昔話でもお届けしようか。聞いてみないかい?


 最強、というものの定義はむずかしい。

 世の中すべてを指すならば、先に話したように上には上がいることになろう。ゆえにどこかのコミュニティなり、地域なりで区切りを設けないことには青天井になってしまい、結局誰なのか把握できなくなってしまう。

 なので、私の地元ではずっと前に、最強の称号として「アレミテ」なるものが受け継がれてきたそうなんだ。

 アレミテを継ぐものは地元に根付いていた血筋の中から、突然変異的にあらわれる。言い伝えによると、彼らは古くには気象をほぼコントロールすることが可能であり、自分のまわりの土地へ陽を降り注がせ、よその土地は徹底的に冷え込ませる……といったことも行ったとか。

 とはいえ、そこまでできるのは伝説のレベル。私の聞いたところだと、アレミテの終末期には、よくて気温を気持ち上げたり下げたりがやっとくらいだったと聞く。自然な気温の移り変わりと区別が難しいくらいね。

 しかし、気象制御はアレミテの仕事において副作用のようなものにすぎない。

 アレミテの本当の役目は、「自然の精」との戦いを制することのできるもののことなのさ。


 我々が天運と呼ぶ、目に見えないさまざまな世界の運び。その一部にアレミテは干渉するために戦うんだ。

 アレミテが勝てば平穏無事だが、敗れれば大小の災害が起こってしまう。勝っても何も賞賛されることなく、負けたときだけとやかく言われる。なんとも味わいたくない立場だけど、容易にサボるわけにもいかない。

 もっとも、この数十年はアレミテの存在は伝えられていない。途絶えてしまったのか、当代がひた隠しにしているかは知らない。なので、アレミテに関する話はわたしの叔父によるものが直近となるな。


 叔父の友達が当時のアレミテの役を引き受けていたらしい。

 当時、年齢は12歳の小学校6年生。純粋に強さでもって決められるから、老若男女による差別などはない。その仕事を果たすことができるなら。

 友達が叔父に話した理由は、今も分からない。若さゆえに、自分のやることをこっそりとでも自慢したいような心地でいたのかもしれない。叔父も最初に聞いたときは、ちょっと信じられない心地だったとか。

 その不信が伝わったのか、友達は特別にアレミテの仕事を見せてくれたらしいのさ。


 地域の小高い丘の上。

 友達に案内された叔父は、人ひとりがすっぽり隠れられる塹壕、いわゆる「たこつぼ」に入れられる。素で身体をさらしていると危険があるから、ここから顔だけ出しとけとのこと。

 友達は叔父のこもるたこつぼのやや右前方へ立つ。ほどなく、向かい風がじょじょに強まって、友達のまとう服がはためき始めた。

 次の瞬間、おじさんのこもるたこつぼの左横2メートルほどの地面で、土柱が立った。音を立て、おじさんの顔にも小さな石たちが飛んでくる。

 ほこりが薄れてくると、そこにはおじさんが身を潜ませているものに劣らない大穴が開いていたんだ。

 事前に聞いていた、自然の精との闘い。その被害だ。

 それからほんの3分程度だったが、丘の上はたちまちもぐら叩きの穴のごとき様相に。やや遠くに生えた木々たちも、倒れこそしなかったが何本もの枝が折れ飛ばされ、幹には無数の傷跡をこさえている。

 何が原因なのか、一部始終を見ていても叔父にはさっぱりわからなかった。気づいたときには、起こった結果だけがそこに横たわる。こうして避難していなければ、たとえ自分が直撃を受けたとしても、何も感じ取る前に終わっていたかもしれない。


 その不可視の猛攻の中にあって、友達は無傷で立ち続けていた。多少、手を振るような仕草は見せたが、大きな動きはないままに、やがて破壊の渦はおさまってしまう。


「よし。これで明日は晴れるはずだよ。ちょっと頑張っちゃった」


 そう話す友達の言う通り、次の日は晴れと相成った。叔父の知る限り、すべてのニュースでは降水確率が100パーセントと話していたにもかかわらず。

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