第7章:地上への再挑戦
昇降管の扉が重々しく閉まると、地下層の湿った空気と人工照明の淡い光は、背後に静かに消えた。カイはユナを抱え、しばらく暗闇の中で息を整える。彼女の体はまだ弱々しく、微かな震えが伝わってくる。しかし、地下層で守られていた日々とは異なる——地上への一歩が、二人を未知の世界へと押し出していた。
「怖くないか?」カイは静かに尋ねる。ユナは小さく首を振り、目を細めて微かに頷く。体に力が入らないはずなのに、なぜか決意を含む瞳はしっかりとカイを見つめている。カイは胸の奥に小さな安堵を感じつつも、油断はできないと自分に言い聞かせる。
昇降管が上昇し、天井の鉄格子が光を切り裂く。廃墟帯の地上は、灰色の瓦礫と崩れた高層建築、割れた道路で覆われていた。遠くには、かつて栄えた都市の残骸と、破壊され放置された空中交通網の鉄骨が空に向かって伸びる。風が瓦礫の間を吹き抜け、砂塵がカイの顔に当たった。
「……ここが地上……」ユナの声はまだ弱々しいが、好奇心と恐怖が混ざり合った響きを帯びている。カイは小さく頷く。「そうだ。でも、気を抜くな。ここには、危険がいっぱいだ」
カイはブレードを腰に固定し、EMPガンを肩に掛ける。ユナはその横で、まだしっかりとは立てない足取りで彼に寄り添う。二人の前に広がる廃墟帯は、地下層の閉塞感とは全く異なる自由と危険の混在する空間だった。遠くで金属音が響く。リーパーズの残党か、富裕層の監視ドローンか——どちらにせよ油断はできない。
「カイ……」ユナが微かに囁く。体から微弱な電脳信号が漏れ出しているのをカイは感じ取った。——彼女の二重化思考波形が、地上の環境に反応している。微かに波形が揺れ、視界の端に淡い光の残像がちらつく。カイは思わずユナの肩を抱き直した。「大丈夫、落ち着け。何があっても俺が支える」
瓦礫の間を慎重に進む二人の背後、地下層の昇降管から上昇する風が微かな音を立てる。その風に混じり、かすかに電脳世界の残響が地上にまで届く。カイはそれを感じ取り、無意識のうちに歩を止める。ユナの体に触れる手に力を込め、目を凝らすと、崩れた道路の向こうに微かな動きが見えた。
「……見えた?」ユナの声は小さいが、はっきりしている。カイは頷き、視線を固定する。遠くで鉄骨が倒れ、地面にぶつかる音が響く。廃墟帯の空気は静かだが、確実に何かが動いている。
カイはユナの手を握り直し、ブレードを抜く。EMPガンも構え、警戒を最大限にする。ユナは微かに眉をひそめ、意識を集中させる。——電脳世界での経験が、わずかに彼女の能力を呼び覚まし始めていた。脳波の二重化が局所的に増幅され、視界の端に光の残像が重なる。カイはその変化に気づき、唇を噛む。
「行くぞ……」カイの声には決意が込められていた。廃墟帯を慎重に進む二人の前に、崩れた建造物の影が迫る。そこに潜むのはリーパーズの残党、もしくは未知の監視者——どちらにせよ、カイはユナを守り抜く覚悟を固めている。
歩を進めるたび、ユナの瞳に微かな光が宿る。記憶はまだ断片的だが、危険を察知し、直感的に反応する能力が目覚め始めていた。カイはそれを見守り、同時に自らも警戒を怠らない。二人の存在は廃墟帯において、まだ小さいながらも確かな光となっていた。
地下層から地上への挑戦。瓦礫の海を前に、二人は互いの存在を支えにしながら、未知の世界へと歩みを進める。その先に待つもの——富裕層の影、リーパーズの追跡、そしてユナの能力の真実——全ては、この一歩から始まるのだった。




