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《DUAL MIND - デュアル・マインド》  作者: ミストマン


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第5章:地下層での保護と探索

地下層の通路は静まり返っていた。瓦礫の撤去や戦闘の跡が残る空間に、かすかな光が漏れるだけで、耳に届くのは自分の呼吸と遠くの排気音だけだった。カイはユナを抱えたまま、ナギサの待つ医療区画へと足を運ぶ。彼女の手際の良さを思い浮かべ、少しだけ安心する。地下層の中で、彼女だけがこの新しい存在に冷静に向き合える存在だった。


医療区画に入ると、ナギサがすぐに近づいてきた。「カイ、まず落ち着いて。ユナの体温と心拍数を確認するわ」長い栗色の髪が揺れ、静かな声が部屋に響く。カイは頷き、ユナの肩を支えながら横たえた。


ナギサが神経同期グローブをユナの手首に接続すると、微かな波形がモニターに映し出される。通常の人間の脳波とは異なる複雑な二重化パターン。カイは息を呑む。——あの電脳世界で感じた残響と同じだ。ユナの脳は、通常の200%近い容量で活動していることが明らかになった。


「……異常ね。でも完全に制御できていないわ」ナギサの声は冷静だが、眉間にわずかな皺が寄る。「このまま放置すれば、肉体に負荷がかかる。無理はさせられないわ」カイはユナの肩に手を置き、そっと頷いた。「わかってる。でも、俺が守る。誰も手出しさせない」


ユナは小さく息をつき、微かに目を開いた。瞳には不安と警戒が混じるが、カイの顔を見つめると、その目は次第に落ち着きを取り戻す。小さな手がカイの腕に触れた瞬間、微かな電流のような感覚が走る。カイはハッとする——ユナの脳波が、彼の神経同期グローブの感覚とわずかに共鳴しているのだ。


ナギサはモニターを見つめたまま分析を続ける。「この能力……通常の人間ではあり得ない。二重化した思考波形は、単なる記憶の断片ではなく、電脳世界の信号と共鳴している。制御できれば、非常に強力な力になるわ」カイはその言葉に心が騒ぐ。——ユナはただの被験者ではない、という確信が強まった。


「カイ、少し離れて、観察するだけにして」ナギサは穏やかに促す。カイは頷き、ユナの横に立ったまま見守る。少女は微かに意識を集中させるように眉をひそめ、空気の振動や部屋の光を感じ取るように視線を動かす。その仕草は、人間というよりも、どこか電脳世界のデータ流を読み取るかのようだった。


「名前は……ユナ、だよな?」カイが静かに声をかける。ユナは小さく頷き、声はまだ弱々しい。「……うん……」その響きは、砂埃に溶けるかのように淡いが、確かに存在感を持っていた。


ナギサは解析を続けながらも、カイに向けて微笑む。「大丈夫、しばらくはここで安静にしていれば。君が傍にいるから、精神的には安定するでしょう」カイはその言葉に力を得た気がした。地下層の薄暗い光の中で、彼とユナ、そしてナギサの三人だけが小さな安心の輪を作る。


その時、微かな振動が床から伝わった。カイは直感的に察知し、ブレードに手を伸ばす。ナギサも素早く警戒態勢を取る。——リーパーズの残党か、それとも富裕層の監視部隊か。地下層の静けさの裏で、何かが動いているのを感じた。


「落ち着いて。今は観察だけよ」ナギサがユナに声をかける。少女は一瞬驚いたが、すぐに体を小さく丸め、呼吸を整える。カイは手を握り、肩を軽く叩いた。「怖くない、俺がいる」その言葉が、ユナの緊張を少しだけ解きほぐす。


地下層の医療区画は、戦場の名残とは対照的に静かだ。しかし、その静寂の奥では、電脳網の奥深くが微かに反応している。ユナの二重化思考波形が、既存のシステムの監視をすり抜け、微かな信号を送る。その波形に気づく者はいない——だが、地下層の仲間たちに守られることで、彼女の存在は初めて安定する。


カイはユナの手を握ったまま、視線を前に向ける。廃墟と残骸に囲まれた地下層での時間は、短くとも確かな絆を築く一瞬だった。——ユナの秘密、デュアルマインドの可能性、そして自分たちの運命。それらが、静かに、しかし確実に動き始めていた。

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