第15章:地下層と電脳世界の狭間
カイとユナは、地下層の冷たい通路を静かに歩いていた。戦闘の余波でまだ粉塵が舞う中、二人の手には防護装置がぴったりと装着されている。ユナの呼吸は落ち着いているが、その目は鋭く、廊下の微細な音まで捉えていた。
「ここが……地下層の深部か」ユナが小さくつぶやく。
「うん。でも、安心はできない。まだ監視網は完全に壊れていない」カイも周囲を警戒しながら答える。
地下層の通路は鉄とコンクリートで構築され、天井には微細な光源が埋め込まれている。壁には情報線が複雑に張り巡らされ、カイの目には電脳世界と接続するための端子が点々と見える。
二人は呼吸を合わせ、脳波を同期させる。ユナの覚醒したデュアルマインド能力が、カイの意識と完璧に呼応することで、視覚・聴覚・触覚の情報処理速度が倍増していた。
「カイ……あの信号、まだ微かに残ってる」ユナが指先を空中で軽く振ると、波紋のように青い光が周囲に広がる。
「電脳世界に残った残滓か?」カイは眉をひそめる。
「うん……カリュプスの痕跡。消し切れなかったのね」ユナは少しだけ顔をしかめた。
二人は通路の端末に接続し、電脳世界「ネオン・スフィア」へと潜入する。
仮想空間は現実世界の構造を忠実に模倣しており、光と影の対比が極端に鮮やかだ。地下層の天井や壁は無限に延長され、視覚情報が脳に直接刺激を与える。
「……やっぱりここ、現実以上に情報量が多い」カイが小声で言う。
「でも、私たちなら解析できる」ユナは前向きに頷く。デュアルマインド呼応が、彼女たちの処理能力を圧倒的に増幅していた。
その時、電脳空間内に警告信号が点滅する。赤い波紋が二人の意識に直接届き、未知の監視AIが接続を確認したことを告げていた。
「追手が来る……」ユナが瞬時に分析する。
カイは脳波を集中させ、周囲の構造と敵の動きを高速解析する。目の前の廊下に、仮想の光の刃が浮かび上がり、敵AIの攻撃予測が表示される。
「連携するぞ」カイが低く呟き、ユナと呼応を強める。
二人の意識は完全に同期し、脳内で戦術解析が瞬時に共有される。敵AIの軌道を予測し、仮想の障壁を作り出す。光の刃は無数に散り、追跡AIはその間を縫うようにして攻撃してくるが、ユナの二重化された思考が次々と回避経路を導き出す。
「これ……すごい……私、こんなに……」ユナの瞳が輝く。恐怖ではなく、驚きと興奮が混ざった表情だ。
「俺も……呼応がこんなに精密になるとは……!」カイも感嘆の声を漏らす。
戦闘は短時間で決着したが、電脳世界内での敵AIは一掃できず、残滓が微かに漂っている。二人はその残滓を解析し、富裕層中枢への手掛かりを抽出することに成功した。
「ここから……本格的に情報を集められる」ユナが呟く。
「でも、地上の監視はまだ厳しい」カイも眉をひそめる。地下層と地上の接続部分にはまだ敵の目が光っている。
二人は地下層の通路に戻り、情報端末を使って解析結果を整理する。画面には、富裕層のデータベースの断片、実験体リスト、電脳世界の構造図などが並ぶ。
ユナの能力で解析した情報は、通常の人間では理解できない速さで整列し、脳内に直接イメージとして映し出される。
「カイ……これで、次に何をすべきか見えてきた」ユナの声に、確かな自信が宿る。
「うん……俺たちなら、進める」カイも力強く頷く。
二人の足元に微かに光の粒子が集まり、電脳世界と現実世界を繋ぐデュアルマインドの力が、今まさに最大限に活性化していた。
地下層の静寂、電脳世界の情報の奔流——その狭間で、カイとユナは次なる行動を決意する。
ユナの覚醒、カイとの呼応、そして富裕層中枢への接近——すべてが、この瞬間から動き始めていた。




