第11章:富裕層の真実
昇降管を抜け、地上の廃墟帯に再び足を踏み入れる。午前の光はまだ弱く、瓦礫の隙間から差し込む。遠くに、かつて高層ビル群だった巨大施設の残骸が見える。金属の光がわずかに反射し、崩れた構造物が不気味にそびえ立っていた。
「……ここが、目指す場所……」ユナは小さな声でつぶやく。肩越しにカイが頷く。
施設に近づくにつれ、監視用ドローンが空中を旋回し、微かな機械音が耳をつく。普通の人間ならここで恐怖で足が止まるだろう。だが、ユナの脳波は既に戦闘・探索モードに切り替わっていた。微細な振動、空気の流れ、敵の配置予測——すべてが彼女の視界に浮かぶ。
「カイ、左側の構造体に侵入路がある」ユナが指示する。
「了解。俺も脳波で連携する」カイは小さく応じ、二人は瓦礫の間を静かに進む。
施設内部に入ると、荒廃した廊下に残る光と影、ひび割れた壁面、散乱する機械部品が目に入る。地下層とは違う、富裕層特有の無機質で冷たい空気が漂っていた。
「……ここに住む人間がいるのか……?」ユナの声は小さく震えるが、瞳には好奇心と警戒心が混ざる。
カイは軽く肩を叩き、「注意しろ、奴らがすぐに動くかもしれない」と告げる。
二人は廊下の端に伏せ、ユナが深層脳で警戒区域を解析する。装甲型の監視ドローンや、自律警備ロボットの動線が映像のように脳裏に浮かぶ。
突然、廊下の奥から金属音と低い機械音。監視ロボットが巡回している。ユナの指示でカイは廊下の陰に身を隠す。
「……ここで、呼応する」ユナが低く言う。
二人の脳波が共鳴し、動作がシンクロ。ユナが瞬間的に計算した角度でレーザーセンサーを回避し、カイはEMPブレードでセンサーを瞬時に破壊する。
「すごい……呼応してる」ユナの声は震えながらも興奮を帯びる。
「これが俺たちの力だ」カイは微笑む。二人は無言のまま廊下を進む。
施設の奥に進むと、巨大な培養槽群が並ぶ実験室に辿り着く。透明な管の中で、無数の人間のような影が眠っていた。機械の管に繋がれ、静かに体液が循環している。ユナの視線は一点に釘付けになる。
「……これが、富裕層のやり方……」彼女の声は震え、目に怒りが宿る。
カイも息を呑む。培養槽の影には、電脳世界に直接繋がる端子が見える。貧民たちは肉体を奪われ、電脳世界で労働を強いられ、富裕層は生身の身体で自由に遊ぶ。
「……俺たちの世界……これが真実か」カイの声に、怒りと決意が滲む。
突然、無表情のヴェイルが現れる。
「君たちは、真実を見た。だが、これを変えられる者は少ない」
ユナが反応する。「……私、どうすれば……」
ヴェイルの声は冷たく、しかし含みがある。「君たちは選択する。従うのか、壊すのか、それとも利用するのか——力は君たちの手の中にある」
カイはユナの手を握り、肩越しに微笑む。「俺たちは……守る。俺たちの世界を、そして君を」
ユナは小さく頷く。心拍が高まり、脳波が呼応する。覚醒した能力が再び脈打ち、戦闘・解析・防御の全てを直感的に統合する。
施設内部でさらに探索を進めると、電脳世界の中枢システムへのアクセス端末を発見する。ユナは端末を操作し、過去にヴェイルが示唆していたデータの断片に触れる。富裕層の計画、培養槽の目的、デュアルマインドの真の狙い——すべてが徐々に見えてくる。
「……私、わかってきた……」ユナは小さく息を吐き、脳内の情報を整理する。「これを……止めるために……」
カイも力強く頷く。「そうだ。俺たちならできる。二人なら」
廃墟の中に静かに漂う電子音。瓦礫に反響する足音。未来を変える決意と覚悟が、二人の脳波に確実に刻まれた。
地下層の仲間たちも、地上の秘密を共有しながら、次の行動を静かに待っている。
ユナの覚醒、カイとの呼応、そして富裕層の陰謀——すべての真実が明らかになりつつあり、物語は次の段階へと動き出す。




