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幽霊少女エリーゼ  作者: スズシロ


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第六話

 そうだね。中学生にネットはまだ速いのかもしれない。

 こういうことがあると、余計にそう思うよね。


 そこからが悪夢だった。私は、姉と同じ私立の進学校を受験する予定だったが、とてもそれどころじゃなくて、まとめサイトや匿名掲示板の炎上を、日々追いかけるようになった。

 学校のコマとコマの間の僅かな時間も、スマホを握りしめて炎上のネタを追いかけた。


 ネタ。

 匿名掲示板やまとめサイトで話題になっている事は、ほぼ全部が”ネタ”だった。本当の事なんか、1%も入ってなかった。99%は嘘だった。それでも、多くの人々は、その”ネタ”に大喜びで食いついていった。ちょっとした事から誰かが思いついたり連想したりしたことを、想像で補って、面白おかしく悪口言える形にしてしまうことを、”ネタ”と言うのだと、私は初めて知った。


 大勢の大人達が狂喜乱舞して、父や母をくそみその嘘で叩くのを、私は中学校の校舎の片隅で震えながら見ていた。どうすることもできないのかと、泣いた事も何回もある。

 大勢の大人がこんなくだらない嘘にあっさり騙されて……と思うような話題のほとんどは、何故か性的な話題で、私はそのことに、ものを言う事はできなかった。


 何故、友原製薬は炎上したのか。

 それでも、経緯は、友原製薬のアンチではあるけれど(それでも本人は中立で公正な立場だと言っている。個人サイトなのに)、まとめサイトで知った。

 発端は、友原製薬の販売しているダイエットサプリだった。

 そのダイエットサプリはよくある、食事制限や運動と組み合わせると、効果を発揮するというタイプのもので、ただ飲んでいれば痩せるということはない。そのことは箱にも説明書にも丁寧な文章で書いてある。

 だが、それを誤読した客の一人が、「飲んでいても痩せない!」とカスタマーセンターに食いついた。

 友原製薬は効果が出なかったと聞いたので、マニュアルに従って丁寧にお詫びをした上でクーリングオフを受け付けた。

 だが、客はそれでおさまらなかった。

「誠意が足りない!」と電話口で喚き、録音したといって無断で公開し、さらに匿名掲示板で客を集めて、友原製薬の不買運動を始めた……という流れ。

「見えない何かと戦っている」と日頃から評判の掲示板を狙ってうまく人を誘導して、まとめサイトや検証サイトを乱立させ、友原製薬の商品を買わないように人々を煽っていた。

 友原製薬は小児用の薬もいくつか販売しているため、「子どもにも分かるように」と「絵本のようにかみ砕いた」まとめサイトもたくさんあった。

 そこでは何か父や母が、子供用のイラストで、悪者のオオカミにかかれていた。オオカミは大勢の人達に嫌われ、諫められ、コテンパンにされ、そして結末は必ず、「嘘つきオオカミはいなくなってしまいました」というような流れにされて、皆がニッコリ笑ってハッピーエンド。


 そのまとめサイトのおかげで、私は両親に何があったのか知る事ができたのだった。

 そして、そのことをなかなか両親には言えなかった。ネット上で、いやらしい性的な事をたくさん言われていたから。そんなこと、中学生の私が、見たとか聞いたとか、親に言える訳がない。それで、私は悔しくて、泣いたのだった。家ではなく学校で。

 勿論、親でさえがこうだもの。20代の兄や姉はもっととんでもない言いがかりをつけられていた。

 

 特に、お姉ちゃん。お父さんとお母さんの自慢の種で、将来、薬の研究者になるはずのお姉ちゃんは、妹の私から見ても、美人で面倒見が良くて、素敵な人だった。

 頭が良くて、私のわからない宿題を根気よくつきあって教えてくれた人だった。

 そのお姉ちゃんを、「あいつは本当は馬鹿だ」と”匿名掲示板”で”クラスメイトと名乗る人”が書き込んでいた。

 薬学部なんて言って、基本的な化学式も一つもとけないとか、英語のスペルが間違っているとかそういうことをあげつらい、それでも成績がいいのは

……教授と寝てるからだとか。……入学できたのも大学教授と不倫していて、縁故で入学できたんだとか。そういうことを、まことしやかに、”クラスメイトと名乗る人”が書いていた。

 勿論、私は知っている。今でも、忙しい母の代わりに、私にお弁当や夕飯を作りながら、姉が真面目に、部屋で勉強していること。

 姉が薬科大学に入学した時、私は小学校だったけど、夜中に起きると姉の部屋にはいつも灯りがついていて、姉がコーヒーを飲みながら頑張って勉強していたこと。私に気がつくと姉は眼鏡をかけなおしながら、笑って、「おなかすいたの? ……何か夜食つくろっか?」


 そんな人が、なんで、大学教授をたぶらかしてカンニングや裏口入学をするわけがある?


 悔しくても、どうしようもない。ネットの上で、そこでは、私の話を書く場所もなければ話を聞いてくれる人もいない。

 ただでさえ、まとめサイトとか炎上には、狂ったマイナスの熱がある。私はそれに当てられて、夜も眠れず、ご飯も食べられなかった。勉強なんてしているどころじゃなかったのだ。


 勿論、そのことに、真っ先に気がついた人がいる。

 姉だ。

 私の姉は、私が前のように「おなかすいた」と騒がなくなった事にすぐ気がついた。それで、私に笑って聞いてきた。

「どうしたの、のゆり。……ダイエットでもしてるの?」


 ダイエット。

 ダイエットサプリ一つで、私の住んでいた世界は壊れた。


 姉が、友原製薬炎上の騒ぎを知らない訳がない。姉は、どんな気持ちで私に、そんなことを言ったのだろう。そしらぬ顔で。笑いながら。妹は何も知らないと思って。

 ……自分たちが私には何も知らせず、完璧な幸せを作っていると思って……。


「お姉ちゃん」

 私はそのとき、恐かった。だけど、ちょっとだけ、凶暴なぐらいな感情がこみあがってきて、口が滑るのを止められなかった。

「うちの会社、大丈夫なの?」

「え……?」

「見ちゃった」


 見ちゃった。


 私はそう言っちゃった。姉には全部、それで通じたらしい。そのあと、私と姉は、姉妹始まって以来というぐらいの口論をした。姉は、通じたはずなのに、認めなかった。友原製薬はなんでもない。炎上なんて聞いた事がない。

 私がスマホでスレッドをめくって突きつけるまで、姉はしらっとぼけて、炎上なんて嘘だと私に言い聞かせようとした。


「私、いつまでも子どもじゃないんだよ!! 本当の事を教えてよ!!」


 私はスマホで一番大きなまとめサイトと連携している、匿名掲示板のスレッドを検索して、姉に突きつけて怒鳴ったのだった。


 姉は顔面蒼白になった。

 何も言わなかった。何も言えないような衝撃を、成人している姉に与えたのだと、私は暫く気がつかなかった。私にとって、姉は常に大人の存在だったから。

 姉はうつろに視線をさまよわせ、びっくりするほど頼りない仕草と足取りで、私の部屋から出て行った。そして隣の自分の部屋に入っていった。ぱたん、とドアが閉まる音がした。

 私はそのときは、何が起こったのかわからなかった。


 姉は、部屋から出られなくなった。


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