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幽霊少女エリーゼ  作者: スズシロ
少女の前世

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第五話

 今、思い返せば、それはどれだけ贅沢な悩みだったことだろうか。

 どんなに泣きついても、成績が良くても悪くても、中学生がMMOはダメ! と両親が言う。そんなことよりも、陸上部で体力作りをするとか、リアルの友達を増やすとか、楽しい事がいっぱいあるでしょう。両親はそう言ってくれた。

 中学からネットゲーム浸けになるよりも、若いうちに体力をつけて健康を手に入れた方がいい。

 そう言ってくれる親や、休日に起きだして遊んでくれる兄や、親身になって家事や勉強を教えてくれる姉や、週に一回は一緒に食事するルールや、そういうものを、私はまるっきり当然のこととして受け入れていたのだ。

 私にとってはそれが普通で、当たり前のことで、なくなるなんて考えたことはなかった。当時はね。


 ちなみに私は、小学校の時から走るのは得意な方だったので、中学に上がると同時に陸上部に入った。だが、困った事に陸上部は弱小で、部活を維持するぎりぎりの五人しかいなかった。それで私も大会の時以外はサボりがちで、むしろ、陸上部に行って友達とだべって帰りにどこかファーストフード店にでも入ってまただべって……の流れの方を覚えている。

 お店で、他愛ない話をしながら、シェイクを飲んだり、スイーツ食べたり。

 しかし、部活でダラダラしている事を、顧問の先生に一度本気でカツをいれられて怒られた事がある。それでいいのか? みたいな怒られ方。

 何のために陸上部に入ったのか、と言われたら、走るのが好きだからだった。

 強制だからとかじゃなくて、自分で好きだから入った部活だった。その事を思い出し、しばらく本気で部活に打ち込んだ。走るのが好きな友達と。

 そうしたら、私は、都大会で800mのランキング四位に入る事ができた。

 そのときも、両親は大はしゃぎをして私にお祝いをしてくれた。兄も姉も、”のゆりはやればできる子”と頭を撫でてくれた。褒められて、とても嬉しかった。

 両親は私だけではなく、兄と姉、特に姉の事を褒め称えた。お前がしっかりしているから、この家は回っているんだとまで言っていた。


 その頃が、我が家の幸せの絶頂だったのかもしれない。

 兄と姉はどう思っていたかは、分からない。

 私が中三のインハイで、都大会の四位に入って。

 その後、私は、「なんとなく」姉と同じ進学校に進むんだと思っていたが、成績が足りるかどうか不安だった。

 そこでようやく、私は自分の周りを見回しながら進路の事を考え始めた。インハイが終わるまでは、部活の事と、友達と遊ぶ事に夢中だったのだ。成績は、中ぐらいよりちょっと上だった。

  

それと同じぐらい楽しんでいたのが、”ないとなう!”だったりする。


”ないとなう!”とは何か--というと、また複雑な話をするんだけど、それは”コンビニで買える同人誌”。

 つまり、ないとなう! は 有名MMO”Ultimate Fantasy”の二次創作なのだ。


 その超大手で”ネ申”とかネットで表現されるレベルの同人。作家の名前は”zennzai”。


zennzaiはないとなう! というタイトルで何十冊も同人誌を出しており、その収入は馬鹿にできるものではなく、ネット上で発表するものも多数あったため、良くも悪くも大勢の信者(ファンのこと?)を抱えている。

 UFのヘビーユーザーと言って差し支えのない兄は、当然zennzaiの事もチェックしていて、かなり初期からのファンだった。そして、私がUFのシナリオを知りたいのに、中学生がMMOはダメと親に拒否された時、兄は”ないとなう!”の同人誌をまとめて貸してくれたのだ。


 そこには、ミッションという一本筋の通ったシナリオを、ユーザーがクリアしていく様子が丁寧に描かれていたからだ。しかも、その主人公の”アスラン”は、有名ユーザーをモデルにしているという専らの噂である。

 それって、著作権的にも肖像権的にもいいの? と言う話だが、今のところ、法令には触れていないそうだ。


 ないとなう! はそういうストーリー漫画で、健全な方にも入るので、そのとき兄は私と一緒に遊びたいから、同人誌でミッションを覚えさせようとしたのだろう。ところが、そこに数冊、zennzaiの書いているR18本も紛れていて、私はびっくりしてしまった。

 何かと言うと、……BL本も混ざっていたのだ。私は、ゲーマーの兄を経由して、生まれて初めてBLの大人向け本を知った。

 そのことで、兄に、色々質問したら怒られた。かなり本気で怒られた……。


 二次創作にはそういう、とんでもない世界もあるからお前にはまだ速い、どうしても欲しい本があるなら俺が買ってやるから俺に言いなさい、とかなりガチで言い含められたけど、実の兄にBL本買ってなんて言える訳ないじゃない。

 お兄ちゃん、それセクハラだよ……。


 ま、それはおいといて。

 私は一頃まで、そういうネットの濃い世界と、陸上部の部活と、中学の友達の人間関係を満喫して、「現代日本の普通の中学生」をやっていた。

 それがある日突然、と言っていい勢いで崩れ去る事など、想像した事もなかった。


 一頃から、クラスメイトが妙に私を避けるようになった。

 一緒に陸上部を頑張っていた、”みいちゃん”でさえが、私が話しかけても近付いても、そっぽを向いて逃げるようになった。

 私は思い当たる事を探したが、自分ではわからなかった。

 それで、”みいちゃん”に、隙を見て二人になって、そのタイミングでお願いだから私の悪いところを教えて欲しい、と言った。


「私、みいちゃんのこと怒らせるような事したんだよね? でも、自分じゃ何が悪かったかわからないの。教えて。悪い事したのなら、なおすから」

「……」

 みいちゃんは、辛そうな顔をして俯いていたが、やがて私の方をはっきりと見て、言ってくれた。


「のゆりちゃん。友原製薬の薬買ったら、病気になるって、みんな言ってるよ」


「……え?」


 そういうことだったのだ。みいちゃんはそれだけ言うと、私に背中を向けて走り去っていった。

 何が悪いと言ったって、私が悪い訳でもなかった。だが、みんなが、友原製薬と関わりたくないというような、そういう事件が、起きていたのだ。

 私は部活と受験でどん詰まりまで気づかなかった。

 それは、まだ義務教育の娘に、知らせてはいけないという、家族の配慮だった。まして、私は受験生だったからというのもあると思う。


 そのあと私は、親が買ってくれたスマートホンで、検索をかけてみた。

 友原製薬と検索をかけると、続いて「炎上」と出てきた。

「炎上」「まとめ」と続くこともあった。

 何がなんだか、最初はわからなかった。そこでは、様々な情報があふれていた。誤情報も多かった。というよりも、誤情報が全部と言っていいぐらいだった。


 両親が、世界的に大手のsnsを一頃までやっていたことも、まずかったらしい。忽ち火の手が回り込んで、sns上でとんでもない言いがかりを受けている場面もあった。


 訳がわからない。

「あなたがたK国でしょ! 日本から出て行け!」

 なんて、母が言われているところを、私は見てしまった……。


 父ももっともっと言われていた。賄賂とかブラックとか、そういう言われ方もしていたが、性的にグロい事を、滅茶苦茶言われていた。それで足を引っ張ろうとしているんだということは、中学の私にも分かった。


 私は、自分の足下がどれだけ脆いかそのとき初めて思い知った。

 炎上がいつから始まっていたのか……と調べたら、まとめサイトができた頃に、両親は私のためにお祝いをしてくれていたのだ。都大会でたかだか四位、優勝を飾った訳でもない私のために。

 そのことも、まとめサイトで話題になっていた。両親と一緒に、私も実名を出されて、袋叩きにされていた。

 何もかもが、本当のことじゃないことで。



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