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幽霊少女エリーゼ  作者: スズシロ
子どもギャング団らしく

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第十四話 クラウスの説教

 ところでクラウスには、妻のディアナに産ませた、エリーゼ以外の子どもがいなかった。

 彼は、真面目なだけの騎士という訳でもなかったが、子どもについてそれほど詳しい訳ではなく、これだけ大勢の子どもたちに、ルールを分からせるように叱るという方法について、躊躇があった。


(死ぬほど、叱るとは言ったが、まさか本当に死なせる訳にもいかん……)

 叱って叱って、子どもを怯えさせるだけで、親の、大人の仕事が勤まるならそんな簡単な事はないだろう。

 単純に、怒鳴りつけて、子どもを追い払って、親たちに庭の修理の経費を弁償させるという事も出来たのだが、クラウスはそうしたくはなかった。なぜなら……。


 気まずそうに父親の自分から目をそらし、エマと目配せしあっているエリーゼ。

 ゴシックドレスをビリビリに破いて、村の子どもたちと一緒に泥と埃にまみれているお嬢様姿の我が娘。彼女が原因であった。


 自分の動き次第で、エリーゼは、やっと打ち解けた同年代の子どもたちと、疎遠になるかもしれないのだ。それは、避けたい。エリーゼには、外で遊ぶ元気のいい友達が何人でもいた方がいいと、今までの反動でクラウスは感じていた。

 それにしても、大した物だ。今まで、父親の自分が怒ったり叱ったりすると、エリーゼは縮み上がってびくびくするだけで、すぐ謝ったのだが、既にふてぶてしさを習得し、エマやミラと小声で何か言い合いながら、こっちをちらちら見るという、ギャングエイジの娘らしさを体得したらしい。

 それを悪影響といえばそうだが、年相応の少女としては健全な発育とも言えるような気がする……他の家の子の事はよく知らんから、わからんが。自分の少年時代を振り返れば、そうだったなあと思うような事もある。


(寂しいっちゃ寂しいが、いつまでもお父ちゃん子でいられても困る。そのまま反抗期、成長期まっしぐらで健康に成長しろよ、エリーゼよ。だが勿論、俺は巌のような絶壁の父となってお前の進路は妨害するし、見えない拳で淑女教育は完遂するがな。泣こうが喚こうがお前は俺の娘だ、社会に出て恥をかかないだけの教育を与えるのが俺と嫁の役割だ。とりあえず、パパンの陰口言ってるんだろうが、許してやらんから覚悟しろ、ハハハ)

 そんなノリになってくる。

 厳格な騎士の顔をしながら、子どもと居て、結構楽しめるタイプなのだ、クラウスは。


「整列しろといったのだ。整列した後は私語は禁じる。黙って、質問にだけ答えろ」

 これでも地方領主の顔をして、クラウスはそういった。押しも押されぬ威厳が滲み出て、アッシュでさえが姿勢を正した。

 子どもたちは横一列に並んで、黙り込んだ。女子たちは建前上といわんばかりにしょんぼりしてみせたが、威勢のいいクルトやヴァルターは、傲然と顎を引いてアッシュと一緒にクラウスを睨みあげている。


「魔法を使ったのは誰だ」

 誰も返事をしなかった。

 そこで誰かをちくるような団結力ではなかったし、しらばっくれられるならバックレきろうという知恵のある年齢であった。

「誰だと聞いている」

「……」

「……つまり、全員使ったということか?」

 必然的に、クラウスはそういう結論に達した。魔法を使わなかったのは……実のところ。

 アッシュとルーカス、それにヴァルターだけである。

 他は、全員、エリーゼが「魔法使っちゃダメ」といっているのに、使い放題使って、ケイドロして、庭で暴れ回ったのだ。

 そう。アッシュは魔法を使っていなかった。使おうとすれば使えたのだが、たまたま、使う機会がなかったのである。使わなくてもケイドロで勝てたから使わなかっただけだ。


「それなら全員に罰を与えなければならないな。お前たちは本当に……」

「ま、待って、お父様……」

 そこで、弱々しい声でエリーゼが言った。

 子ども社会でさえが社会経験の薄いエリーゼは、こういう場合の発言の仕方からして分かっていなかった。全然。


「お、お嬢様!?」

 エマとミラが目を白黒させている。

「お父様、全員が魔法を使った訳ではありません……使ったのは、私と……」

 そのまま正直に、権力者である父親にありのままを話そうとするエリーゼだったが、当然、周りは慌てふためく。

 エマはなんでそんなことをエリーゼが言い出すのか分からなかったし、ミラは何が起こったのかよくわからなかった。この場で、リーダーのアッシュの意志を感じず、空気を読まない行動をする意味が分からない。


 だが、エリーゼにしてみれば、魔法を使った者と使わなかった者が同じ罰を受けるという意味の方が分からない。

 実際、自分も使ったのだから、罰を受けるのは仕方ないが……。


「エリーゼ。お前、俺に背いて魔法を使ったのか?」

 やや驚いたように……それはどうやら予測していなかったらしく……クラウスは、そう確認を取った。

「はい。魔法を使いました」

「バカかお前は」

 クラウスは思わずぽろっと本音を言ってしまった。

 エリーゼは、命令に背いた事を怒られたのだと思い、首を竦めた。男親に怒られるのは、いつだって恐い物だ。


 アッシュとクルトは冷や汗をかきながら、隣同士で目配せをしあった。

 ここは、大将であるアッシュとその参謀であるクルトがクラウスの事をうまく担いで操縦し、見事罰を与えられないように切り抜けるか、もしくは罰を与えられるにしてもそうとう「ウマミ」のある罰を取り付けるか、どっちかを目指すものなのである。

 それで、アッシュとクルトの様子を見ながら子どもたちは全員、黙っていたところで、エリーゼがとんでもない、「魔法を使った」発言をしちゃったものだから……アッシュとクルト以外の周りは凍り付いてしまった。

 かつてはガキ大将だったクラウスも、そのことは容易に予測がついたため、内心、娘ではなくアッシュたちに同情した。

(これだから……引きこもりにさせておくわけにはいかねえんだよ)

 クラウスは眉間に皺を寄せて考え込んだ。そうである。クラウスもかつては、貴族のボンボンというよりも、大雪原の山野を駆け巡って、悪戯といわれそうな悪戯は一通りやりつくしたガキ大将であった。それにより体力作りとコネ作りを成功させ、その実力を持ってデレリンの領主となったのであった。だから子ども相手でも裏読みは出来る方である。

(まずい……どうやったらうちの子は、元気な若造たちの仲間に入れるだろうか?)

 エリーゼのこの浮きっぷり、なかなか手強そうだ。


「お父様、……私反省してますし、皆も反省してます。だから酷い罰を与えないでください。そして、魔法を使ってないひとは……」

「魔法を使った!」

 ところがそこで大声をあげたのが、アッシュであった。

 アッシュは今回、魔法を使っていない。それなのに、そう言い切った。


「……」

 やっぱりか、とクラウスはにやりと笑う。当然、クラウスの立場からしてみれば、アッシュが率先して魔法使い放題で皆で楽しく暴れ回ったのだと思うのである。

 だって、自分がガキの時、そうやったから。


「俺は魔法を使うなといったはずだ。何故、使った?」

「怪我したからだ」

 アッシュはスラスラとそう言った。


「ケイドロをしていたら、怪我人が出たので、回復の魔法を使った! 自分でやった怪我は、自分でなおしたんだ!」

 胸を張って堂々と、トレパラや、炸裂弾や、風の攻撃魔法の事などなかったことのように言うアッシュであった。


 確かに回復魔法は使われている。エマだけが使っている。しかも自分の兄貴にだけ使っているのだ。


「……ほう?」

 クラウスは、そうとだけ言って、無言で、木々の折れた枝を指さした。次に、倒れて花がむしられた花壇を指さした。穴ぼこだらけの地面を指さした。

 地面のひっかき傷を指さした。


「どうする気だ?」

 そんな見え見えの嘘ついて……そこまでは言わないでやる、クラウスは優しいのか、厳しいのか。


「俺たちのケイドロは肉弾戦なんで、いつものことだ。そのたび、回復魔法を使ってなおしてる」

「自分でやった分は、自分でなおす、なるほどそれは騎士の精神として正しい」

 クラウスは大きく深呼吸をした後、そう受け止めた。


「それなら、自分たちで、庭の怪我もなおしなさい」

「へっ?」


 クラウスは、地面に向かって手をかざし、簡単な土系の呪文を唱えた。風精人(ウィンディ)は土魔法にはなじみが薄い。その魔法を初めて見聞きする子どもが全員だった。

 抉られていた地面が、みるみるうちに盛り上がって平坦になり、舗装された道路のように整備されてしまった。芝生も元通りである。


「まずはこれだ、面白いだろう? 庭の片付けをするんなら、この魔法を教えてやろう。花壇の花の回復の仕方や、木の枝の回復も教えてやる。面倒くさいが、これが結構楽しいんだ。庭の片付けを自分からやると言った奴にだけ、教えてやるが、どうする?」


 地方領主として威厳と能力に常に問われているクラウスは、雑学の塊で、風精人(ウィンディ)の得意とする風魔法は勿論、基本的な他の系統の精霊魔法は一通りおさえていた。教える事も、季節ごとの軍事訓練に比べればまだ簡単な方だろう。

 にやりと笑って、大人の底知れなさを感じさせるクラウスに、アッシュは背中に寒気を感じたが、正直、魅力を感じていた。

 風魔法の反対の土魔法、使えるようになったら、近所の子どもグループをあっと言わせて、マウントを取れる事は間違いない。

 だが、大人が、この状況で、そんな面白い事をタダで教えてくれるだろうか?


「何が目的だよ、オッサン」

 アッシュはすっと目を細めてそう言った。

「片付けろ!!」

 くわっと目を見開いて、クラウスはそう怒鳴りつけた。子どもたちは全員、震え上がった。


「自分の怪我を自分でなおせるなら、自分が壊したり散らかしたりしたものは全部自分で片付けろ! それが出来て、一人前だ。一人前の男として認められたかったらやりなさい!!」


 相変わらず、正論で詰めてくる親父であった。クラウスは四の五のと謝罪をしろとかくどい説教ブチ食らわせるような事はしなかった。それよりも、庭を元通り綺麗に片付けさせる事に意義を感じているようだった。


 正直、怒鳴られて謝らせられて罰を与えられるというのは代わらない--ようだが、貴族の土系魔法を教えて貰える上に、修理や修復は面白そうではあった。同じ怒られるにしても、これは結構実入りがある。


「やりまーす」

 計算高いクルトは、棒読みで真っ先にそう言って、ヴァルターとミラの兄妹を振り返った。二人は首を縮めたまま、頷いている。


「わかった、やるよ、オッサン。……あんたんとこのエリーゼも、一緒にやるのか?」

 アッシュはまだ疑いの眼差しでそう尋ねた。

「当然だ」

 やや勢い込んで、クラウスはそう言い切った。

「娘だからと言って甘やかす気はない。エリーゼも、みんなと同じ条件で片付けだ」

「それなら、いい」

 アッシュはそこで、娘を差別的に持ち上げるような親ではない事に安心して微笑んだ。

 その方が反発心がわかず、エリーゼを仲間に入れやすい。

 そういうわけで、全員、クラウスから土系魔法を教わり、庭の片付けをさせられるハメになった。


 笑っていられるのもそのうちだった。

「な、なんでこんなに負荷がかかるんだ!」

 魔法ときいて、真っ先に、クラウスの講義に飛びついたヨナスが悲鳴をあげたのが、15分後の事だった。

 風魔法と土魔法では体系が違うためか、それとも相性の問題か--風精人(ウィンディ)が土系魔法を使おうとすると、異常に体に負荷がかかり、MPの消費が激しすぎるのである。MPの消費が一定量いくと、HPが減り始める。減ったHPは、休憩を取って回復することは出来るが、それには当然時間がかかる。

 魔法が得意のヨナスでさえが悲鳴を上げる結果となった。

 勿論、そんなものは無視するクラウス。何故、土系魔法が、風精人(ウィンディ)の間でマイナーなのかという理由を講義しながら、クラウスは、子どもたちに魔法で片付けをさせ続ける。


「ほら! やるといったからには、やれ!」

 疲れてよろめくアッシュの頭をどつくクラウス。

「オッサン!! わざとだろ!!」

 悲鳴のように叫ぶアッシュ。


 既に体の小さい八歳の女の子であるエマとミラはぜいぜいと息を切らして、汗びっしょりになっていた。それでも、土をきちんと整えようとするだけ偉いのかもしれない。魔法自体は、面白いので、ついやってしまうのである。

「大人の話には裏がある……そう思っていたんだろう? だが、その通り! 庭を破壊してそのまま言い抜けようとするクソガキを誰が見逃すか!  これから”片付け”をさせられたくなかったら、二度と、ひとんちの庭を破壊するような魔法や乱暴はするな!!」

 へろへろくたくたになっている子どもギャング団達に、クラウスはそう宣言した。


「そのかわり! 庭を壊さないなら、お前たちはいつでも、ここに入ってきて、元気に遊びなさい。ケイドロでもドロケイでもどんな遊びもしてもよい! 間違って何かを壊したら、自分でなおすこと!!」

 ……そういう取り決めとなったのであった。


 大人って、ズルイ……!!


 子どもギャング団達はつくづくそう思ったが、土系魔法は覚えられたし、庭の片付けの基本も覚えたし、何より精霊祭には全員参加出来そうだったため、その日はその日でいい一日なのだった。

 何しろ、エリーゼにも、子どもギャング団たちにも、「友達が、増えた」。

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