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幽霊少女エリーゼ  作者: スズシロ
子どもギャング団らしく

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第11話

 クラウスは子ども達のはしゃいでいる様子を見て鷹揚に微笑んだ。


 エリーゼの事は隠しておきたかったのだが、部屋の中に入られては仕方がない。それに、エリーゼが晴れ晴れと笑っている所を見るのは数年ぶりだった。


 クラウスは、娘が元気そうに笑っているのを見て、険しかった形相を和らげた。




(ひょっとして、うまくいくかもしれない……)




 何が、といったら、娘の健康状態である。


 エリーゼは麻疹をこじらせた時から、デレリンの貴族学院にも通わず、友達の一人もいなかった。元々、仲の良い女子もそんなにいなかったらしい。


 それが、今、偶発事故とはいえ、やや年下のミラやエマと親しげに笑って話しているのを見て、クラウスは父親らしい期待を抱いた。




「エリーゼ、部屋の中は窮屈だろう。友達を庭に案内してやりなさい」


「お父様?」


「走り回ったりしてもいいが、魔法を勝手に使ったり、危険な事はしてはならない」


 クラウスはそのようにエリーゼに言い含めた。


「……せっかく来たんだ。遊んでいきなさい。ただし、魔法を使わないように」


 それからクラウスはアッシュを振り返って、彼等に向かってそう言った。




「やった、ラッキー!」


 アッシュだけではなく、ヴァルター達は大声ではしゃいだ。


 館中、幽霊娘を探して探検している間に、庭の見事さには気がついていたのである。


 ハルデンブルグ伯爵家は、帝国ではド田舎と言われている大雪原の田舎の片隅、地方領主でしかあり得ないが、それでも、伯爵は伯爵で、整備された広大な庭を持っていた。




 言うなれば、ほどよく手入れされた、広さ2~3個分のサッカーのフィールドのような庭の四方に、大きな樫の木や見事なアカマツや楓、楢の木を綺麗に見栄え良く植えていた。それが真夏の日射しに涼やかな木陰を作っており、木々の間には季節ごとの薔薇の花壇が据えられていた。




 その、凸凹はないが隠れる場所は十分にある見事な庭で、缶蹴りやケイドロをしてみたら楽しそうだと、男子達は全員考えていたのである。


 無論、その元気な男子達が花壇の花を引っこ抜いたり蹴倒したり木々を傷つけたり整備された芝生をボコボコにしたりしないはずがないのだが、引きこもりのお嬢様であるエリーゼにそんなことはわからない。




 父親に言いつけられたエリーゼは淑やかに頷き、教えられた貴婦人の礼を、アッシュやエマ達にとると、しずしずとドアの方に進み出た。




「庭はこちらになります、皆様、いらっしゃって?」


 エリーゼはアッシュには、勿論、強い興味を持っていたが、いきなり木の剣で殴られたので少し恐かった。それよりも、自分より少し小柄な同性のエマとミラとは親しくしたいという気持ちを持っていた。貴族学院の小学部二年の半ばから、不登校であるためであろう。彼女としては、エマ達と手遊び歌をしたり、あやとりをしたり、木陰でのんきにそういう遊びを出来るものと何故か思い込んでしまったのである。




 ヴィスター村の子どもギャング団達は、わっと歓声をあげながら、黒いひらひらのゴシックドレスを着たエリーゼの後をついていった。


 ちなみに母親のディアナはたまたま、デレリンにもどってそこで、貴婦人達のお茶会に出ていたため、エリーゼが洗礼を浴びる事を止める者は誰もいなかった。




 クラウスは、そもそも、村の少年少女達とエリーゼは着ているモノからして違うし、想定される遊びもまるで違うのだという事に、地方領主らしく全く気がつかなかったのである。ディアナがいたのなら、せめて、「着替えさせる」事ぐらいは思いついただろうが……。




 結果はすぐ出る事になる。


 結論から言うと


・ドレスビリビリ


・負傷兵、男女関わらず多数


・アッシュはやっぱり謝らなかった!




 ということになるだろう。


 途中経過を書いて行くと大体こうなる。





 とにかくだだっ広い、綺麗な、季節の草木が生い茂っている庭に出て、子ども達は興奮した。


 この庭を自由自在に走り回って、ひとしきり遊べると思ったのだ。




 早速、アッシュはケイドロをやろうと言ったが、そこで真っ先にエマが反対した。


 エマは、お嬢様が、真夏に真っ黒な装飾の多いゴシックドレスで出てきた事で、遊びをやるなら大人しいものにするべきと思っていたのだ。


 そこで、血気盛んな男子達が、爆発テロを起こす勢いでケイドロをやると言ったものだから嫌な予感しかしなかった。




 エマは元々、男子相手にも平気で口げんかをふっかけて勝てるタイプではあるのだが、この場でアッシュは、「多数決」という卑怯なる正義を使ってケイドロで押し切った。




 エリーゼは何の事か分からなくてぽかんとしたいのだが、子どもギャング団達は、


 エマ提案の「かごめかごめ」(アストライアにも似たようなゲームはある)にするか


 アッシュ提案の「ケイドロ」(同上)にするか、挙手で投票する事になったのである。


 結果は、アッシュの「ケイドロ」に男子8人が挙手して一発でケイドロに決まった。


 エマとミラは、エリーゼの格好を見た時点で、これでケイドロは無理だと思って、かごめかごめにしたかったのだが、多数決の正義にはかなわない。




 エリーゼの方はというと--ケイドロについては--したことがなかった。


 そもそも、「ケイドロって何」状態である。令和日本からの転生者である彼女は、外でケイドロをした経験がなかった。勿論、ルールすら知らない。親の話を聞いていて、昔そういう名前の遊びがあったことぐらいは知識で知っていた。




「ケイドロ??」


「あ、お嬢様、ケイドロって言うのはね……」


 エマが、かごめかごめにしようとして失敗した事を内心すまなく思いながら、ケイドロの説明をしようとした途端に、アッシュがいきなり班分けを実行。




「え??」


「1,2,3,4,5,----!」


 さっさと大声で10数え始めるルーカス。走り出すアッシュ。何がなんだかわからないエマ。


 素敵な庭に興奮状態の男子達は、エマとミラをほっといて、勝手に班分けしてゲームを開始し始めたのだった。




「何しているエマ! 早く逃げろ!!」


 ぽかんとしているエマに兄のヴィルヘルムが駆け寄ってきて、一緒に走るように指示を出した。




「待って、お嬢様、ルールわかってないよ?」


 ミラがエマと一緒になってブーイングをあげるが、そこにヴァルターが突っ込んで来て、怒鳴り散らす。


 ヴァルターはミラの兄なのだが。




「俺たち泥棒チームなんだから、モタモタしていると捕まるぞ!!」


「エーッツ!?」




 みんな、貴族の綺麗な庭で遊べる事に夢中になっていた。興奮状態で、お嬢様のエリーゼがケイドロを「知らない」という事実が理解できなかったのだ。


 アッシュが行った班分けはこうである。


 警察チーム→アッシュ ルーカス パウル ヨナス フランツ


 泥棒チーム→クルト エマ ミラ エリーゼ ヴァルター ヴィルヘルム


 本人的には女子が女子で固まっているので、分けたらブーイングを受けそうと思ったのだろう。それで、仲の良い兄貴をくっつければいいと思ったのだろう。女子ばかりだとハンデになるので、自分の片腕で親友のクルトを置けばいいと思ったのだろう……。


 そうすれば向こうが一人多いし、バランスが取れていると思ったのである。




 エリーゼが、超鈍くさくて、ひらひらドレスで、ケイドロを知らないという件については深く考えてもいなかった。




 突っ込みどころ既に満載通り越して満開である。それでも彼は彼で配慮したのである。




「お嬢様! 牢屋に突っ込まれたら何されるか分からないよ! 逃げて!!」


「逃げてって……何?」


 エリーゼは事態が飲み込めずに可愛らしく小首を傾げている。頭のヘッドドレスのリボンがひらひら揺れている。




「逃げてー、お嬢様、超逃げて-!!」


 と叫びながら、ミラは早くも、兄のヴァルターと明後日の方向に走り出している。


 牢屋に入ったら犯人扱いでどんな拷問レベルの悪戯されるか分からないからだ。




「早く逃げろよ!」


 そういう訳で、アッシュの恐怖の拷問から逃げたいヴィルヘルムは妹を華麗に見捨てて自分も楢の木々の方に走り出した。




「お、お嬢様、私についてきて! ルール教えるから!!」


 やむを得ない事態でそういうことになってしまうエマ。元々、気が強い分、面倒見がいいもんだから、エリーゼを連れて物凄い速さで走り出した。正しく、農村の子どもの山猫レベルの俊敏な動きである。




(あ……しまった、お嬢様……ついてこられるかな……?)


 凄い勢いで花壇を跳び越え、隠れる木を探しながら、エマはそっと後ろを振り返った。




 なんと。


 エリーゼは、ついてきていた。ドレスの裾にこけそうになりつつも、ちゃんと、エマの後をついてきていた。


「嘘ッ!」


 逆に驚くエマ。凄くレースやフリルやリボンが邪魔そうではあったが、息切れしつつも追いついてくる。




 腐っても、死んでも、転生しても、インハイで都大会四位の走りは健在であった。


 走るだけは出来たのだ。それは全く僥倖としか言いようがない。


 努力は人を裏切らないとはこのことである。


(あ、もしかして大丈夫……?)


 そのため、エマはそこで楽観的な勘違いをする。貴族のお姫様といったって、同じ人間だ。自分たちと同じペースで同じえげつない子どもの遊びやったって、結構、平気で笑ってられるかもしれない。それなら、最小限の事だけ教えて、自分で自分の身は守って貰おうかな--などと。

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