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プロローグ

「……そして、数々の困難を乗り越えた勇者は、人々に讃えられ、世界の英雄となりました。

その後、彼は愛する家族と共に、いつまでも幸せに暮らしました。……はい、おしまい」


やわらかな声が、小さな部屋に響いた。

夕暮れの光が窓から差し込み、古びた木の床を金色に染める。

女性はベッドの端に腰かけ、膝の上に幼い男の子を乗せながら、一冊の重厚な本を閉じた。

表紙は角がすり切れ、何度も読み返された跡がある。


「……すごい……」

男の子は、目を輝かせて母親を見上げた。

「ねぇ、母さん。僕も、勇者になれる?」

その問いに、女性は優しく微笑んだ。

彼女の目元には、どこか影のようなものが差していたが、それを悟らせぬように首を縦に振る。


「ええ。きっとなれるわ、テオドール。あなたは立派な勇者になる」

「ほんと!?」

嬉しさに頬を赤らめ、男の子は勢いよく膝から飛び降りた。

床に転がっていた木刀を手に取り、小さな胸を張る。


「お母さん、僕は『勇者』になるよ!」


その声は、透き通るように真っすぐだった。

母親はただ微笑み、彼の決意を静かに見つめる。



男の子の物語は、この瞬間から始まった。




………




『勇者』……それは、人々の憧れであり、希望の象徴。

子供たちは誰もが一度はその名を夢に見て、いつか自分もそうなりたいと胸を躍らせる。


けれど、成長するにつれて気付いてしまう。

勇者なんて、おとぎ話の中だけにいる存在だと。

世界を救う英雄なんて、現実にはいないのだと。


それでも、夢を捨てられない者たちがいた。

嘲笑われても、止められても、それでも前を向き続ける者たち。

強く、優しく、逞しく、誰かの為に戦うことを選んだ人たち。


人々の脅威となる『魔物』を討ち、困り事を依頼として受けるその者達を、こう呼ぶ。



『冒険者』と。




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