再認識4話
今日も無理せず、無事に一日を終えられたらいいですね。
無事に一日を終えられたら、悩みや心配を忘れてゆっくりお休みください。
お休みの時間なら、私の作品とともに明日への準備ができることを願っています。
読者の皆様の人生に、私の作品が大きな助けになることはできないかもしれませんが、
少しでも活力の源になれたら嬉しいです。
いつも作品を読んでくださって本当にありがとうございます。
大好きです、読者の皆様。
異形体との激戦の現場にいた者たち。
俺を含め、誰一人として確認に踏み出す勇気を持てなかった。
無理もない。
あの怪物は、これまで何度も立ち上がってきたのだから。
安心して近づいた瞬間、それが再び立ち上がる引き金になるのではないか――
その考えを、この場の全員が抱いていた。
「お、終わったのか……?」
アルドリックは俺の言葉を受け、慎重な足取りで異形体へと近づいた。
もはや原形すら保っていない、肉塊と化した異形体。
俺たちとは異なる蒼い血にまみれたそれに、アルドリックはゆっくりと手を伸ばす。
『ぬちっ』
不快な感触に触れたまま、彼は一度目を閉じ――そして口を開いた。
「どうやら……終わったようだな」
エーテルブレードでも、ここまでの耐久性を示したことは一度もない。
だからこそ、俺にも断言はできなかった。
何度も蘇る怪物など――まるでホラー映画だ。
「ふぅぅぅ……」
俺は大きく息を吐いた。
快適性など欠片もない鋼鉄の塊――コクピットの中で、体を預けるように脱力する。
しばらく呆然としていると、別の方向からエバン少領の張り上げた声が響いた。
「邪教徒が逃げよるぞ、どういうこっちゃあ!」
「臆病者いうことです!」
「つまりは、わしらの勝ちっちゅうことですな!」
「勝利ぃぃぃぃぃ!」
「おおおおおお!」
数時間が数十時間にも感じられた戦いが、ようやく幕を閉じた。
信じ難いこの瞬間に、俺は安堵する。
――だが同時に、理由の分からない不安が胸に残っていた。
『ギィ……ギィ……』
『カチッ』
『もくもく……』
「ここで再使用できるように直すのは……無理だな」
「そう……だろうな」
アルドリックは心底残念そうな表情を浮かべた。
戦闘後、遠征隊は再出発に向けて短時間の整備に入った。
動き出せば揺れる馬車の中での整備は困難になる。
だからこそ、このタイミングで機体の点検と修繕を行う必要があった。
そして俺が目にしたのは、想像を超える光景だった。
「……ひどいな」
全体的に手を入れるどころか、作り直さなければ稼働すら不可能。
完全に焼け落ちた外骨格スーツが、そこにあった。
焦げた匂いが、鼻を刺す。
「はぁ……まあ、不幸中の幸いか」
俺の機体も、コクピットのハッチや装備の一部が損傷している。
とても正常とは言えない状態だ。
(……そもそも正常と言えるのか?)
この機体の本来の意義は――
巨大なフレームが生み出す出力と、大型工具による迅速な障害物排除。
作業効率の向上こそが目的だった。
「親分が手間かけて作ったもんのおかげで、大事には至らんかったな」
「……ああ」
機体に搭載されたマナタンク。
そこに蓄えたマナを使い切った結果、アルドリックは軽いかすり傷程度で済んでいた。
他の騎士たちは打撲や裂傷を負っているというのに。
(もう少し研究が必要だな)
運動性能の向上だけを想定していた機能。
だが予想外の効果に、俺は喜びと同時に不安も感じていた。
(地獄みたいな状況でも、生きている方がまだいい、ってやつか)
自分の作った機械が活躍し、そして壊れた。
それは惜しいが――
人も自然も、そして人の作ったものも、永遠ではない。
執着するほど愚かではないつもりだ。受け入れてはいる。
それでも――
(少しくらいは、惜しいな……)
遠征隊に民間人はいない。
だから泣き叫ぶ声はない。
だが仲間の死は、空気を重く沈ませていた。
今やるべきことは――
軽傷者と重傷者の振り分け。
時間の許す限りの行方不明者の捜索。
そして死者の処理。
一言で言えば“体勢の立て直し”。
だが実際には、膨大な労力と時間を要する。
(俺の担当じゃなくて助かった……)
どれほど大変かは、想像がつく。
それに――俺はまだ十歳の子供だ。
卑怯と言われようが、それが現実だ。
いずれは父フェリクスの後を継ぎ、俺が担うことになるかもしれない。
だが今は、遠征隊の責任者であるエバン少領に任せている。
(それにしても……)
不完全ながら蘇るエーテルブレードの記憶が、ある事実を浮かび上がらせた。
(そういえば……安全機構を付けてなかったな)
いくらソードマスターとはいえ、人間は人間だ。
マナの扱いに長けているだけの存在。
遺伝子改造や人工臓器によって限界を超えた存在とは違う。
それでも、常人から見れば彼らは“超人”と呼ばれる。
だが実態は違う。
(大丈夫なのか……?)
本来なら必要な安全装置――いわばヒューズのようなもの。
それが存在しない。
生身で膨大なマナを受ければ、確実に身体は壊れる。
最悪、死ぬ。
それはエーテルブレードのプレイヤーにとって、
“呼吸しなければ人は死ぬ”のと同じくらい常識だった。
(なら……今のアルドリックは――)
『コン、コン』
「坊っちゃん、ガレックです。お呼びと聞いて参りました」
「入れ」
『ギィ……』
扉が開く。
外で待っていた三人の騎士が、疲労を滲ませたまま馬車へ入ってきた。
(やっぱりな……)
彼らは包帯を巻き、打撲で足取りも重い。
「ほぉ……こりゃあ、えらい広さだな」
「確かに」
「二人とも、無駄口は慎め。坊っちゃんの御前だ」
バンスとロデリックは、外からは想像できない広さに感嘆する。
一方、ガレックはフェリクスと同じように俺を扱い、きっちりと礼を取らせた。
「何か問題でも?」
「いや」
「では、どういったご用件で――」
ガレックの鋭い視線が、こちらへ向けられる。
(やっぱりな……)
つまらない用件で呼び出せば、誰だって気分を害する。
俺は言葉を選び、彼らの機嫌を損ねないよう思考を巡らせた。
次回の話は2026年4月24日(金)午後8時にアップロードされる予定です。
ぜひご覧ください!




