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転生貴族の機械工房  作者: ギムテンリュウ
異形体と復活
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異形体と復活8話

私の作品に貴重なお時間を割いて読んでくださる読者の皆様に、心より感謝申し上げます。

また、皆様のご家庭と、貴方が取り組まれているすべてのことや計画が順調に進み、

さらには幸福と健康に満ちあふれた日々となりますよう、心からお祈り申し上げます。


「ぐぅぅぅぅぅっ!」


『このままでは……すべてが終わる!』


 洪水のように、制御を失ったマナが体内へと流れ込んでくる。

 それは堰を切った濁流のごとく、アルドリックの回路を内側から押し潰さんと暴れ狂っていた。


 時間をかけすぎれば、三人の騎士の命が危うい。

 一刻も早く、この荒れ狂う奔流を鎮めなければならない。


 理解している。

 だが、抑え込もうと意識を強めれば強めるほど、マナは反発するかのように勢いを増していった。


「ぐああああああ……!」


 回路が軋む。

 視界が白く弾ける。


 ――暴走。


 未熟な魔術師や、マナを扱い始めたばかりの剣士がしばしば陥る現象。

 焦りによって招かれる典型的な失敗。


『くっ……くそがああああ!』


 自らそれを引き起こしたという事実が、何よりも屈辱だった。


『はっ……!』


 その瞬間。


 長く黒く沈んでいた記憶が、意識の底から浮かび上がる。


『抑え込もうとするのではない。ただ、流れるままに任せなさい。』


 あの僧侶の声。


『……いつ聞いた言葉だったか』


 激痛の中、意識を保つだけで精一杯のはずなのに。

 その記憶だけは、今この瞬間のために残されていたかのように鮮明だった。


「くそっ!」


 あの日も、アルドリックは必死に剣の鍛錬に打ち込んでいた。


 理論はすぐに理解できた。

 教えも頭の中では整理できていたし、剣の軌道も明確に思い描けていた。


 だが実戦では、頭では完璧に描けているはずの動きが、どういうわけか身体と噛み合わない。

 意識と肉体がちぐはぐにずれ、剣先は理想とはわずかに異なる軌跡を描いてしまう。


 理解できているはずなのに、できない。

 わかっているのに、届かない。


 その事実が、どうしようもなく悔しかった。


 苛立ちを抑えきれず、アルドリックは剣を地面へ放り投げた。


『ガランッ』


 乾いた音が響く。


 そのまま大の字に寝転び、荒い息を吐き出す。


『はぁ……はぁ……』


 やがて、足音が近づいてくる。


『ざっ……ざっ……』


 乾いた土と砂を踏みしめる音。


 だが視線は向けない。

 ここへ来る者は、自分を除けば一人しかいないとわかっていた。


「まだ終わりの刻には早いのではないかのう」


「今日は……少し早く切り上げる」


「思うようにいかぬから、かの」


『ぴくり』


 図星だった。


 恩は感じている。

 だが、遠慮なく踏み込んでくるところだけは、どうにも苦手だった。


「……そうだ」


 短く答える。


 僧侶はそれ以上何も言わない。


 問えば答える。だが、それ以上は踏み込まない。

 すべては自ら掴めという姿勢。


 そのやり方が、当時のアルドリックには気に入らなかった。


 だが――


 やがて胸の奥のざわめきは、雲が流れるように静まっていく。


 日が傾き、さらに時が流れてから、僧侶は再び口を開いた。


「無理に掴もうとしてはおらぬか」


「何の話だ」


「空を見よ。そして、あの雲を」


 ゆっくりと流れていく雲。


 しばらく眺めていると、先ほどまでの苛立ちは自然と薄れていった。


「雲を倉に閉じ込め、逃げぬようにし、己の望むときだけ眺めることはできるかの」


「魔法を使えば可能だろう」


「拙僧が問うておるのは、人の力のみで可能か、ということよ」


 答えはわかっていた。


「……無理だ」


「では、流れる川を流れぬようにできるかの」


 器に入れた瞬間、それはもはや“川”ではない。


「名とは、人が便宜上与えた概念にすぎぬ。自然はただ、あるがままに在る」


 その瞬間、胸の奥で何かがほどけた。


 心も、感情も、苦しみも――

 すべては執着が生み出した影にすぎない。


 名を与え、掴もうとするからこそ、迷いが生まれるのだと悟った。


 流れるままに任せればよい。

 縛られる必要はない。


 翌日から、アルドリックの修練は変わった。


 淀みなく流れる水のように、技もまた自然に伸びていった。


『ただ……流れを……見るだけだ。制御などというものは、最初から存在しない……』


 形を定めることもできぬ変幻自在のエネルギー――マナ。


 それは自分を通って流れるだけのもの。

 支配する対象ではない。


 そう悟った瞬間。


 抑え込もうとする力を、静かに手放した。


「ふぅぅぅ……」


 濁流のように回路を打ち据えていたマナが、次第に勢いを弱めていく。


 やがて――静寂。


 三人のソードエキスパートは、時間を稼ぐため必死に攻防を続けていた。


 終わりなき再生。

 自分たちを凌駕する反射神経と怪力。

 疲労を知らぬ精神。


 まるで越えられぬ壁。


 圧迫感と無力感が、じわじわと体力を削る。


 このまま死ぬのか――


 その瞬間。


『ギラッ』


『ゴオオオオオオオオオ……!』


 大気が震えた。


 一人の人間から放たれているとは到底思えぬ、膨大なマナの奔流。


 その場にいた全員が、それをはっきりと感じ取った。

次回の話は2026年3月15日(日)午後8時にアップロードされる予定です。

ぜひご覧ください!


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