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転生貴族の機械工房  作者: ギムテンリュウ
異形体と復活
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異形体と復活7話

私の作品に貴重なお時間を割いて読んでくださる読者の皆様に、心より感謝申し上げます。

また、皆様のご家庭と、貴方が取り組まれているすべてのことや計画が順調に進み、

さらには幸福と健康に満ちあふれた日々となりますよう、心からお祈り申し上げます。


 マナによって形成された刃。


 それは剣士の肉体の内で精製されたマナを凝縮し、刃として具現化させたもの――オーラブレード。


 魔導工学と並び、アルカンテラという痩せた世界において人類を生き延びさせてきた根幹の力である。

 過酷な環境、絶え間なく襲い来る脅威。その中で人が生存し、さらには繁栄を築くための、効率的かつ実戦的な手段。


 金属の刀身を遥かに凌ぐ鋭さ。

 幾度も鍛えられた鋼をも上回る、研ぎ澄まされた強度。


 そして、それを自在に扱う高度な技術を備えた者たち。


 世間は彼らを総称して――ソードマスターと呼ぶ。

 使い手の段階や流派の違いなど関係なく、その域に達した者への畏称だ。


---


「……あの触手をどうにかできれば、討ち取ること自体は不可能ではないが……」


 重く言葉を落としたのはバンスだった。


「いや、それでも奴は我々より速い。反応も、動きもだ。確実とは言えん」


 冷静に分析するのはガレック。


「このまま……終わりか……」


 ロデリックの声に、焦燥が滲む。


 三人の剣技は一線級。

 しかしそれらをことごとく無効化する異形が、目の前にいる。


 己の技を嘲笑うかのような怪物を前に、騎士たちは慎重に策を練った。


「クハハハハハハッ! 足掻きもそこまでか? 降伏するならば、苦しませぬよう一息で養分にしてやろうぞ!」


『ずるり』


 触手が地面を滑り、湿った音を立てながら迫る。


 三人は絶望を押し殺した視線で怪物を見据えた。


 いくら思案しても、決定的な一手が浮かばない。


 そのとき。


「……皆さん。ひとつ、策があります」


 これまで沈黙を守っていたアルドリックが、静かに口を開いた。


「本当か?」


「そのような手があるなら、もっと早く言うべきだったのではないか……!」


「……存在自体を、忘れていました」


 短い沈黙ののち、ガレックが問う。


「どのような方法です?」


「時間がありません。率直に申し上げます」


 アルドリックは喉を鳴らした。


「一分です。多くも少なくもなく、たった一分だけ時間を稼いでください」


「一分だと? あの怪物を相手にか?」


 ロデリックが目を細める。


 ガレックは静かに続けた。


「成功の見込みは?」


「四割ほど……実戦で用いたことはありません。確証は持てませんが」


 重い沈黙。


「……いいだろう」


 ロデリックは胸甲を軽く拳で叩き、前へ出た。


「こんな面白い大一番に、俺が抜けるわけにはいかないだろう!」


 そのまま怪物へと歩み出る。


 バンスも後に続いた。


「……他に手があるわけでもない」


 剣を握り直し、静かに構える。


「遠征が終わったら、上等な酒を一杯、奢っていただけますか」


 思いがけないガレックの言葉に、アルドリックは一瞬驚いた表情を見せた。


(酒とは無縁だと思っていたが……)


「坊ちゃんから頂いた良い酒がある。それで杯を交わそう」


「そんなものがあるなら、もっと早く言ってくれればやる気も上がったってのに……上がりましたのに!」


 砕けた口調から、最後だけ急に整えられた敬語。

 三人の口元がわずかに緩む。


「長くは持ちません。できるだけ早く」


 ガレックの声。


 アルドリックは強く頷いた。


「最善を尽くします」


 三人は合図もなく、三方向へと散開した。


「ハハハハハッ! 何を企んでいるのか知らぬが、待ちくたびれたぞ!」


 怪物の嘲笑が響く。


 アルドリックは目を閉じた。


『方法が……方法が……』


 焼けつく痛みの中で、思考を巡らせる。


『まだあるはずだ……必ず……』


 太腿に仕込まれた二重安全装置付きのスイッチへと指を伸ばす。


『カチリ』


 確かな作動音。


「……ふう」


 深く息を吸う。


 久しく遠ざかっていたマナの存在が、身体の内に満ちる。


(以前と変わらない)


 機体強化に回した残余のマナを、肉体能力の向上へ。


(経験は消えていない。やれる)


 回路が健在だった頃と同じように、マナを導く。


 だが。


「……っ」


 違和感。


 騎士団を脱出する際に負ったマナ回路の損傷が、完全には癒えていなかった。


 大量のマナが破損箇所を通過するたび、激痛が走る。


『ぐあああああっ!』


『ドンッ!』

『ガキィン!』

『ブンッ!』

『シュアアアッ!』


 三人が必死に時間を稼いでいる音が断続的に響く。


「下等な存在が群れたところで、古き偉大なる神の使徒に傷一つ与えられると思うな!」


 戦況は悪化している。


『このままでは……間に合わない……!』


 アルドリックはさらに出力を引き上げる。


 慎重に流していては遅い。

 流量を増やす。


 しかし。


『まずい……』


 タンクに蓄えられたマナが導きから外れ、制御を離れる。


『止まれ……止まれ……!』


 だが奔流は止まらない。


 暴走したマナが、破損した回路を容赦なく駆け抜けていった。


次回の話は2026年3月10日(火)午後8時にアップロードされる予定です。

ぜひご覧ください!

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