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35話

「おい坊ちゃん! こんな早朝からお会いできるなんて、夢にも思わんかったばい!」


人選で相当悩んだのか、目の下に隈ができたエヴァン少領が、ぼさぼさの顔で俺に近づいてきた。

ガレット卿と喧嘩してた時とは違い、疲労が濃いのに活気がある。


『ズカズカ』


「もうちょい寝とった方がええんちゃうか?」


俺はアルドリックに何か聞こうとしてた直前のことだけ思い出し、少領の質問に答えるため口を開いた。


「ポジウェル家の技術者たちがよくやってくれただろうけど、邪教徒のせいで道の状態がどうなってるかわからないんだ。このくらいの労は当然だろ」


「まだ成人ちゃうけど、立派な考えやなあ。うちのガキどもにも見習わせたいばい」


『ポンポン』


俺は機体を固定するロープを叩いて張りを確かめた。


「坊ちゃんがおるんやから、出発の準備せんといかんばい! 腹はしっかり詰め込んどけよ!」


エヴァン少領の指示が落ちるや否や、周りの兵士と騎士たちが動き出した。

準備万端の者たちは軽く食事を始めた。

湯気の立つスープと焼きたてのパンを食べる者もいれば、

温水と肉干しで腹を満たす者もいた。

だがその中で一際目立つのは、ある騎士だった。


「いつ戦うかわからんのに腹はしっかり満たしとかなきゃ!」


「ほどほどに食えよ、動けなくなったらただじゃおかんぞ」


「心配すんな!」


「はあ……まったく」


朝から厨房の連中をこき使ったのか、前日から頼んでおいたのか、騎士はテーブル上の鉄板ステーキを食らっていた。

どれだけ熱いのか、ステーキから流れ出た肉汁と油がまだグツグツ煮立っていた。

騎士は数日飢えた人間のように、無我夢中でステーキを吸い込んでいた。


『頼もしいな』


これから死地へ向かうとは思えんほど平穏だ。

俺は以前、少し疑っていた。

精神という人間の内面に存在する見えない資産は、訓練を通じても結局個人が自ら備えを固める以外に手はない。

地球で、人類の歴史が始まって以来戦争は絶えず、精神の備えができなかった者たちは虚しく死んでいった。

備えをした者が生き残るかと聞かれれば、それは保証できない。

だがここにいる者たちは確実に質が違う。

前世の地球で見た残酷で人性欠如した者たちとは格が違う強靭さを備えていた。


『ズカ』


不安など微塵も感じない現場の雰囲気を肌で感じている俺のそばに、部下たちに母親みたいに小言を言っていたエヴァン少領が来て言った。


「坊ちゃん、もしやと思って言うけど、遠征参加は考え直せんか?」


「領主である父上が決めたことを俺が……あ!」


俺はエヴァン少領の目に浮かぶ感情を読んだ。

彼は戦いが怖いんじゃない。


『そうだ、他人の命を背負うのは怖いことだ』


部下たちの命を預かるのはエヴァン少領にとって常のことだ。

だが俺は別格だ。

現代で言うなら社長の息子の命を預かるようなもの。

落ち着けるはずがない。

俺はエヴァン少領の不安を少しでも払うため口を開いた。


「エヴァン少領の思いはよくわかった」


「ほんまに賢いなあ!」


「ガレット卿が代わりに行く状況でもないし、父上も許可を出したんだ。心配はいらない」


「遠征は遊びちゃうばい! 邪教徒はポジウェル家の人間みたいに優しくないばい!」


「心配すんな、俺の身一つくらい十分守れるよ。それに……」


エヴァン少領は信じられないという顔で眉をひそめて言った。


「他に何があるんやがね?」


「俺の剣術師範兼護衛であるソードマスターのアルドリックもいるんだ、心配しなくていいってことだ」


その言葉を聞いたエヴァン少領は驚いてその場で飛び上がった。


「それ本当か!?」


俺は答える代わりに軽く頷いた。

するとエヴァン少領はアルドリックを頭のてっぺんからつま先まで、髪の毛一本から汗の穴までくまなくチェックした。


「うむ……ああ、わかったよ。でも指揮官である俺の指示は従ってくれよ、危ないところには行かんようにせんとな」


「わかった」


非専門家の俺が出る幕はないので、俺は快く頷いて肯定した。

だがエヴァン少領は俺の答えを聞いても納得がいかないのか、俺とアルドリックを少し見てから渋々戻っていった。


『軽く食べておかないとな』


要塞に来る日、車酔いで食べたものが何だったか嫌でも確認できそうなくらい馬車は激しく揺れた。

また車酔いで被害を受けたくないので、俺は軽く朝食を済ませた。

そうして予定外の旅路、冒険が始まった。


「出発!」


エヴァン少領の力強い声とともに行列がゆっくり前へ進む。

まだ人の匂いがする場所と森の新鮮で爽やかな空気が感じられる境界をゆっくり越えて前へ進む。


『コクン』


父上であるフェリックスが護衛と共に俺の姿を見に、見送りに城壁の上に出ていた。

俺は他の言葉なく頷き、父上も応えてくれた。

厚い信頼を感じながら、俺は小さく見えるまで馬車から風景と父上を眺めた。


『要塞の外は危険だって聞いたけど……』


俺は以前、邪教徒が要塞の外に陣を張ってる話を思い出した。

理解できないという視線で外の風景を眺めていると、アルドリックが言った。


「遠征隊が出発する前に作戦を展開したって聞いたぞ親分」


「いつだ?」


「昨日か一昨日だったかな……」


俺は頭の中に湧き上がる疑問を抑えるのがとても難しかった。


「跡形もなくきれいに、普通一日で片付くほど簡単なことか?」


「歳に合わない観察力だな親分。でも俺は聞いたまま伝えるだけだ。あいつらが俺に嘘をつく理由はないよ」


人が集まって集団を作ったときの力、その凄さを肌で感じながらも馬車と行列はどんどん前へ進んだ。

私の作品に貴重なお時間を割いて読んでくださる読者の皆様に、心より感謝申し上げます。

また、皆様のご家庭と、貴方が取り組まれているすべてのことや計画が順調に進み、

さらには幸福と健康に満ちあふれた日々となりますよう、心からお祈り申し上げます。

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